バカ王子とヤバい王国
すれ違う姉弟の想いとは裏腹に、王都では大変な騒ぎになっていた。
「回復魔法の使用者が現れたのなら、その研究成果を共有するべきだ!」
「何だと!? それが他国のスパイにでも漏れたらどうする!」
「そもそも魔力の種類は先天的に決まるんだ。アルハードの娘以外の者でも、回復魔法が扱えるのか?」
「だから王都の学校になど編入させずに、軍に入隊させてしまえばいい。どうせ軍事利用されるだけの能力なのだから」
権力者達がそれぞれ好き勝手なことを言う中、真ん中の席に座っていた金髪の少年が口を開いた。
「アリエス・アルハードは、我がシュナイダー家に迎え入れる」
突然の宣告に、騒がしかった会議室が静まり返った。
「お、王太子殿下。それは……」
「なに、簡単なことだ。あの魔法が欲しいのなら、遺伝させればいい」
「と、申しますと……?」
顎に手を当てて邪悪な表情で笑むのは、シュナイド国王族の第一子、ヘイデル・フォン・シュナイダーだ。
偉そうに話し合っていた貴族達は全員黙り、王太子の発言に耳を傾けている。
「まずはボクと結婚させて、回復魔法が遺伝した子を産ませる。すぐに離婚してやるから、その後は軍でも研究でも好きに使うといい。遺伝でしか魔法が使えないのなら、何人でも子を産ませるだけだ」
悪魔のような発言に、貴族達はおぉ……! と感嘆の声を上げる。
「それであれば、回復魔法が遺伝した子を王族に招くことも……! まこと、殿下は聡明でいらっしゃる」
「しかし一時のこととはいえ、下級貴族の分際で王太子殿下の妃になるなど……!」
「まあ、そこそこ美しい顔立ちの者だそうだからな。下級貴族出身の卑しい身でも、そのくらいの栄誉は与えてやろう」
会議室は異様な熱気に溢れていた。
誰もがこの提案に賛成し、ヘイデルを褒め称える。逆に言えば、これまでもそういった立ち回りをしていた貴族だけが出世できたということか。
(……顔だけなら、同じく編入してくるケミィ・ロッソの方が好みだがな。聖女の特性を持っているようだし……)
浮気性の王子の頭には、既に別の人間の顔が浮かんでいた。
(まあ、どちらでも構わないか。二人ともボクのハーレムに入れてしまえば同じことだ。正妻にしろなどと傲慢を言えば、その場で処刑してやるさ)
信じられないようなことを思い巡らせながら、再び邪悪な笑みを浮かべるヘイデル。
しかし、この一件が王国の破滅への序章だということに、誰も気付いていないのだった。
読んでいただいてありがとうございます!
よければ感想や評価いただけると嬉しいです。