つかの間の休息
「おい、生きてるよな?」
「死ぬほど疲れちゃいるが……まぁな」
疲労でふらつく足腰に気合を入れ、裏口を任せたグループの様子を見に行くと、負傷した雪影が横たわっていた。
「怪我をしたのか。具合はどうだ?」
「最悪。腕にゾンビの歯形がついたわ」
「……それ、歯形どころじゃねぇだろ」
真っ黒に変色した腕は半分近くが喰い千切られ、ひどく化膿していた。
幸い意識はしっかりしており、ドリアドネが用意した薬のおかげで大事には至らないとの事だ。
しかし、それでも傷が癒えるまで戦線離脱は免れないだろう。
しばらく見かけなかった羊子も水や食糧を配るなど、精一杯のサポートを行っている。
他にも数名の候補生が拠点の修復で忙しく立ち回る中、エルーの姿が見えないことに気づく。
「2階か?」
崩れかけた階段を上った先、殺風景な部屋の奥にエルーはいた。
彼女はいつも物憂げな顔を俯かせ、会話をする時も滅多に目を合わそうとしない。
最初は嫌われているのかと思ったが、誰に対しても同じように接しているらしい。
「どこか痛むのか」
「……」
ヤッベ、めっちゃ気まずいぞ。
今までエルーと話す機会がなかったので会話のツボが分からず、どうやって話題を切り出すのか悩んでしまう。
しばらく独り言みたいに喋っていると、ようやく反応してくれた。
「……怒ってる……よね」
「え、なんで?」
「……」
正直、会話が続く気がしない。
それでも自分のコミュ力を奮い立たせ、言いかけていた言葉を必死に繋ぐ。
「いやいや、怒ってないよ。つーか、誰も怒ってないだろ?」
「私、全然役に立ってないから……だから……」
「あー、その……俺は超ド田舎から来たもんだからさ、いまいち分からないことも多いんだ。君、カトブレパスなんだよね? どんな能力があるのかな?」
青森の僻地出身なので嘘はついていない。
エルーは色白な肌を真っ赤に染め、胸元を隠すようにして腕を置いた。
「魔眼……石にするの……」
「マジで? すげぇじゃん! その能力があればゾンビの群も楽勝だぜ!」
「……」
そこで黙っちゃう?
彼女は称賛の言葉をスルーしたまま、小柄な身体を窮屈そうに縮める。
その時、俺は気づいてしまった。
ボサついた髪に隠れた童顔とは不釣り合いな、大きいと表されるレベルを遥かに凌駕する巨大な胸に。
しかも、ダボっとした上着が縦横に揺れ動く様子から、予想される結論は――ノーブラ?
「あー、あれだ、もしかしてだけど……」
「……!」
大きな胸が邪魔をして戦えないなど、クラスメイトの男子に言えるはずがない。
常に猫背で俯きがちなのも、腕を前に置いているのも、全ては巨大な胸を隠す為。
エルーは赤い顔をますます赤らめ、それっきり会話が途切れてしまった。
◇◇◇
エルーには少し休むように伝え、逃げるようにして1階へ戻る。
石化の魔眼を持つ彼女が戦線に加わってくれれば、全員が生きて学園に帰れるかもしれない。
ゾンビの襲撃に備えると共に、悩みの種を解決する手段を考えなければ……。
「戻ったのか、天涯」
「おっと、済まねぇな――って、その格好はどうしたんだよラケル!?」
「ふむ、こう見えても負傷はしていないので心配無用だ」
ラケルは全身に返り血と肉片を浴び、赤く染まっていない部分を探す方が難しいほど汚れていた。
「ひっでぇな。俺はこの辺りの地理に詳しいからさ、使えそうな道具を探すついでに、水浴びに行かないか?」
「ほう、それは意外だったな。護衛も兼ねて付き合おう」
入口で警戒を続けるスケさんに事情を伝え、ラケルと一緒に近くの泉へ向かう。




