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ボーダーフリー  作者: ちゃりネコ


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20/27

ゾンビの襲撃に備えよ! 第2幕

 午後になる頃、ようやく拠点に戻ってこれた。

 皆の頑張りによってコンクリートの拠点は要塞化され、周囲はトラップで埋め尽くされている。


「ヘンリー、随分と気合いを入れてくれたんだな。ありがとうよ」

「エレガントに欠ける外観はホテル向きじゃねーがな。そっちはどうだった?」

「俺達? 水浴びと廃墟の探索に行っただけだよ」

「はぁ? お前……まぁいいや。まだ少しだけ時間が残ってるぜ」

「ちょうどいい。コイツの設置を手伝ってくれ」

「なんだこりゃ?」


 ヘンリーは不思議そうな顔で手渡したブツを眺め、石を投げるように捨てた。


「おいいいい! もっと丁寧に扱え馬鹿野郎!」

「はぁ? 意味わかんねぇよ」


 魔者が見たことのない道具を軽視するのは仕方がない話だ。

 入念に注意事項を伝え、時間一杯まで設置を行う。

 うまくいけば、2日目も乗り切れるだろう。

 全ては事前の準備にかかっているのだから――。



 ◇◇◇



「どうだった?」

「ああ、ちゃんと渡しておいたぞ」


 バッテリーが残り僅かとなったスマホ画面には、役に立たなくなったアプリと共に、18時の文字が浮かんでいた。

 拠点の外は夜の(とばり)に包まれ、欲望に飢えた亡者が甦る時刻だ。


「昨日はとにかく時間がなかったけど、今夜は準備万端だぜ」

「決して侮って突出するな。各自、相互の連携を意識しろ」


 ラケルの的確な指示が飛び、それぞれの防衛ポイントで開戦の時をじっと待つ。

 誰もが息を潜め、互いの視線が交錯する。


「来たよ! 2時、6時、9時の方角!」


 闇兎(やみうさ)の的確な報告によって、指定された三方に遊撃要員が集まる。


「いいか、合図するまで絶対に窓から顔を出すなよ!」

天涯(てんがい)さんよ、本当に上手くいくのか?」

「まぁ、楽しみにしてろ」


 トラップの名手であるヘンリーは見慣れない形式に戸惑っていたが、ゾンビ相手には滅法効果的なはずだ。

 やがて、膨大な数の足音が押し寄せる。


「来てるぞ……多い……多いな……ちょ、多すぎだろ!」

「こんな小せぇ拠点(はこ)に入りきれるかよ! 今夜のパーティは中止――」


 直後、拠点の外で爆発!

 2つ、3つ、4つ……次々と連鎖する爆発に、候補生の誰もが首を傾げる。


「誰が魔法を使っている!? 突出するなと言っただろう!」

「ラルヴァさんよ、あんたの魔法かい?」

「僕じゃない」


 魔法に必須の魔方陣もなく、敵の侵入に応じて自発する罠など聞いたこともないという。

 ザワつく候補生に向けて、新型トラップのタネ明かしを披露する。


「よぉ~し、こっからは俺達のターンだぜ!」


 鋳鉄(ちゅうてつ)製の塊からピンを引き抜き、ゾンビの群れに向けて全力投球を叩き込む。

 2階の窓を始点に投擲(とうてき)された物体は、理想的な放物線を描き、群れの中央で爆発した。


「おお! いつの間に魔法を覚えたんだ!?」

「魔法じゃねぇ。これは人間が使う対人兵器、 “ 手榴弾 ” だ」


 昼間の探索で発見した時、自分の目を疑った。

 映画でしか見たことのない兵器を前に、早く使いたくて興奮を抑えられなかったのだ。

 一緒にいたラケルには引かれてしまったが……。


「使い方は簡単。レバーを持ったまま、ピンを抜いて投げろ。数秒後に “ ドカン ” さ」

「持って、抜いて、投げる――すご! 面白ーい!」

「大丈夫かよコレ。なんつーか……物騒だな」


 意外と言うべきか、未知の兵器に対して明確に意見が分かれた。

 好奇心旺盛な闇兎(やみうさ)はゲーム感覚で手榴弾を扱い、次々と戦果を上げている。

 一方、トラップに精通したヘンリーや魔法使いのラルヴァは、爆発する理屈が分からず手に取ろうともしなかった。


「2階は任せた。俺達は1階を守るぞ!」

「あ、あの……」


 階段を降りる直前、思い詰めた顔のエルーが話しかける。


「どうしたの? 君も1階に行くのかい?」

「その……()()を……持ってきてくれたって……ラケルさんに……」


 エルーが言っているのは、ラケルを通じて渡した矯正(きょうせい)下着(ブラジャー)のことだ。

 悩みの体型を美しく整え、多少の運動も可能になったことで、(うつむ)きがちな姿勢も改善したように見える。


「初めは着け心地に違和感があるかもだけど、そのうち慣れると思うよ。けど、今はね」

「うん、それだけ言っておきたくて……」


 引っ込み思案なエルーにとって、異性に礼を言えるようになっただけでも大きな進歩だと思う。

 しかし、彼女は自信がないと言って、戦闘には参加しなかった。


「続きは俺が生きてたら聞かせてもらうよ」

「そんな……」


 エルーは絶句した様子で立ち尽くす。

 階下では既に戦闘が始まっており、援護を求める声が届く。


「じゃあな、行ってくる!」


 それっきり振り向くことなく、正面玄関へ駆け出した。

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