ゾンビの襲撃に備えよ!
俺達は幸運にも、小高い丘の上でコンクリート製の廃墟を見つけた。
皆は見知らぬ岩屋だと言って気味悪がったが、俺にしてみれば懐かしさすら感じる人工物だ。
「絶対大丈夫だから! ここならゾンビの襲撃にも耐えられるぜ」
「こいつの言うことなんて信用できるの? 別の場所にした方がよくない?」
「闇兎、君の意見も分かるよ。だけど、もう日が落ちてしまった。今夜はここで一晩過ごそう」
「は……はい! ラケル様と同じ場所で眠れるだなんて、それだけで最高の夜だわ!」
本当、そろそろ泣いても許されると思う。
あまりに露骨な対応の差に、スケさんとデュランのコンビが俺を哀れむ。
「浮世の時勢など気にするな。我ら不死者にとって、一時の情事など巷の夢物語に等しい」
「あ、ありがとうよ。まだ死んでねーけどな」
スケさんの気遣いが心に沁みるぜ……。
それぞれの候補生はグループに分かれ、自分達が担当する防衛ポイントを決めた。
「俺、酔虎、ラケル、ヘンリー、ラルヴァは1階の正面玄関を守るぞ」
「スケさん、デュラン、雪影、グリムフォードは裏口を頼む」
「残りのメンバーは2階で援護ってわけね。」
霧になれる闇兎に偵察と警戒を任せ、羊子を始めとした非戦闘タイプの候補生は2階で待機する形にした。
時間が許す限り窓を木材で塞ぎ、少しでも拠点を強化しておく。
「よく聞け天涯。ゾンビは痛みを感じない不死者の特徴を持っているが、それ以外に特筆すべき能力はない」
「ってことは、入口さえ守っていれば2階は安全なんだな」
「脅威はゾンビだけと決まったわけでは――」
「正面! すっごい数だよ!」
偵察に出ていた闇兎の報告が割り込む。
メンバーに緊張が走ったのも束の間、周囲に亡者達の呻き声が溢れる。
拳が砕けるまで扉を殴りつけ、あらゆる窓から侵入を試みようと足掻く。
「来たぞおおおお!!」
「総員、戦闘配置につけ! 闇兎は2階で待機!」
「あーあ、これが全部美女だったらなぁ。今夜はゾンビの群れとデートかよ」
「ヘンリー! 右窓が突破されっぞ!」
足よりも太い木材が叩き折られ、飢えたゾンビが大挙して押し寄せる。
ヘンリーは飄々とした態度で手元の糸を操り、事前に仕掛けておいたトラップを発動させた。
直後、拠点の外に吊るしてあった岩が崩れ落ち、多数のゾンビを巻き込んで窓を塞ぐ。
「ここは盗賊の住む家だぜ? ノックもなしに入るんじゃねーよ」
「ナーイス! さあ、どんどん来やがれオラアア!」
窓から顔を出すゾンビの群。
手にした大型ハンマーで次々と頭を叩き割り、拠点への侵入を防ぐ。
いかに不死の化物とはいえ、頭さえ潰してしまえば目標を失い、同士討ちを始める個体が出てくる。
「こっちは時間稼ぎのディフェンスだ。そっちは任せたぞ、ラケル!」
最も防御の薄い正面扉はラケルが待ち構え、不用意な亡者達を瞬時に肉塊へと変えていく。
一見して素手で圧倒しているように見えるラケルだが、奴は自身の骨を鋭い刃に変化させ、恐るべき速さで体外に露出させているのだ。
正面玄関の猛攻をラケルが防ぐ傍ら、恐怖心を持たないゾンビはあらゆる経路から侵入しようと試みる。
敵は暴力的な物量を頼りに、防衛ポイントを徐々に圧迫しつつあった。
「あー、ヤバくねぇか? 俺、デートの予定を思い出したよ」
「どこも予約で一杯だろーが! しっかり相手しやがれ!」
ヘンリーは隙あらば逃げる雰囲気を漂わせ、まるで働く気のない酔虎はゾンビの手が届かない高所で欠伸をする始末。
単体の脅威は大したことのないゾンビも、数百体が一斉に襲ってくるともなれば話は別。
裏口からも応援を要請する怒鳴り声が響き、いよいよ2階への撤退が現実味を帯びる状況に陥ってしまう。
「ラケル! ラケール! 畜生、向こうも手一杯かよ!」
「騒がしい」
それまで無言を貫いていたラルヴァが動いたかと思うと、華奢な身体を眩い光が包む。
人形めいた美しさを備えた少年は、近寄りがたい冷気を全身から放ち、秘められた魔力を爆発させる。
陥落間近の拠点に無数の魔方陣が浮かび上がり、次の瞬間には激しい業火が燃え広がった。
「ラルヴァ!? すげぇ……すげぇじゃねぇか!」
瞬く間に炎はゾンビの群を焼き払い、態勢を立て直す貴重な時間を稼いだ。
「今だ! 残ったゾンビを押し返せ!」
「あーあ、ベッドの外で汗かきたくねぇなぁ」
歪な月が傾き、永遠とも思える夜が明けた頃、ゾンビの群は太陽を嫌って姿を消した。
あとに残されたのは、目を背けたくなる肉塊の山と、泥のように疲れ果てて眠る候補生だけだった。
◇◇◇




