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ボーダーフリー  作者: ちゃりネコ


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23/27

続、林間合宿の一幕 

 怒り心頭のエルーから脱兎のごとく逃げ出したことで、どうにか一命をとり留める。

 息が切れるまで走った先で、木陰に佇むラルヴァに声をかけた。


「やあ、こんなところで何をしてるの?」

「本」


 極端に無口な少年はそう言うと、持っていた本を見せてくれた。


「んー? 『魔王回顧録 2千年の軌跡』……随分と難しい本を読んでるんだね」

「そうでもない」


 ブロンドの艶髪が小風に揺れ、宝石と見紛う瞳は同姓をも魅了する。

 今まで話す機会がなかったのは、単に彼が無口なだけではない。

 同じ金髪のラルヴァに対して、心のどこかで気後れしていたのだ。

 まるで、 " 自分は偽物の西洋人みたいだ ” と。


「変」

「え、何がだい?」

「全部」


 やべぇ……年下の男の子に面と向かって言われるのキツイ。

 実際にはラルヴァの方が年上だろうし、金髪と言われるのも慣れているけどね。


「気にしないでくれたまえ。彼に悪気はないのだから」

「グリムフォード、君の方から話しかけてくるだなんて珍しいね」


 いつの間にか側に立っていたのは、常にカボチャの被り物をした少年、グリムフォード・デ・ラ・ボア・ヘイルゲーツ。

 2人は歳が近い為か、教室でも度々一緒に居るのを見かける。

 よほど仲が良いのかと思いきや、会話しているのを見たことがないという、ちょっと変わったコンビだ。


「前々から気になってたんだ。そのカボチャってファッションなのかい?」

「まぁね。ファッションであり、魔界伝統の(まじな)いであり、特に意味はない趣味だったりするのさ」

「へ、へぇ~。そうなんだぁ……」


 彼はヘンリー以上の変人気質で、話しかけても掴み所がない人物として知られている。

 その一方で戦闘はスマートかつ大胆にこなし、負傷や苦戦している場面は見たことがない。


「ミステリアスな男性は魅力的だろう? 君も精進したまえ」

「あ、はい。ご指導ご鞭撻(べんたつ)、ありがとうございました……」


 こうして毎回、(けむ)に巻かれてしまう。

 頼りの直感も、彼の前では妙に鈍って使い物にならない。

 本当にミステリアスが服を着て歩いているような、そう錯覚させる男なのだ。


「ここか、天涯(てんがい)

「何かあったのか?」


 実はラケルが女だということが判明して以来、話す機会が減っていた。

 これは全面的に俺が悪いのだが、当初は男だと思い込んでいた為、気持ちのリセットが追いついていないのが原因だ。


「うむ。最近、話す機会が少ないと思っていてな」

「あー、おぉ、そうだっけかなー?」


 ここにきて、思いっきりコミュ障が再発してしまった。

 こちらから話そうと考えていただけに、機先を取られて盛大に焦る。


「思い違いかもしれないが、私に何か落ち度があったなら言ってほしい」

「い、いやいやいやいや! そんなことはないぞぉ!」


 時々思うんだ。

 お前は内面までイケメンなのかと。

 ウジウジ悩んでいる自分がアホみたいに思えてならず、ストレートで誠実な物言いに嫉妬(しっと)すら覚える。


「そうか、お前は忌憚(きたん)ない意見を交わせる稀有な存在だ。それこそ、友と呼べるほどにな」

「え、お……おぉ」


 マジにイケメン過ぎて()れそうになるだろ!

 断っておくが、別に女嫌いとかではない。

 ただ、男の俺以上に格好よすぎて、隣にいると肩身が狭いだけだ。

 ……本当に情けねぇ。


「そ、それより今夜で合宿は最後だろ。ラケルはクラスリーダーなんだから、あんま細かいことを気にし過ぎるなよ」

「分かっている。お前が皆に声をかけてくれていることもな。私が同じようにすると、何故か上手くいかないんだ」

「そりゃ、お前がイケメ――か、堅いんだよ! もっと肩の力を抜け」

「堅い……か。貴重な意見、感謝する」


 会話の最後まで、ラケルは堅物のままだった。



 ◇◇◇

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