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落ちこぼれ魔女は溺愛になれてない


 レセルは強制的に王宮魔法師団に所属する事になった。所属と言うか収監に近いが…学校を卒業したら王宮に仕えることが決定してしまった。


 王宮魔法師団はエリート中のエリート集団で、所属している魔女、魔術師は憧れの的だ。所属団員は皆、長命のため王宮魔法師の欠員はあまり出ない。そのため、毎年王宮魔法師団の入団は熾烈を極めると言っても過言ではない。


 王宮魔法師団長からしたら、世界を浄化したなどと言う危険極まりない精霊と契約した魔女など排除したいが、契約した精霊の不興をかいたくない。仕方がないから早急に近くで管理、監視するしかないと結論づけた。


 すぐに王宮勤めにならなかったのは、意外にも校長が頑なに許可しなかったからだ。


「彼女の精霊は確かに強力です。それは即ち、彼女自身も非常に強い魔力をもっていると言うこと。


彼女は魔力の使い方すら覚束ない、魔法、魔術の基礎もできない子です。お忙しい魔法師団達が彼女を教える時間ははたしてあるのでしょうか?ないですよね?でしたらしっかり、ここで学ぶべきです。


彼女にはその権利があります。」



 一見、ポヤポヤとした癒し系ぽっちゃりな校長だが王宮魔法師団長相手にそう言って一歩も引き下がらなかった。


 そう言うわけでレセルは学校に在学することを許されたが、国外に出ることは禁じられ、王都から出る場合はあらかじめ申告することを義務づけられた。


「あの………」


「なんだい?」


「………近い…」


レセルは混乱していた。現在、教室の光景は異常だった。レセルの席の隣の男子はルナエシルの笑顔の圧力で隣から外され、クラスメイトの女子達はその類い稀な美貌を舐めるように見つめ、教師はビクビクした様子で授業を続けている。座る位置も肩が触れるくらい近い。男女の距離ってここまで近かったのか?


「契約した精霊と主人の距離はこんなものだよ?」


「いや、違うでしょ?他の人達は精霊つれてないじゃん」


「.…マイレディ、君の影に入ったら僕が寂しいんだよ。君のその兎のように愛らしい瞳がみれないのが残念で…それに」


そこまで言うとルナエシルはレセルの耳にかかる髪を、後ろに流すと唇を近づけ囁いた。


「…僕が影の中に入ると君の魅惑的なスカートの中を見てしまうけど、良いのかな?」


「ア、ハイ。外に出てて大丈夫です」


 思わず死んだ目になりながらレセルは教科書をめくった。これって逆セクハラじゃないかなと思いつつ、召喚した精霊があらためてキワモノだと理解する。言っている事は紳士だが、もう顔と声だけで18禁に引っかかる。誰だこんな精神的に疲れる精霊を喚んだ奴……私だった。と頭を抱えた。


 ルナエシルを影にしまう事を諦めたレセルは、ビクビクしている教師と黒板に意識を集中する。


「マイレディはクールだね。女の子は大抵、僕が囁くだけで顔が真っ赤になるのに」


「貴方が顔が良いのは理解してる。でも、今はそんな浮ついた気持ちになれないだけ」


平民落ちこぼれ魔女が、世界を浄化できるヤバい精霊を召喚して契約しただけでもいっぱいいっぱいなのにそのヤバい精霊にときめく余裕はない。むしろ重い。非力な魔女が召喚した精霊に蹂躙されて殺された話を知っているだけに油断はできない。


「あぁ、怯えているのかな?大丈夫だよマイレディ。僕は君を害することはない、ただ、可愛い君を愛でたいだけなんだ」


そう微笑んだ顔は最高に美しかったが、レセルはくちびるを噛む。愛でたいってなんだ。愛でたいってレセルが主人なのにまるで立場が逆の言いようだ。


(嘘つき…)


 力がある強者の愛なんて信じられるものではない。ましてや、顔が良い男なら尚更信用できない。田舎の従姉妹が顔が良い旦那に何回も浮気されていた事を思い出して、余計に息苦しくなる。


(こんなのペットの可愛がりじゃない。これだから顔が良い男は信用できないのよ)


「マイレディ、ここのスペルが間違えいるよ」


「うぐっ」


やっぱり苦手だ。そう痛感するレセルであった。



***


 基本的にべったりなルナエシルがそばにいない場所が四ヶ所ある。女子更衣室、トイレ、風呂、寝室である。自称紳士なだけはある。その配慮にはレセルも少しホッとしていたが、最近は側にいない事で困るケースも出てきた。


「ご機嫌よう、レセルさん」


(げっ)


レセルには苦手な生徒がいた。目の前のアウレシア・リュシカル公爵令嬢だ。王姪の母をもつサラブレッド中のサラブレッドの公爵家の姫だ。砂糖菓子を煮詰めたような癒し系のふんわりした外見で、比較的におっとりした令嬢だが、レセルはこのアウレシアが苦手だった。

 このアウレシアは無自覚に貶してくるタイプの令嬢だからだ。


 まだ、卑しい田舎者娘が!と罵るタイプなら良いが、このアウレシアは本当にタチが悪いのは善意で言っていることが気に触るタイプなのだ。


 女子トイレで遭遇したのは果たして偶然なのだろうか?


「レセルさん、お昼は召し上がっていて?」


「え、ええ、(ルナエシルが作った)弁当がありましたので、」


「まあ、学生食堂はタダですのに遠慮なさったの?」


ただなのは事実だが、貧乏なのにお弁当たべているの的な発言が感に触る。やっぱり苦手だ。


「………なんのご用でしょう」


「ご用と言うかお願いが合って」


 手をモジモジさせる仕草が可愛らしいが、たぶんろくな事じゃない。それをピリピリと感じながらも先を促す。


「………お願い…ですか?」


「えぇ、お願い。ルナエシル様をわたくしにくださらない?」


 (やっぱりロクでもない事だったー!)


 実はこの手の要求は度々あった。なまじ容姿が良いため、見た目だけなら貴族令嬢からすると側に置きたくなるらしい。その実、ヤバい精霊だと知らないから何人もの令嬢がルナエシルを欲しがった。どつにか精霊契約は基本解消できないと説明して諦めて貰う流れだが、下手にここで断れば絶対親に泣きつき、レセルを悪役にするのが見えている。


「えーと、ルナエシルがいないと…学校の授業が困るのですが…」


「なら、わたくしのガァちゃんを貸してさしあげましてよ!」


ガァちゃんとはアヒルの姿の水の中位精霊だ。アウレシアの足元でガァと鳴いたアヒルの精霊の声は怯えている気がする。ルナエシルが怖いのだろう。可哀想に…。


 爵位持ちの大精霊と、喋れない中位精霊ではダントツに位が違いすぎるからしかたない。


「…精霊契約は絶対です。契約した精霊は契約者以外に力を貸しません。契約を譲渡するのもできません…」


「………でも、契約者の命令なら侍ることはできますでしょう?」


「それは意思を持たない下位精霊だけです。彼はプライドが高い上位精霊ですよ?私のような落ちこぼれが契約できたのも奇跡な存在です。彼なら私の命令も簡単に破棄できますし…強制はできません」


そう言うと、アウレシアは困ったようにため息をこぼす。


「………なんで、ルナエシル様は貴方と契約したのかしら」


「………わかりかねます」


仕方ないわね、と言わんばなりにそう言うとアウレシアはトイレから出て行く。この手のやりとりを何回やったことか…思わずズキリッと痛む胃を抑えながら続いて外に出ると、トイレの扉の横の壁にルナエシルがレセルを待つように寄りかかっていた。


「ご機嫌よう、ルナエシル様」


 ふんわりと微笑む社交界の花の方を見てルナエシルは微笑んだ。その笑顔にアウレシアの頬が赤く染まる。


「………やあ、おかえりレセル。待っていたよ」


微笑んだのはトイレから後に出てきたレセルに向かってだった。アウレシアをガン無視してさらりと避けると、レセルの頬を手当てる。


「どうしたんだい?顔色が悪いけど…体調が悪いのかな?」


(あんたのせいで悪いわ!と言えない)


恐る恐る、ガン無視されたアウレシアを見ると案の定凄い形相でこちらを睨んできた。男にチヤホヤされてきた砂糖菓子が、初めての屈辱に感情が露わになっていたが、すぐに顔を取り繕うあたり流石である。


「まあ、嫌ですわ。ルナエシル様ったら…無視しないでくださいまし」


「レセル、今日の夕飯は何がよろしいですか?魚?肉?ああ、この前美味しいと言ったコロッケにしましょうか」


「………いや、あの、ルナエシル」


「ルシルと、呼んでください。可愛いマイレディ」


「あー!その!失礼いたします!」


 公爵令嬢を無視した甘い囁きに、レセルは頭が痛くなる。余計な修羅場の予感にレセルはルナエシルの手を取り、さっさとその場を逃げ出した。


ついた校舎裏で、レセルはルナエシルをキッと睨み上げる。


「ルナエシル、アウレシア様を無視しないで」


「誰だいそれは?」


「貴方に声をかけてきたご令嬢よ、話しかけてきたのに無視するなんて失礼だわ」


「失礼?他人の精霊を欲しがる人間に何故礼を尽くさねばならないのです?」


トイレのやりとりを聞いていたらしい。レセルはため息をこぼす。


「…確かに精霊を物のように欲しがった彼女は無礼だった。貴方の言うとおりよ。でも、彼女は人間界の貴族令嬢だわ。私よりうんと地位が高い人よ?その人を無視して私に声を掛けたりしたら…だめでしょ」


「…マイレディ、僕は君を困らせたのかい?」


 叱られた子犬みたいな顔に、思わず罪悪感を感じてしまいそうだ。だが、言うべきことは言わねばならない。


「……ううん、ごめん。貴方は悪くないけど…あの人たぶんタチが悪いから…何をしてくるのかわからないし」


しどろもどろにそう言うと、ルナエシルの顔がみるみる明るくなり、眼を輝かせる。


「僕を心配してくれたのかい?」


「え?えっと…まあ、半分は…」


「ああ!マイレディ、大丈夫だよ。なんなら君に何かしようものなら、魂ごと浄化してあげる」


「それだけはやめて」


感動してレセルの手を握るルナエシルに、レセルはぐうと口を紡ぐ。人外イケメンの笑顔の破壊力は凄まじかった。が、言っていることはやっぱり怖かった。ときめきも一瞬で冷えたレセルは頭を抱える。


(どうしたらいいんだろう…)


助けてほしい。 レセルは前途多難と泣きたくなった。





 

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