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第八試合 ライプニッツvsウィトゲンシュタイン

闘技場に満ちた静寂が、突如として輝く数式の渦によって破られる。


選手入場


実況:「お待たせいたしました!言葉の真実を巡る、運命の対決の幕開けです!」


場内が暗転する。


実況:「青コーナー!」黄金の数式が空中に浮かび上がる。


「神の完全性を証明せん者!」「普遍言語の探究者!」「全知への到達を目指す哲学者!」「ゴットフリート・ライプニッツゥゥゥ!」


金色の光に包まれた貴族的な男が、優雅に入場してくる。その周りでは∫∑∏といった数学記号が、完璧な調和を奏でながら舞っている。


実況:「赤コーナー!」漆黒の静寂が場内を支配する。


「論理の極限を見極めし者!」「言葉の限界を知る探究者!」「沈黙の真理を宿す哲学者!」「ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン!」


厳格な表情の男が、一切の無駄な動きなく歩み出る。彼の足跡には白く輝く論理式が、氷の結晶のように広がっていく。


「見せてやろう」ライプニッツが優雅に微笑む。「この世界の完璧な調和を。神の創りし最善の世界の真理を」


「真理は、そう簡単には見えない」ウィトゲンシュタインが静かに応える。


試合開始


ゴングが鳴る。


「まずはこれを見るがいい!」ライプニッツが右手を翻す。「∀x∃y(Fx→Gy)!全ての出来事には理由がある!」


黄金の論理式が光の矢となって放たれる。


実況:「おおっと!ライプニッツ選手、開始早々強力な論理式を繰り出してきました!」


ウィトゲンシュタインは冷静に受け止める。「p∨¬p」


放たれた光の矢が、氷の壁に阻まれる。


実況:「なんという受け方!排中律による完璧なディフェンスです!」


「どうした?それだけか?」ライプニッツが挑発する。「∃x∀y(x=y)!単子の調和を見よ!」


金色の数式が渦を巻き、闘技場全体を覆い始める。


「甘い」ウィトゲンシュタインが目を細める。「(p→q)∧(q→r)→(p→r)」


青白い論理式が閃光となって走る。


実況:「激しい論理式の応酬!意味は分かりませんが、とんでもない戦いが繰り広げられています!」


死闘


「黙って見ているがいい」ライプニッツが右手を掲げる。「この世界を支配する永遠の真理を!」


黄金の記号が次々と浮かび上がり、空間を満たしていく。それは世界の全てを記号化し、完璧な体系へと書き換えていく。


「この私の論理体系で、全ては完璧に表現できる。それこそが真理だ」


「世界は事実によって構成されている」ウィトゲンシュタインの声が冷たく響く。「第一の真実・現実分解!」記号が砕け、その奥から世界の実相が露わになっていく。


「私の体系が...崩れていく!?」


「理論や記号の前に、まず事実がある。それが全ての始まりだ」


「なら、この完璧な調和を見るがいい!」ライプニッツが両手を広げる。「モナド・ハーモニー!」


光の球体が無数に現れ、それぞれが互いを映し合う永遠の連鎖。調和に満ちた完璧な世界が具現化する。


「これこそが真実だ。全ては調和している。この世界は最高最善なのだ!」


「思考できることは、全て可能なのだ」ウィトゲンシュタインが静かに告げる。「第二の真実・可能性解放!」永遠の連鎖が揺らぎ、無数の可能性が姿を現す。「君の最善の世界も、たった一つの可能性に過ぎない」


「違う!これは必然なのだ!神の完全性が...!」ライプニッツの声が震える。「完全性の証明・ゴッドプルーフ!」


黄金の方程式が空を切り裂く。それは神の存在を証明し、世界の完全性を示す究極の論理。


「言葉は現実の写像でしかない」ウィトゲンシュタインの声が響く。「第三の真実・写像崩壊!」言葉と現実の関係が露わになり、黄金の方程式が意味を失っていく。


「まだだ!」ライプニッツが叫ぶ。「普遍言語・カラクテリスティカ!」


無数の記号が螺旋を描き、新たな言語体系を構築していく。「この完璧な言語で、全ての思考を表現してみせる!」


「思考は、そう単純には捉えられない」ウィトゲンシュタインが目を細める。「第四の真実・意味露呈!」記号の連なりが、その内に潜む意味を曝け出していく。「思考は、ただの記号の組み合わせではない。意味とは使用の中にある」


「くっ...」ライプニッツが苦しげに歯を食いしばる。「なら、全ての基礎へと還元してみせよう!原子命題・フンダメンタル!」


世界を構成する最小単位の命題が、黄金の光となって結晶化していく。


「第五の真実・根源暴露!」結晶が砕け散る。その破片が意味の最小単位を示していく。「見えているはずだ。君の言う基礎的命題も、さらに分解できる」


決着


「戯言を!」ライプニッツの全身が黄金の光を放ち始める。「見せてやろう、私の真理を!」


【永遠の真理より降り注ぐ光よ全ての概念を完全に表現せよ今こそ示せ、この世界の調和を!】「究極奥義・最善世界オプティマイゼーション!」


天空を貫く黄金の光。それは世界の調和を完璧に表現し、全ての存在の必然性を証明しようとする。


完璧な論理の体系が、黄金の幾何学模様となって展開される。「どうだ!これこそが真の論理!!」


「素晴らしい 。だが論理は、ただの同語反復に過ぎない」ウィトゲンシュタインが静かに目を閉じる。「第六の真実・論理超越!」


「効かん!!」ライプニッツの黄金の光の前に、ウィトゲンシュタインの攻撃はかき消される。しかし—


「全ての真実は、ここに集約される」


ウィトゲンシュタインの放った六つの真実が、ライプニッツの周りで静かに輝きを増していく。


「私は、語りうるものを明らかにした。そして今、示そう」彼の瞳が、深い静寂を湛えて開かれる。そして、闘技場が闇に包まれる。「なん...だと...?」ライプニッツは辺りを見回す。


【論理の果てに立ち、全てを見据えし眼差しよ世界の限界の彼方へと至る道を示せ語り得ぬものについては、沈黙せねばならない】「第七の真実・不語沈黙」


気づかないほどに静かな変化。しかし、確実に世界が、深い静けさの闇へと溶けていく。


ライプニッツの黄金の光が、意味を失っていく。論理の体系が、沈黙の前で影のように消えていく。全ての言葉が、その限界を悟り、静かに消えていく。


完全な静寂が場内を支配する。それは空虚な無ではない。言葉を超えた真実の顕現。


全てを包み込む、究極の沈黙。


「これが...」ライプニッツの声が遠くなっていく。「言葉の...限界の...先に...」


もはや姿すら、深い理解の中に溶けていった。そして、残ったのはウィトゲンシュタインの姿のみ。


「安心しろ、死んではいない」


実況:「決着... 勝者...ウィトゲンシュタイン...」

闘技場のモニターに映し出される映像。


暗い研究室の中、実験器具が並ぶ。蝋燭の明かりに照らし出される一人の男。「人は真理を求める」男が実験道具を手に取る。「だが、その目を曇らせる『偶像』に気づかない」

試験管の中で液体が煌めく。「先入見、偏見、言葉の混乱、伝統の重圧...」「『イドラ』を打ち破り、純粋な真理へと至る」


監獄、病院、学校...様々な施設が重なり合う空間。その中心で、黒いタートルネックの男が佇む。「純粋な知?」男が冷笑を浮かべる。「そんな幻想は、もう終わりだ」

壁一面に並ぶ監視カメラ。「知は常に権力と結びついている」「暴いてやろう。知と権力の本当の関係を」


二つのインタビューが交差する。「真理への純粋な探究を」「知と権力の不可分な関係を」

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