続、林間合宿の一幕
怒り心頭のエルーから脱兎のごとく逃げ出したことで、どうにか一命をとり留める。
息が切れるまで走った先で、木陰に佇むラルヴァに声をかけた。
「やあ、こんなところで何をしてるの?」
「本」
極端に無口な少年はそう言うと、持っていた本を見せてくれた。
「んー? 『魔王回顧録 2千年の軌跡』……随分と難しい本を読んでるんだね」
「そうでもない」
ブロンドの艶髪が小風に揺れ、宝石と見紛う瞳は同姓をも魅了する。
今まで話す機会がなかったのは、単に彼が無口なだけではない。
同じ金髪のラルヴァに対して、心のどこかで気後れしていたのだ。
まるで、 " 自分は偽物の西洋人みたいだ ” と。
「変」
「え、何がだい?」
「全部」
やべぇ……年下の男の子に面と向かって言われるのキツイ。
実際にはラルヴァの方が年上だろうし、金髪と言われるのも慣れているけどね。
「気にしないでくれたまえ。彼に悪気はないのだから」
「グリムフォード、君の方から話しかけてくるだなんて珍しいね」
いつの間にか側に立っていたのは、常にカボチャの被り物をした少年、グリムフォード・デ・ラ・ボア・ヘイルゲーツ。
2人は歳が近い為か、教室でも度々一緒に居るのを見かける。
よほど仲が良いのかと思いきや、会話しているのを見たことがないという、ちょっと変わったコンビだ。
「前々から気になってたんだ。そのカボチャってファッションなのかい?」
「まぁね。ファッションであり、魔界伝統の呪いであり、特に意味はない趣味だったりするのさ」
「へ、へぇ~。そうなんだぁ……」
彼はヘンリー以上の変人気質で、話しかけても掴み所がない人物として知られている。
その一方で戦闘はスマートかつ大胆にこなし、負傷や苦戦している場面は見たことがない。
「ミステリアスな男性は魅力的だろう? 君も精進したまえ」
「あ、はい。ご指導ご鞭撻、ありがとうございました……」
こうして毎回、煙に巻かれてしまう。
頼りの直感も、彼の前では妙に鈍って使い物にならない。
本当にミステリアスが服を着て歩いているような、そう錯覚させる男なのだ。
「ここか、天涯」
「何かあったのか?」
実はラケルが女だということが判明して以来、話す機会が減っていた。
これは全面的に俺が悪いのだが、当初は男だと思い込んでいた為、気持ちのリセットが追いついていないのが原因だ。
「うむ。最近、話す機会が少ないと思っていてな」
「あー、おぉ、そうだっけかなー?」
ここにきて、思いっきりコミュ障が再発してしまった。
こちらから話そうと考えていただけに、機先を取られて盛大に焦る。
「思い違いかもしれないが、私に何か落ち度があったなら言ってほしい」
「い、いやいやいやいや! そんなことはないぞぉ!」
時々思うんだ。
お前は内面までイケメンなのかと。
ウジウジ悩んでいる自分がアホみたいに思えてならず、ストレートで誠実な物言いに嫉妬すら覚える。
「そうか、お前は忌憚ない意見を交わせる稀有な存在だ。それこそ、友と呼べるほどにな」
「え、お……おぉ」
マジにイケメン過ぎて惚れそうになるだろ!
断っておくが、別に女嫌いとかではない。
ただ、男の俺以上に格好よすぎて、隣にいると肩身が狭いだけだ。
……本当に情けねぇ。
「そ、それより今夜で合宿は最後だろ。ラケルはクラスリーダーなんだから、あんま細かいことを気にし過ぎるなよ」
「分かっている。お前が皆に声をかけてくれていることもな。私が同じようにすると、何故か上手くいかないんだ」
「そりゃ、お前がイケメ――か、堅いんだよ! もっと肩の力を抜け」
「堅い……か。貴重な意見、感謝する」
会話の最後まで、ラケルは堅物のままだった。
◇◇◇




