クラスリーダーと自己紹介
「クラス統一戦は今後行われる対抗戦を生き残る為に、クラスの代表者を決めておく戦いよ~」
「戦う為の戦い? ややこしいな。要は暴走族の総長を決めるってことだろ」
「妙な名称をつけるな。我々の名誉と命運を握る重要な役目だぞ」
途中で口を挟んできたラケルに、多数の女子が賛同する。
やっぱさぁ、コイツめちゃくちゃモテんだなぁ。
「リーダーはクラスメイトの生殺与奪権を握る、将来の魔王様ポジションね~。レースを勝ち抜いたクラスは、そのまま魔王軍の配下となるのが一般的ね~」
「その代表者――もといクラスリーダーってのは、一番強い奴が張るんだろ? だったら、俺はラケルを推すぜ」
「そうだ、最も優れた強者が……は?」
「いや、そこは自信満々で受ける流れだろ」
入学以来の毅然とした態度は急激に萎れ、彫刻を思わせる端正な顔は今にも泣きそうだった。
「こ……ここは伝統に則って、個人戦で決めないか?」
「わざわざ戦う必要なんてないだろ。昨日の余興を見てて分かった。お前は間違いなく強ぇ。それに、弱い奴にも配慮できるしな」
「さんせー! ラケル様なら安心よね」
霧の少女が賛同すると、クラスは一丸となって新たなリーダーを認めた。
「まぁ~! いつもなら泥沼の殺し合いで決めるのに~。これも余興の効果かしら~♪」
「良かったな! 皆が期待してんぞ」
「………………はい」
見違えるほどに縮んだラケルを余所に、生き残ったクラスメイト達の自己紹介が始まった。
◇◇◇
「吸血姫の闇兎でーす。痛いのとブサイクが嫌いでーす」
「雪女族の雪影」
「めぇ! めえめめぇぇええー」
「ジャック・オー・ランタン族のグリムフォード・デ・ラ・ボア・ヘイルゲーツ。長いって? グリムフォードでもジャックでも、好きなように呼んでくれたまえ」
「吾輩こそ、かの名高きロンスヴォーにて多くの戦功と名誉を獲得せし聖騎士が一人、デュランなり! 我が名を聞いて震え上がる者は――」
「やぁやぁ、このクラスは美人が多くて何より。デートのお声掛けはヘンリー・ヒューズにお任せを」
「ドリアード族……ドリ……アドネ」
「カトブレパス族のエルー・ベスケレよ。……あまり……見ないで」
「ラルヴァだ」
「……名は持たぬ。我のことは好きに呼べ」
「エクスキューショナー族のラケル・アイゼンヘルツです。……く、クラスリーダーとして頑張ります……」
クラスメイトは総勢22名。
流石と言うべきか、魔界の住民はいずれも曲者揃い。
こうして勢揃いすると、まっとうな奴の方が少ないように思う。
身体を霧に変える少女、半人半獣の幼女、自分の首を抱えた騎士のおっさん、カボチャの被り物をした奴、ちょん髷頭のガイコツなどなど。
どいつもこいつも、個性の塊のような連中ばかりだ。
自己紹介の最中、ファム先生に気になっていた事柄を聞いてみた。
「どうして2日目に自己紹介させたんですか? 普通は初日にやると思うんですけど」
「これも恒例でね~、半数近い候補生が初日に脱落するからよ~」
「ま、マジっすか……。その、半分が死んだってことですよね?」
「ん~どうかしら~? 国元に帰った子も多いと思うわ~」
弱肉強食が行動指針の魔者が、敵前逃亡を選択したのは意外だった。
そんな中、羊子がいまだに残っていた理由が分からない。
「こう言っちゃ何だけど、戦いに向いてない魔者はどうして帰らないんです? 帰れば助かるのに……」
「帰っても居場所が無いからよ~。戦いを放棄するということは、全ての権利を放棄するのに等しいわ~。残された道は、生殺与奪の権利を強者に委ねた農奴ね~」
魔界の現実は想像していたよりも、遥かに厳しかった。
改めて魔王レースの過酷さを実感する一方で、自分の胸中に芽生えた気づきに戸惑っていた。
「なんだよ……俺、全然普通で……めちゃくちゃ恵まれた方だろ……」
「そりゃそうだ。全然普通の高坊だにゃ~♪」
自己紹介をボイコットした酔虎の煽りが、ずっと遠くの方から聞こえた気がした。
◇◇◇
「どこ行くんだ? 過去に戻って自己紹介やり直すとかムリだからな」
「五月蝿ぇ! ちょっと散歩してくるだけだ」
酔虎の煽りを尻目に教室を出る。
時刻は既に放課後を迎え、殆どの候補生は帰宅していた。
それでも暗殺の危険はあったが、それ以上に確かめておきたかったのだ。
「階段OK、廊下OK、教室OK……あいつ、どこ行きやがった?」
中庭や図書館など、それっぽい場所を総当たりするが見つからない。
「もう残ってんのは――あそこだけかなぁ」
ほぼ確信に近い見当をつけ、目の前の階段を一息に駆け上がった。




