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テラエ王国戦記 ー月の姫と鴉の騎士ー  作者: 黒狼
第一章 月の姫と騎士達
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?????視点 闇の中で蠢く者

 テラエ王国東部 リュヌブレーヌ宮中伯領領都にほど近い山中の廃城



「報告します!」


 嘗て、この廃城に人がいた頃に“玉座の間”として使われていた部屋に配下の兵が入ってきた。


「……どうした?」

「“例の野盗共”の残党が帰還しました」

「帰還した数は? 首領は戻ったか?」

「帰還した数は二十名弱、首領は討たれた模様です」

「……事の仔細を報告させる。 後程、この部屋に“一人残らず”呼べ」

「ははッ!」


 配下の兵が部屋を出て行くのを見送ってから、私は大きな溜息を吐いた。


「……アルビオンとの戦争を生き残ったとはいえ、所詮は“途中で尻尾を巻いた半端者”か。 小娘一人どうにも出来んとはな……」


 私は独り言を呟くと、愛用の死神鎌デスサイズを手に立ち上がった。




 暫くすると配下の兵達に連れられて野盗の残党共が部屋に入って来た。

 何人かは負傷している様だが、歩くのに支障があるものはいない様だ。


「……しくじった様だな」

「も、申し訳ありませんッ!! 途中まで順調に言ってたのですが、邪魔が入って!!」



 ガシャーーーーーーンッ



 野盗の内の一人が震えた声で言い訳を捲し立てて来たのを聞き苦しく思った私は、死神鎌の石突を地面に打ち鳴らして野盗を黙らせた。


「……言い訳は良い。 その邪魔者の事を含め、何が起きたかを順に話せ」

「は、はい……」


 野盗の男は若干、声を震わせながら何が起こったかを話し始めた。


 襲撃の対象になっていた“貴族の小娘”の馬車を人気の無い街道で襲った事。

 年若い護衛の騎士に苦戦したものの、伏兵として配していた弓兵を用いて追い詰めた事。

 護衛の騎士にトドメを刺そうとした所で、突如として現れた“騎士”に邪魔をされた事。

 その騎士に翻弄され、最後には首領が討たれて壊走した事。


 そして、その騎士は“剣と盾を持ち、甲冑の重さをものともしない動きを見せていた”事……。


 間違い無い……奴だ。

 アルビオンとの戦争の最中、“騎士ですらない”にもかかわらず数多の名で呼ばれた奴だ。


 味方からは“不落”、敵からは“武運喰い”と渾名されていた男……。


「……“クラテールのルドルフ”ッ! クハハ、まさか奴が東部に流れて来ていたとはな……」


 思わぬ人物の登場に私は不覚にも笑みを浮かべていた。


 まさか、小娘一人をどうにかする退屈な任務に奴の様な強者ツワモノが絡んでくるとはな。

 ……世の中捨てたモノではない様だ。


「……各隊に伝令を出せ。 各隊は最低限の斥候のみを残し、本陣へと集結せよ」

「「「ははッ」」」


 私の命を受けた伝令達が一斉に廃城を後にした。

 そこに残されたのは私と数名の配下、そして野盗の残党達だけであった。


「……貴様達は思いの外働いてくれた。 褒美をやらねばならんな」

「ほ、褒美? オレ達にですか!?」


 先程まで声を震わせていた者が、“褒美”という言葉を聞いて声を弾ませた。


「さあ、受け取れ」


 私はそう言うと、手に持った死神鎌を無造作に振るった。

 その瞬間、褒美を貰えると浮かれていた“野盗の首”が笑顔のまま地面へと落ちた。


「……褒美に“苦痛を供わない死”をくれてやる。 ありがたく受け取るが良い」




 私と配下達は野盗の残党共を始末すると、廃城を捨てて夜の闇へと身を躍らせるのだった……。

トピックス:テラエ王国の国土


 テラエ王国は大陸西方に広大な領地を要する大国である。

 国土の北、南、西は海に囲まれており、東部地域と北部地域の東側だけが陸地に国境が存在していた。

 先の百年戦争の結果、西部地域の八割は敵国アルビオン王国に割譲されている。



 王国中央部


 王都のある地域で正しく王国の中心地、北西が僅かに海に隣接している以外はほぼ陸地であり、古くから広大な穀倉地帯でもある。

 南東にかつて王都守護役を担っていたミラージュフォール公爵領がある以外は、ほぼ王家の直轄地である。



 王国西部


 百年戦争で大きく割譲された地域だが、北と南に領地を残している。

 西部を取り仕切るブリュイフォール公爵家は未だに健在であり、西部地域に残った領土の治安維持に注力している。

 百年戦争前後に野盗化した脱走兵を、戦後に職を失った元兵士から傭兵を募り討伐させるという政策を実行したのもブリュイフォール公である。


 王国東部


 王国内では唯一、二つの国、勢力と接している地域。

 南に大陸の雄である大国ポラリス帝国が、東に侵略種族であるアブルムの支配地域が接触している。

 東部を取り仕切るモンターニュフォール公爵家は、東部地域の南、内海に接する場所に位置しポラリス帝国や南大陸との貿易港として栄えている。

 その莫大な資金を東部地域の守護神たるフェールポルト辺境伯へと投資して国内の安全を確保している。



 王国南部


 大半を南大陸との間に存在する内海に接した地域で、馬より船での移動を主とする。

 東西それぞれに半島が存在し、東の半島は十星教会の本拠地で教皇庁が置かれ、西の半島は南部地域を取り仕切るシャルールフォール公爵の所領となっている。

 西の半島は南大陸を望める海峡が南側に存在し、そこから侵略種族バジリスコが散発的に進行を繰り返している。



 王国北部


 広大な森林と山脈が連なり、森林資源と鉱物資源、山々の麓に広がる穀倉地帯から算出される作物で富む地域。

 森林地帯にはシルワの王国が、山脈地帯にはルーベスの王国が自治領として存在している。

 北部を取り仕切るウラガンフォール公爵家は、百年戦争時に莫大な軍事物資の取引で巨万の富を築いて国内に多大な影響力を持っている。

 北部の東にアブルムの侵攻から逃れた人々が凍土地帯に建国した魔道国家であるイスベルグ市国がある。

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