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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

終末魔法少女

作者: 新萌

「うわあ……ヤッバ。こりゃあ全滅だわ」


 倒れたビル、煙の上がる街、黒いもやに覆われた空。人の気配1つない大通りの、変なオブジェに立たずむアタシ。


 仲間の声と魔物の咆哮、人々の悲鳴で溢れていたはずの、静寂に包まれた世界。 


「あれ、でもあのヤバイ魔物はいない…? もしかして、『氷花』のアネキ達のヤツ。相討ちしたん?」


 訳あってアタシは何が起きたのか()()()()()()()。状況把握のためにオブジェからひらりと飛び降りった。ふんわりと揺れる明るいピンクのスカートは、ちょっとしたバトルで少し焦げている。


「ああ.....しぶとい雑魚がいるかもしれないし、鎌だけ持っとくか」


 アタシがぱっと右手を広げると、スカートと同じようなピンク色の光りに包まれてとても実用的とは思えない―まあ結構実用的なんだけど―ゴテゴテとリボンや光り物で装飾された大きな鎌が現れる。



 そう、アタシ、桃谷メロは所謂「魔法少女」。現役女子高生で魔法少女歴8年のベテラン。ある日突然「魔法少女協会選抜課」を名乗る不審なウサギに話しかけられたときは新手の詐欺かと思ったけど、合法的に魔物をボコボコにできるのが意外とクセになるんだな、これが。


 

「てゆーか魔法少女はともかく、使い魔(ペット)も全滅かよ......あんだけ『ボクが絶対にメロちゃんのことを守ってあげるピョン!』とか言ってたクソウサギは何だったんだよ......」


 基本魔法少女はさっきの協会から派遣される使い魔(ペット)と二人一組で行動する。日々魔物と戦い、よくできる「優等生」は中二病っぽい二つ名―さっき言った「氷花」みたいなやつとか―とそれなりの地位がもらえる。

 

 今日だってそんな何気ない業務の一環、のはずだった。


「あーあ、ホントにだーれもいないね。『慈愛』も、『氷花』のアネキも、『息吹』も......」


 敵が、強すぎた。先んじて対応していた魔法少女が相次いで音信不通。今まで見たことのない規模の魔物に、街は大混乱。JKライフを満喫していたアタシや他のヤツにもお呼びがかかり、総力戦とならざるを得なかった。


 

「やっぱり最後は、アタシみたいなズルくて小賢しいヤツが残るんだ。はーあ、世の中って残酷」



 結果は見ての通り。どうやら相討ちになったおかげで他の地域への被害はないけど、辛くも勝利とも言えないのが現実。アタシもここにいたらどうなってたことだか。


「バトル漫画なら勝てそうなのにねー......ん? 何だあの......なんだ?」


 誰も聞いていない空にぼんやりと独り言をつぶやいていると、視界の隅に猛スピードでこちらにやってくる動物のような物体が見えた。


 もしかして、生存者?


「......ピンク色のツインテール、大きな鎌、派手なメイク、ゴスロリっぽいコスチューム.......間違いないペン! キミは、『バーサーカー』桃谷メロだペンね?!」


 このペンギンは、多分「氷花」のアネキの使い魔。こいつだけってことは、アネキはもう、死んだのかもしれない。「氷花」こと蒼霧涼花あおきり すずかはアタシの尊敬する先輩。強大な魔力を持ち、アタシを助けてくれた恩人。きっとあの人のことだから、みんなを守るために命を投げ出したんだろうな。


「派手なメイクは余計だっつーの、『氷花』のアネキんところペンギン。.....合ってるよ。アタシは桃谷メロ。クソ固有魔法の『バーサーカー』で逃げた()()()()()()。なんか用?」

「聞いていたよりも大分口が悪くて卑屈者だペン.....サギの苦労が分かった気がするペン......」


 魔力の強い魔法少女に与えられる、唯一無二の固有魔法。アタシは、理性と引き換えに()()()()()()()()()()()()()()()『バーサーカー』。先代はそのまま理性を失って処分されたらしいこの魔法を、一番デカい魔物の攻撃に合わせて使った。


 おかげで生き延びた。何もかも、失ったけど。



「いや、今はそんなこと言ってる場合じゃないペン!キミの実力は ご主人様から聞いてるペン! この後本部に報告書をあげて、緊急会議にも出席しないといけないペン......キミの力をかして欲しいペン!」

「ヤダ......っていいたいところだけど、あんたも『チュウカンカンリショク』ってやつなんでしょ? いいよ。アネキの恩義に免じて手伝ってあげる」

「助かるペン! 後からパートナー契約変更の書類にサインしてもらうとして......取り敢えず、他に生存者と魔物の生き残りがいないか確認に行くペン!」


 水を得た魚......いやペンギンはふよふよとアタシの前を飛んでいく。 きっとこいつも、自分だけ助かろうとしたアタシじゃなくて、人望もあって優しかったアネキのほうが良かったに決まってる。


 でもそんな事を言ってもアネキはもういない。なら、アタシは、できるだけアネキの代わりをしよう。


 前を行くペンギンにおいていかれないように、アタシは鎌を持ったまま地面を軽く蹴った。


 

 


 ―街の外れで、黒い魔力に汚染された氷の中に1人の少女が眠っているのを知らないで―

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