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ボーダーフリー  作者: ちゃりネコ


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18/27

つかの間の休息

「おい、生きてるよな?」

「死ぬほど疲れちゃいるが……まぁな」


 疲労でふらつく足腰に気合を入れ、裏口を任せたグループの様子を見に行くと、負傷した雪影が横たわっていた。


「怪我をしたのか。具合はどうだ?」

「最悪。腕にゾンビの歯形がついたわ」

「……それ、歯形どころじゃねぇだろ」


 真っ黒に変色した腕は半分近くが喰い千切られ、ひどく化膿(かのう)していた。

 幸い意識はしっかりしており、ドリアドネが用意した薬のおかげで大事には至らないとの事だ。

 しかし、それでも傷が癒えるまで戦線離脱は免れないだろう。

 しばらく見かけなかった羊子(ヨーコ)も水や食糧を配るなど、精一杯のサポートを行っている。

 他にも数名の候補生が拠点の修復で忙しく立ち回る中、エルーの姿が見えないことに気づく。


「2階か?」


 崩れかけた階段を上った先、殺風景な部屋の奥にエルーはいた。

 彼女はいつも物憂(ものう)げな顔を(うつむ)かせ、会話をする時も滅多に目を合わそうとしない。

 最初は嫌われているのかと思ったが、誰に対しても同じように接しているらしい。


「どこか痛むのか」

「……」


 ヤッベ、めっちゃ気まずいぞ。

 今までエルーと話す機会がなかったので会話のツボが分からず、どうやって話題を切り出すのか悩んでしまう。

 しばらく独り言みたいに喋っていると、ようやく反応してくれた。


「……怒ってる……よね」

「え、なんで?」

「……」


 正直、会話が続く気がしない。

 それでも自分のコミュ力を奮い立たせ、言いかけていた言葉を必死に繋ぐ。


「いやいや、怒ってないよ。つーか、誰も怒ってないだろ?」

「私、全然役に立ってないから……だから……」

「あー、その……俺は超ド田舎から来たもんだからさ、いまいち分からないことも多いんだ。君、カトブレパスなんだよね? どんな能力があるのかな?」


 青森の僻地(へきち)出身なので嘘はついていない。

 エルーは色白な肌を真っ赤に染め、胸元を隠すようにして腕を置いた。


「魔眼……石にするの……」

「マジで? すげぇじゃん! その能力があればゾンビの群も楽勝だぜ!」

「……」


 そこで黙っちゃう?

 彼女は称賛の言葉をスルーしたまま、小柄な身体を窮屈そうに縮める。

 その時、俺は気づいてしまった。

 ボサついた髪に隠れた童顔とは不釣り合いな、大きいと表されるレベルを遥かに凌駕する巨大な胸に。

 しかも、ダボっとした上着が縦横に揺れ動く様子から、予想される結論は――ノーブラ?


「あー、あれだ、もしかしてだけど……」

「……!」


 大きな胸が邪魔をして戦えないなど、クラスメイトの男子に言えるはずがない。

 常に猫背で(うつむ)きがちなのも、腕を前に置いているのも、全ては巨大な胸を隠す為。

 エルーは赤い顔をますます赤らめ、それっきり会話が途切れてしまった。



 ◇◇◇



 エルーには少し休むように伝え、逃げるようにして1階へ戻る。

 石化の魔眼を持つ彼女が戦線に加わってくれれば、全員が生きて学園に帰れるかもしれない。

 ゾンビの襲撃に備えると共に、悩みの種を解決する手段を考えなければ……。


「戻ったのか、天涯(てんがい)

「おっと、済まねぇな――って、その格好はどうしたんだよラケル!?」

「ふむ、こう見えても負傷はしていないので心配無用だ」


 ラケルは全身に返り血と肉片を浴び、赤く染まっていない部分を探す方が難しいほど汚れていた。


「ひっでぇな。俺はこの辺りの地理に詳しいからさ、使えそうな道具を探すついでに、水浴びに行かないか?」

「ほう、それは意外だったな。護衛も兼ねて付き合おう」


 入口で警戒を続けるスケさんに事情を伝え、ラケルと一緒に近くの泉へ向かう。

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