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最終回

闘技場の外れにある古い円形劇場。月光の下、一人の男が石段に腰を下ろしている。空には、第一ラウンドの結果が映し出されていた。


第一ラウンド試合結果

第一試合

ニーチェ(勝) vs キルケゴール

決め技:「永劫回帰・究極創造」


第二試合

サルトル(勝) vs プラトン

決め技:「実存解放・絶対自由」


第三試合

デカルト(勝) vs ヒューム

決め技:「我思故我在・コギトエルゴスム」


第四試合

親鸞(勝) vs アウグスティヌス

決め技:「南無阿弥陀仏」


第五試合

アリストテレス(勝) vs カント

決め技:フィロソフィア


第六試合

ショーペンハウアー(勝) vs ヘーゲル

決め技:ショーペンハウアーの罠


第七試合

フロイト(勝) vs エピクロス

決め技:エピクロスのリタイア


第八試合

ウィトゲンシュタイン(勝) vs ライプニッツ

決め技:「不語沈黙」


第九試合

ベーコン(勝) vs フーコー

決め技:「新機関ノヴム・オルガヌム


第十試合

マキャベリ(勝) vs ホッブズ

決め技:「マキャベリズム」


第十一試合

デリダ(勝) vs ラカン

決め技:「脱構築」


第十二試合

アーレント(勝) vs ジェンティーレ

決め技:「人間の条件」


第十三試合

パスカル(勝) vs スピノザ

決め技:「パスカルの賭け・ビリーブゴッド」


第十四試合

孔子(勝) vs レヴィ=ストロース

決め技:「天人合一・正拳」


第十五試合

ハイデガー(勝) vs 道元

決め技:「存在の真理・アーレートイア」


第十六試合

フッサール(勝) vs ユング

決め技:「超越論的主観性・アプリオリ」


第一幕

「まさか、イデアの光が...実存の闇に打ち消されるとは」


プラトンは静かに夜空を見上げる。その表情には、敗北の悔しさよりも、何か新たな真実を見出した者の深い思索が宿っていた。


「そうか...永遠の相の下にあっても、一つ一つの魂は、その瞬間を生きているのだ」


「その通りです」


声に振り向くと、キルケゴールが立っていた。


「プラトンよ、私もまた敗れました。永遠の反復に、私の跳躍は届かなかった」


「ほう、そなたもか」プラトンが微笑む。「永遠を求めた者と、瞬間を生きた者...我らは似て非なる道を歩んでいたのかもしれぬ」


「しかし」キルケゴールも石段に腰を下ろす。「私にはわかります。あなたの求めた永遠の真理が、いかに美しかったか」


月光が二人を静かに照らす。


「私の『イデア』も」プラトンが言う。「そなたの『跳躍』も。共に真理の異なる表現だったのかもしれぬ」


「ニーチェとサルトル...」キルケゴールが呟く。「彼らは、私たちの追い求めたものを、別の形で掴んだのです」


その時、新たな足音が響く。 



第二幕

「因果の必然も、理性の確実性も、全ては経験の束に過ぎないと説いた私も」薄暗がりからヒュームが姿を現す。「デカルトの『我思う』の前では、その主張さえ宙吊りに」


「存在の必然性を説いた私も」スピノザが静かに加わる。「パスカルの賭けの前では、その論理を貫けなかった」


「面白い集まりですね」レヴィ=ストロースが、フィールドノートを手に現れる。「私たちの敗北にも、きっと構造がある」


「構造?」ヒュームが苦笑する。「そなたは今でもそう考えるのか」


「ええ」レヴィ=ストロースは石段に腰を下ろす。「勝者と敗者、理性と感性、東洋と西洋...全ては対立の体系の中で意味を持つ」


「しかし」スピノザが静かに告げる。「その構造すらも、より深い必然の中に...」


「だからこそ面白い」


振り向くと、そこには道元の姿があった。ユングも共に。



第三幕

「只管打坐」道元は静かに目を閉じる。「勝負に執着することもまた、一つの迷いではないか」


「興味深い」ユングが瞑想するように語り始める。「私たちの集合的無意識の中で、この敗北という経験がどのような元型と...」


「またそうやって分析するのですか」キルケゴールが微かに笑う。「実存的な経験を、概念で捉えようとして」


「違いますよ」ユングは柔和な表情を浮かべる。「この敗北という経験自体が、私たちに何かを教えてくれている。英雄の物語には必ず挫折があり、そこから再生が...」


「再生?」ライプニッツが姿を現す。「私の予定調和では、この敗北も既に織り込み済みだったということか」




第四幕

「断片化され、脱構築され」暗がりからラカンが現れる。「象徴界の中で宙吊りにされる」


「権力の構造の中で」フーコーも加わる。「主体が消失していく」


「違う」道元が静かに目を開く。「生死一如。負けることも、勝つことも」


「私たちが見ているものは」レヴィ=ストロースが言う。「単なる表層の構造に過ぎないのかもしれない」


「あるいは」ユングが付け加える。「深層の、より普遍的な...」



第五幕

エピクロスが葡萄を口にしながら現れる。「私は試合を楽しむことにしました。それもまた快楽の一つ」


「お前らしい」アウグスティヌスが苦笑する。「私は敗北の中に、神の導きを見た。親鸞の『南無阿弥陀仏』には、確かに救いの光が」


「みなさん」突如、ジェンティーレが割って入ろうとする。


「黙っておれ」複数の声が同時に上がる。


「私が言いたいのは...」


「お前の全体主義的な...」


「しかし...」


誰からともなく失笑が漏れる。敗者たちの間に、不思議な連帯が生まれていた。



第六幕

「見よ」プラトンが突如、天を仰ぐ。


円形劇場の上空に、金色の文字が浮かび上がり始める。まるで神の声が文字となったかのように───


第二ラウンド 対戦カード

ニーチェ vs サルトル

デカルト vs 親鸞

アーレント vs デリダ

パスカル vs 孔子

ハイデガー vs フッサール

マキャベリ vs フロイト

ウィトゲンシュタイン vs ベーコン

アリストテレス vs ショーペンハウアー


「これは...」キルケゴールの目が輝く。「ニーチェとサルトル。超人思想と実存的自由。私たちが敗れたからこそ実現した対決か」


「デカルトと親鸞」スピノザが静かに告げる。「理性の極みと、他力の道。まさか、このような組み合わせが」


「そして」道元が目を開く。「ハイデガーとフッサール。弟子と師の対決。存在の真理と、意識の本質が...」


「パスカルと孔子」ヒュームが不思議そうに首を傾げる。「賭けと礼...まるで偶然と必然の対決のようだ」


「アーレントとデリダ」ラカンが口を開く。「現代思想の頂点に立つ二人が」


「ウィトゲンシュタインとベーコン」フーコーが付け加える。「言語の限界と、経験の力。これは認識の在り方を巡る戦いになる」


「マキャベリとフロイトか」レヴィ=ストロースがフィールドノートを閉じる。「権力と無意識。人間の深層を照らし出す戦いだ」


「そして最後に」プラトンが立ち上がる。「アリストテレスとショーペンハウアー。形而上学と意志の哲学。私の愛弟子と...」


一同、金色の文字が消えていく夜空を見上げる。


「我々敗者にも」キルケゴールが静かに告げる。「為すべきことがある」


「ああ」プラトンが頷く。「彼らの戦いを見守り、真理の新たな光を」


月が静かに輝きを増す。第二ラウンド、開幕の時が近づいていた。


続・哲学格闘伝説、開幕!

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