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ボーダーフリー  作者: ちゃりネコ


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21/27

少女が顔をあげる時

「遅ぇぞ天涯(てんがい)!」

「あれだけのトラップがもう突破されてんのかよ! マジに初日より多いじゃん!」


 正面玄関には複数のゾンビが入り込み、頼みのラケルは大群の侵入を防ぐだけで手一杯。

 拠点の補強やトラップの設置など、初日よりも入念な準備をしたにもかかわらず、あっさりと侵入を許してしまう。


「昨夜の倍――いや、3倍はいるぞ!」

「ちょい読みが甘かったかもな……」

「言ってる場合じゃねぇ! 次が来てんぞ!」


 ゾンビは文字通り、大地を埋め尽くすほどの数で押し寄せ、撃退する度に勢いを増しているように思える。

 ヘンリーと一緒に設置した手榴弾トラップは、既に100体近い撃退に成功していた。

 しかし、第3波が襲来する頃には他のトラップも含め、殆どが使い潰されてしまったのだ。


「構うか! こっからは気合いで乗り切りゃいーんだろ!」

「結局、根性論かよ! 俺が死んだら、毎夜美女の枕元に化けて出るからな!」

「死んだ後も、このバカがやってるこたぁ変わんねぇ!」


 大型ハンマーの2本持ちで窓際のゾンビを()ぎ払い、水際で侵入を食い止めた。

 気のせいか、昨日よりもハンマーが軽いように感じる。


「来いよ、どんどん来い!」

「……やるではないか小僧」

「我輩らも奮起すべし!」


 スケさんとデュランは息の合った連携をみせ、勢いを増すゾンビの群を圧倒する。

 2階から投擲(とうてき)される手榴弾の援護もあって、徐々に余裕が生まれつつあった。


「各員、死にたくなければラルヴァの魔法間隔に気を配れ! ラルヴァは敵を引き付け、最大効率で魔法を放て!」

「よっしゃ、これなら朝までもちそうだぜ」

「ああ、やっぱ魔力の強化が効いて――待て、何だ……地震?」


 老朽化したコンクリートの床が震え、真っ白な埃が舞い落ちる。

 指向性を持った振動は徐々に大きくなり、募りゆく嫌な予感は闇兎(やみうさ)の報告で確信へと変わった。


「じゅ……12時! 12時の方角からキモデカイのが来てる!」

「デカイ? それってよぉ、まさか……」


 突然、轟音と共に拠点の一角が崩れ、ゾンビよりも醜悪な化物が姿を現す。

 そいつは数十体のゾンビをまとめて煮詰め、半透明の粘液で雑に固めたような奴だ。


腐肉喰(ズルツェ)だと!? 本来は洞窟や迷宮を好む魔獣が、こんな場所で生息しているはずがない!」

「知るかよ! どうすりゃいい!? どうやって倒すんだ!?」


 粘液まみれの化物は直立すると、拠点とほぼ同じ高さに達していた。

 ラケルが状況を呑み込むよりも早く、崩れた大穴からゾンビの群れが押し寄せる。


「と、とにかく穴を塞げ!」

「くそったれが! 俺が引き付けてる間に塞いでくれ!」

「あー、こーれは死ぬかもにゃ~」


 バカ猫がさっさと2階に避難すると、1階は半ばパニック状態に陥った。

 猫の手も借りたいというのに、真っ先に逃げるとかあり得ねぇ!


「……デュラン」

「言葉は不要! 我ら、これより死地に向けて突撃する所存なり!」

「ま、待て! 戻れ!」


 スケさんとデュランは止めるのも聞かず、ズルツェに向かって突っ込んでいく。

 両者の振るう大太刀と斧が肉を切り裂き、骨を両断する。

 それでも規格外の巨体には効果が薄く、物理的な破壊を得意とする両者とは相性がよいとは言えず、身を挺しての時間稼ぎだということは明白。

 最前線を担う彼らがズルツェと戦う間、拠点は一進一退の攻防が続く。


「今のうちに穴を塞ぐんだ!」

「駄目だ……破損が大きすぎる! 資材もねぇ!」


 背後ではスケさんが捨て身の特攻を繰り返し、デュランは強烈な一撃で壁に叩きつけられていた。

 時間も資材もない中、皆の胸中に確信めいた絶望が忍び寄る。

 そして、運命の分岐点は静かに、さらに劇的な形で訪れた。


「随分と賑やかね。おちおち寝てもいられないじゃない」

「私も……戦う……よ」


 拠点に一陣の風が吹き荒れ、一瞬にしてゾンビの氷像が乱立する。

 ぽっかりと空いた大穴は(うごめ)く樹木が被い、瞬時に敵の侵入を阻む。

 思いもしなかった援軍に、折れかけた戦意が再び燃え上がるのを実感した。


「雪影! それにドリアドネも!」

「おっと、まだ真打ちを残してあるんだ」


 その小さな一歩は、彼女にとって決して簡単なものではなかったはずだ。

 しかし、勇気をもって踏み出した一歩が、皆の運命を繋ぎ止めた。


「魔眼を使います! 皆さん、目を閉じて!」


 その瞬間、世界が静止したのかと錯覚した。

 全ての音が消し飛び、まるで写真の中に閉じ込められたような感覚を味わう。

 躊躇(ためら)いがちに目を開けると、まさに世界が一変していた。


「…………お、おいおい……マジっすか」

「……ははっ、こりゃ……たまげたね」


 視界に収まる全ての敵が動きを止め、物言わぬ石となり果てていた。

 当然、見上げるほどの巨体を誇るズルツェであっても例外ではない。


「やれやれ、言いくるめるのに苦労したにゃ~」

「ありがとう、酔虎(スイコ)さん。私、あのままだったら……きっと後悔していたと思う」


 エルーは見違えるような笑顔を浮かべ、ついに戦うことを決意した。

 頼もしい女性陣のお陰で2日目を乗り切り、俺達の士気は天を突く勢いでブチ上がった。



 ◇◇◇

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