緊急イベント 迷える者共の林間合宿
ファム先生に言われるがまま訪れたのは、『忘れられた庭』からほど近い場所にある森の奥。
鬱蒼とした木々に囲まれ、魔界特有の僅かな日照でさえ届かない。
先行き不明の森を前に、闇兎が不安そうな顔で呟く。
「ここって……立ち入りが禁止されてる場所よね」
「そうなのか?」
道理で毎日通っているのに、他の候補生を見かけないわけだ。
俺としては見慣れた光景ながらも、皆は妙に緊張した様子。
ラケルまでもが強張った表情で森を訪れた理由を問う。
「先生、我々に何をさせようというのですか?」
「言ったでしょ~。これから一週間、『忘れられた庭』で林間合宿よ~」
「林間合宿ってアレか。皆でカレー作ったり、夜はキャンプファイヤーやったりするんだろ? 楽しそうだよなー」
賑やかな学校イベントに、皆も胸を弾ませているのだろう。
期待して振り返ると、全く別の反応が返ってきた。
「こ……こ、危ない……よ」
「うん……」
ドリアドネとエルーが身を寄せあって怖がる。
滅多に喋らない2人は、今すぐにでも帰りたいといった様子だ。
「寝泊まりできる場所が見当たらない。他の道具類はどこ?」
「場所は適当に探してね~。道具~? 知恵と勇気で乗り切るのよ~! それじゃあ、一週間後に会いましょ~」
ファム先生はそれだけ告げると、俺達を置いて帰ってしまった。
普段は無表情な雪影が、珍しく怒っているように思える。
「……小僧」
「なんだよスケさん。何か見つけたのか?」
ちょん髷頭のスケルトン(俺が命名スケさん)は、無言で白骨化した指先を向けている。
そこは特に目立った物もなく、僅かに地面が掘り返された跡があるだけだった。
「なぁるほど、骸骨旦那の眼は節穴じゃないってね」
ヘンリーは気取った台詞でナイフを取りだし、指定された地点に投げつけた。
ナイフが刺さると同時に、何の変哲もなかった地面が不気味に蠢く。
耐え難い腐臭が辺りに漂い、異形の化物が姿を現す。
「こ、こいつは――ゾンビかよ!」
「どいてろ」
ラケルの一閃によってゾンビは腰から分断され、重力に誘われた上半身が崩れ落ちる。
女子の声援が沸き上がった直後、絹を裂くような悲鳴に変わった。
分断された下半身は覚束ない足取りで歩き、上半身は這いずりながら獲物を求める。
「死なねぇ! まだ死んでねぇぞ!」
「これだから不死者は!」
雪影は得意の吹雪を操り、瞬時にゾンビの進行を止めた。
即座に首なしデュランが猛然と突っ込み、手にした斧で木っ端微塵にトドメを刺す。
「迷える亡者よ、安らかに眠れ」
「ここまで殺って《《ようやく》》かよ」
粉々になった肉片はそれでも動き続け、魔界の野鳥たちを呼び寄せた。
鳥葬を彷彿とさせる光景に、改めて魔界の掟がのし掛かる。
「これも弱肉強食ってか? ゾンビは他にも居るっぽいな」
「ああ、しかも夜は近い。すぐにでも行動を開始するべきだ」
紫色の雷雲が空を覆い、薄暗い日射しを容赦なく遮る。
あと2時間もすれば、完全な暗闇に包まれてしまうだろう。
「め、めぇぇ……」
「大丈夫だ、心配すんな。さあ、ボケッとしてる暇はねぇぞ!」
「うわ~……面倒くさーい、帰りたーい」
駄々をこねる闇兎をよそに、狂気に満ちた林間合宿が幕を開ける。
◇◇◇




