たとえ今日が曇り空でも
「ここに居たのかよ」
「天涯……私を笑いに来たのか?」
屋上に通じる重厚な扉を開けると、視界一杯の暗雲が広がっていた。
相変わらず湿気た空の下、陰鬱な雰囲気のラケルが佇んでいる。
もしやと思っていたが、どうやら《《アタリ》》らしい。
「らしくねぇじゃん。お前ならマジに適任だと思ったんだけどな」
「……私も、そうあるべきだと思う。思うのだが……」
秘められた苦悩が青年の表情を曇らせ、端正な顔に影を落とす。
俺にはラケルの気持ちを察してやることはできない。
何故なら、心を悩ませているのは常に自分自身であるからだ。
「俺もさっき気づいたばっかなんだけどさ。考えてみりゃ、ずっと……バカやってたもんだ」
「貴様は魔者ではない。母上が仰っていた人間なのだろう? 出会ってすぐに分かったよ」
「あー、やっぱバレちゃう?」
「……その様子だと理解していないようだな。どうして2000年ぶりに学園ウルティムが開校したのかを」
「次の魔王を決める為だろ? それ以外の理由なんてあるのかよ?」
ラケルは遠い目で空の彼方に視線を漂わせ、口にするべきか迷っている様子だった。
沈黙の長さから、よほどの事情を予感した俺は、彼が話し始めるまで待ち続けた。
やがて意を決した青年は、固く結んだ唇を開く。
「新たな魔王様を擁立するということは、人間界へ侵攻する為の準備なのだ」
「なァ………………し、侵攻だと? 戦争……魔者と……人間の!?」
「今の魔王様は魔界で唯一の穏健派でな、大多数の魔者が開戦を望む中、あの御方だけが反対しておられる」
「そ、それじゃあ……もしも、新しい魔王が戦争を望めば――」
全身に悪寒が走り、不吉な言葉を口内に押し留める。
これだけは何があっても、軽々しく口外してはならない。
「お、お前はどっちなんだ? まさか……」
「私は……どちらでもない。実に情けない答えだろう? このような弱い考えで、皆の命運を握るなど……」
憔悴した顔には心労の色が滲み、己の曖昧な持論を自嘲している。
俺が軽々しくリーダーに推薦したばかりに、ラケルは内に秘めた葛藤を表に出すべきか悩んでいたのだ。
だが――。
「その考え、俺も乗ったぜ!」
「なんだと!? 貴様……」
「要は戦争なんざ真っ平ゴメンだってんだろ? さりとて、魔者としての矜持も捨てたかねぇ。どっちとも付かずの良いとこ取りじゃん。お前、やっぱ頭いいな」
「頭って…………ふ、はははははは!」
ラケルは急に吹っ切れた様子で笑いだし、俺は意味が分からずに驚いてしまう。
それにしても、ここまで笑われてしまうとは……。
そこまで変なこと言ったかなぁ?
「貴様は本当に……正真正銘の大馬鹿者だよ。ははははっ!」
「なんだよ! お前だって同じ考えだろーが!」
それまで他人と殆ど会話などしたことがなかったのに、この時を境にラケルとは妙に打ち解けた気がした。
もしかして、これが友達って奴なのかな……。
どう表現すればいいのか分からないけど、案外悪くないもんだ。
◇◇◇




