林間合宿の一幕
エルーとドリアドネ、そして雪影の戦線復帰によって、俺達は無事に6日目を乗り切った。
地獄の林間合宿も残すところ、今夜が最後。
合宿の目的だった魔力強化は想像以上の効果を生み、候補生達は見違えるほどの成長をみせる。
基礎的な身体能力の向上に加え、魔力を使用する特殊能力も軒並みレベルアップしていた。
「まぁ、それでもお前は弱いけどにゃ~♪」
「ほっとけ。それよか、気づいてるか? 敵の数も、強さも、初日に比べて段違じゃね?」
2日目に現れたズルツェは翌日3体に増え、6日目の昨日は10体の団体様だ。
その分、得られる魔力も多かったのだが、最終日の今夜は何体お越しになるのか予想もしたくない。
「せめて予約しろってんだ。おもてなしする方の身にもなれよ」
「あっちも忙しくて過労死するにゃー」
「いや、お前はもっと働けよ。このクソニート猫妖怪」
恒例の煽り合戦を終え、拠点の見回りを兼ねて皆に声を掛けておくとしよう。
「スケさんにデュランのおっさん、調子はどうだい?」
「……不死者の体調を気遣うか、小僧」
「はは、確かに余計なお世話だったな」
聞けば不死者に属する魔者は、痛覚を捨てた代償に肉体を修復する術がなく、他者の身体に乗り移ったり、部分的にを補わなければ存在できないらしい。
文字通り不老不死に近い反面、戦えば戦うほど、元の姿からは遠ざかる運命なのだ。
「武道を極めんとする我輩らにとって、そのような事柄は些事なり」
「いつも最前線に立ってくれてるもんな。おかげで助かってるぜ」
大太刀を扱うスケさんは失った両腕をゾンビの骨で補った結果、今では4本腕の三刀流剣士に変貌を遂げた。
デュランは度重なる激戦で鎧が破損した為、全身の皮膚に直接金属プレートを埋め込んでいる。
痛覚を超越した種族特有のパワーアップには、心底驚かされるばかりだ。
「よぉ、ちょっといいか」
「どうしたヘンリー。禁欲生活が長すぎて、とうとう俺が女に見えたか?」
「んなワケあるか! お前から教わった秘薬の作り方だけどよ、調合ピーキー過ぎじゃね? あんなの作れる気がしねーよ」
「そりゃ秘薬だからな。大丈夫だって、お前なら絶対にやれる! 上手くいったら、次は惚れ薬の作り方を教えてやる」
「マジかよ! それこそ夢の秘薬じゃねーか!」
嘘である。
しかし、在るはずのない物を求め、奔走する青年の姿は実に美しい。
ヘンリーは大急ぎで拠点へ戻り、秘薬の調合に没頭した。
あの様子なら、今夜の襲撃に間に合うだろう。
「あの……」
「エルー、昨日も大活躍だったな。君がいれば怖いものなしだぜ!」
「あ、ありがとう」
連日に渡って巨大ゾンビ、腐肉喰を圧倒する少女エルー。
物静かで引っ込み思案な性格に反して、カトブレパスの能力は凶悪の一言に尽きる。
彼女が持つ石化の魔眼は、条件さえ満たせば一撃必殺の威力を誇るのだ。
「その……実はちょっと困ってて……」
「なになに? 君には助けられっぱなしだからさ、遠慮なく言ってよ」
「うん、それが……どうしても合わなくて」
ヤバイ――もしや、候補生の誰かとトラブったのか?
あるいは、ついにヘンリーが手を出したとか?
だとしたら、あいつを犠牲にしてでも……。
「いただいた下着のサイズが……合わなくて……」
「あ、そっちか。林間合宿が終わったら、もっと大きいのを探しておくよ」
「……!」
エルーの瞳に魔力が宿る。
全身に鳥肌が立ち、うっかり地雷を踏みつけた自分の愚かさを呪う。
「ちょ! あー、あー、用事を思い出したー! ゴメーン、それじゃー!」




