ゾンビの襲撃に備えよ! 第2幕
午後になる頃、ようやく拠点に戻ってこれた。
皆の頑張りによってコンクリートの拠点は要塞化され、周囲はトラップで埋め尽くされている。
「ヘンリー、随分と気合いを入れてくれたんだな。ありがとうよ」
「エレガントに欠ける外観はホテル向きじゃねーがな。そっちはどうだった?」
「俺達? 水浴びと廃墟の探索に行っただけだよ」
「はぁ? お前……まぁいいや。まだ少しだけ時間が残ってるぜ」
「ちょうどいい。コイツの設置を手伝ってくれ」
「なんだこりゃ?」
ヘンリーは不思議そうな顔で手渡したブツを眺め、石を投げるように捨てた。
「おいいいい! もっと丁寧に扱え馬鹿野郎!」
「はぁ? 意味わかんねぇよ」
魔者が見たことのない道具を軽視するのは仕方がない話だ。
入念に注意事項を伝え、時間一杯まで設置を行う。
うまくいけば、2日目も乗り切れるだろう。
全ては事前の準備にかかっているのだから――。
◇◇◇
「どうだった?」
「ああ、ちゃんと渡しておいたぞ」
バッテリーが残り僅かとなったスマホ画面には、役に立たなくなったアプリと共に、18時の文字が浮かんでいた。
拠点の外は夜の帳に包まれ、欲望に飢えた亡者が甦る時刻だ。
「昨日はとにかく時間がなかったけど、今夜は準備万端だぜ」
「決して侮って突出するな。各自、相互の連携を意識しろ」
ラケルの的確な指示が飛び、それぞれの防衛ポイントで開戦の時をじっと待つ。
誰もが息を潜め、互いの視線が交錯する。
「来たよ! 2時、6時、9時の方角!」
闇兎の的確な報告によって、指定された三方に遊撃要員が集まる。
「いいか、合図するまで絶対に窓から顔を出すなよ!」
「天涯さんよ、本当に上手くいくのか?」
「まぁ、楽しみにしてろ」
トラップの名手であるヘンリーは見慣れない形式に戸惑っていたが、ゾンビ相手には滅法効果的なはずだ。
やがて、膨大な数の足音が押し寄せる。
「来てるぞ……多い……多いな……ちょ、多すぎだろ!」
「こんな小せぇ拠点に入りきれるかよ! 今夜のパーティは中止――」
直後、拠点の外で爆発!
2つ、3つ、4つ……次々と連鎖する爆発に、候補生の誰もが首を傾げる。
「誰が魔法を使っている!? 突出するなと言っただろう!」
「ラルヴァさんよ、あんたの魔法かい?」
「僕じゃない」
魔法に必須の魔方陣もなく、敵の侵入に応じて自発する罠など聞いたこともないという。
ザワつく候補生に向けて、新型トラップのタネ明かしを披露する。
「よぉ~し、こっからは俺達のターンだぜ!」
鋳鉄製の塊からピンを引き抜き、ゾンビの群れに向けて全力投球を叩き込む。
2階の窓を始点に投擲された物体は、理想的な放物線を描き、群れの中央で爆発した。
「おお! いつの間に魔法を覚えたんだ!?」
「魔法じゃねぇ。これは人間が使う対人兵器、 “ 手榴弾 ” だ」
昼間の探索で発見した時、自分の目を疑った。
映画でしか見たことのない兵器を前に、早く使いたくて興奮を抑えられなかったのだ。
一緒にいたラケルには引かれてしまったが……。
「使い方は簡単。レバーを持ったまま、ピンを抜いて投げろ。数秒後に “ ドカン ” さ」
「持って、抜いて、投げる――すご! 面白ーい!」
「大丈夫かよコレ。なんつーか……物騒だな」
意外と言うべきか、未知の兵器に対して明確に意見が分かれた。
好奇心旺盛な闇兎はゲーム感覚で手榴弾を扱い、次々と戦果を上げている。
一方、トラップに精通したヘンリーや魔法使いのラルヴァは、爆発する理屈が分からず手に取ろうともしなかった。
「2階は任せた。俺達は1階を守るぞ!」
「あ、あの……」
階段を降りる直前、思い詰めた顔のエルーが話しかける。
「どうしたの? 君も1階に行くのかい?」
「その……あれを……持ってきてくれたって……ラケルさんに……」
エルーが言っているのは、ラケルを通じて渡した矯正下着のことだ。
悩みの体型を美しく整え、多少の運動も可能になったことで、俯きがちな姿勢も改善したように見える。
「初めは着け心地に違和感があるかもだけど、そのうち慣れると思うよ。けど、今はね」
「うん、それだけ言っておきたくて……」
引っ込み思案なエルーにとって、異性に礼を言えるようになっただけでも大きな進歩だと思う。
しかし、彼女は自信がないと言って、戦闘には参加しなかった。
「続きは俺が生きてたら聞かせてもらうよ」
「そんな……」
エルーは絶句した様子で立ち尽くす。
階下では既に戦闘が始まっており、援護を求める声が届く。
「じゃあな、行ってくる!」
それっきり振り向くことなく、正面玄関へ駆け出した。




