薄氷を踏む日常
「まだ見つけらんないのか? もっと気合い入れて探せ」
「お前なぁ、昨日みたいに都合よく見つかると思うなよ」
翌日、酔虎は報酬のチュールを要求するので、『忘れられた庭』を朝から探し回っていた。
ここは古今東西の残骸が集まり、その気になれば何でも手に入る魔界のゴミ箱だ。
少なくとも、俺はそう認識している。
「お前も魔者の端くれだろ。 “ 山積みのガラクタから目的の物を探し当てる能力 ” とかねぇのかよ」
「にゃはー♪ バッカじゃねーの?」
終始こんな感じで酔虎との会話は進み、護身に使えそうな道具をいくつか拾っておく。
残念ながらチュールは見つけられず、不満を垂れ流す猫妖怪を宥めて学園に向かう。
「お、お、俺の名前は、久能 天涯です!」
「そろそろ機嫌を直せよクソ妖怪。それと、次に自己紹介煽りやったら二度とチュール探さねぇぞ」
「これくらいで怒んなよ高坊」
酔虎と話をしていると猫嫌いになりそうだ。
“ 猫は喋らないから可愛い ”
貴重な知見を得つつも、クソ妖怪の煽りは留まるところを知らない。
「ところでさ、あの担任をどう思う?」
「ファム先生のことか? どうって……そりゃ最高だぜ! 美人で優しくて、しかもキスで怪我を治してくれるとかエロ過ぎだろ」
「本当……バカだわぁ。いや、若いって素晴らしいな。うんうん」
「はぁ? 意味わかんねぇよ」
哀れみを含んだ言葉を聞き流すと、学園ウルティムの校門が見えてきた。
昨日と何ら変わらない光景。
だが、教室に入った途端、明らかな違和感に気づく。
「な、なんだよ……どうなってんだ!?」
窓際一杯まで在ったはずの机が、今日は半分以下にまで減っていたのだ。
ドアの前で困惑していると、背後からラケルが話しかけてきた。
「この程度で騒ぐな。昨日の裏入学式をもう忘れたのか」
「昨日? けど、あの後は皆で余興を――」
嫌な予感が言葉を区切る。
あの時、半数近い生徒は開始前に帰宅しており、以降は姿を見せていない。
「まさか……闇討ちされたってのか?」
「学園ウルティムの校則は弱肉強食。それは校外であっても同じだ」
無慈悲な現実を叩きつけられ、しばし絶句する。
更に異様だったのは、他の生徒達も特に気にした様子はなく、ごく普通に現状を受け入れて会話を楽しんでいた。
彼らの普通が、緊急事態を日常であるかのように錯覚させる。
「……羊子はどこだ! おい、羊みたいな女の子を見なかったか!?」
「いきなり何よ。私が知るわけないでしょ」
目についた生徒に尋ねて回るが、誰も知らない、見ていないとだけ答える。
同じクラスメイトだというのに、ここまで無関心になれるものなのか!?
「言っただろう、私達は同じ目的を共有する敵同士だ」
「俺は……そこまで割りきれねぇ。お前や羊子を殺すだなんて……考えらんねぇよ」
「だったら強者の餌になるしかない。それが嫌なら帰れ」
「だから帰れねぇんだって――」
「は~い♪ 生き残った皆さん、おはようございま~す」
お決まりの帰れコールに反応する間もなく、トートバッグを抱えたファム先生が元気な声で教卓に立つ。
改めて教室を見渡しても羊子の姿はなく、生徒数は20名程しかいなかった。
朝の挨拶もそこそこに、行方不明となった生徒達の所在を尋ねるが……。
「前回も同じような感じだったわ~。だから心配しないでね~」
「前って……2000年も前の話だろ!? 俺は今の話をしてるんだよ! 羊子が……小さな女の子が行方不明なんだ!」
「あの羊ちゃんのこと~? だったら、ここに居るわよ~」
大きなトートバッグを開くと、白い巻毛に包まれた羊子が寝息を立てていた。
「……ッッ、はぁ~~」
「いつの間にか職員室のロッカーで寝てたのよ~。可愛いわね~」
安心しきった様子で眠る姿をみて、一気に力が抜けてしまった。
もしかして、これを毎日繰り返すのか?
「とてもじゃねぇが、神経もたねぇよ……」
「あら~、だったらクラスを統一してみたら~?」
「統一?」
「そうよ~。クラスを代表するリーダーがいれば、他のクラスから受ける暗殺を減らせると思うわ~」
魔界の事情に疎い俺の為に、ファム先生は自己紹介の機会と、『クラスリーダー』の説明を始めた。




