表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テラエ王国戦記 ー月の姫と鴉の騎士ー  作者: 黒狼
第一章 月の姫と騎士達
5/25

鎮魂の聖歌

 ルドルフに助けられた事によって誰一人として死なずに済んだわたくしたちでしたが、騎士たちの乗騎は野盗の攻撃により逃げ去り、馬車を引いていた馬の内の一頭は負傷して動けない状態でした。

 そこで無事だった馬を馬車より外し、私たちの中で一番騎乗が達者なトリスタンに助けを呼びに行かせる事になりました。


「ルーナ様、行ってきますね!」

「おねがいします、トリスタン」


 トリスタンは相棒の鷲馬ヒポグリフの雛と共に馬に跨ると、領都へと馬を走らせて行きました。



 トリスタンを送り出した後、私は野盗たちの遺体の側に佇んでいたルドルフの元へ向かいました。


「ルドルフ様、お尋ねしてもいいでしょうか?」

「私に答えられる事なら」

「彼らの……野盗たちの遺体は、どの様にすれば良いでしょう?」


 私は遺体をどの様にすればいいかをルドルフに尋ねる事にしました。

 ルドルフは戦場での従軍歴が長かったそうなので、そういう事には詳しいと思ったのです。


「彼らは野盗ですから、そのまま打ち捨てるのも一つの手でしょう」

「打ち捨てる、ですか……」


 彼らは野盗として“この土地の領主の一族に牙を剥いた”のですから、それも仕方ない事でしょう……。


「ですが、このまま野ざらしという訳にも行かないでしょう。 魔獣等を街道に招き寄せる事にもなりかねません」

「では、どうするのですか?」

「一先ずは街道脇に移動させましょう。 騎士団の見分等もあるでしょうから今は埋葬できませんが、それでも打ち捨てたままよりはマシかと思われます」

「そうですね……」


 残された私たちは馬車を拠点として、周辺の後始末を始めました。


 ルドルフも手を貸してくれたので、それほど時間をかける事無く野盗たちの遺体を街道脇へと移動させる事が出来ました。

 シャルリーヌとレオナールの奮戦で討ち取った八人と、ルドルフが切り捨てた一人、そしてルドルフに討ち取られた野盗の長。

 計十人の遺体が街道脇に並べられました。


 野盗に対する静かな怒りか、それとも死者に対する哀悼か、はたまた一歩間違えばそこに並んでたのが自分だったのではという恐怖か……。

 私も、私の騎士たちも、ルドルフも……誰も言葉を口にしませんでした。


「…………もし」


 その時、私の口は不意に心の中で思っていた事を零しました。


「私たちの様な為政者がちゃんとしていれば、この様な人たちを生まずに済んだのでしょうか……?」

「ルーナ様……?」

「彼らが罪を犯し討伐された事は分かってるんです……。 それでも、何かできたのではないかと……」


 話しながら、私の視界は段々とぼやけていってました。

 私は、襲われた恐怖も、大事な騎士たちを傷つけられた怒りも通り越して、“彼ら”という存在を今まで知らなかったという自身の不甲斐なさと、“彼ら”に何もできなかった無力さに打ち震えていました。

 色々な思いが私の中で渦巻いて、どうしていいのか分からずにその場で幼子の様にポロポロと涙を零していたのです。


「……失礼します。 ごめんね……」


 そんな私の姿を見て、シャルリーヌが私を抱きしめてくれました。


「ルーナ様がお優しい方なのは存じております。 気が回らなくて申し訳ありませんでした」


 リーズが屈みこんでハンカチで私の涙を拭ってくれました。


「ルーナ様……俺、誰よりも強くなります。 こんな風に悲しませない様に、悲しませる原因を失くします!」


 レオナールが私の横で力強く励ましてくれました。


「ルーナ様、星神へ祈りましょう。 せめて、彼らが安らかに逝けます様に……」


 ヘンリエットが跪いて星神への祈りを述べてくれました。

 私はシャルリーヌとリーズの手を借りて、ヘンリエットの横で跪きました。


「……大いなる太陽と月の間に生まれし末の娘、“生と死を司る冥星の神 プルートー”よ。 遥か高みへと旅立つ彼らに祝福を……正しき終焉と新たな生を……」


 ヘンリエットは“生と死を司る冥星の神 プルートー”への祝詞を謳い挙げると、それに続いて静かに“鎮魂の聖歌うた”歌い始めました。

 聖歌の響き渡る中で私は、“冥星の神”へと祈りを捧げました。

 私の祈りに続くように、リーズが、シャルリーヌが、レオナールが、頭を垂れて祈りを捧げました。

 最後にルドルフが胸に手を当てて頭を垂れました。


「……お前らはまだ、幸せ者だよ。 その死を悼んでくれる者がいるんだからな」

「…………え?」


 私の横でルドルフが呟いた言葉が、妙に印象的だったのを今でも憶えています……。





 それからしばらくして、助けを呼びに行っていたトリスタンが20人程の部隊を連れて戻ってきました。

 彼らに事の経緯を説明し遺体の見分と埋葬を託して私たちは、先に領都リュヌブレーヌへと戻る事になりました。


「ルドルフ様、少しよろしいでしょうか?」

「如何しましたか?」

「……改めまして、今回は私と私の騎士たちを助けてくださってありがとうございました」

「いえ、巡り合わせが良かったのでしょう」

「あの、もしルドルフ様がよろしければ……領都へお越しくださいませんか? 是非、お礼をさせていただきたく思いまして……」

「領都にですか……」


 私の突然の提案にルドルフは、僅かに思案していました。


「折角のお誘い、無下にするのも失礼に当たるか。 ……では、しばらくの間お世話になります」

「はい!!」


 こうして私たちは、ルドルフを伴って領都へと帰る事になりました。


 トピックス:テラエ王国国教 十星教会とその神々



 十星教会


 王国建国時に同時に興った宗教。

 王国建国以前から信仰自体はあったが、宗教として成立したのは建国と同時期と言われている。

 太陽と月の夫婦神とその八柱の子供達で構成される。

 それぞれの神が星を象徴としてる為“星神”と呼称される事もある。




 太陽神 ソール  象徴 太陽  シンボルカラー 金、橙


 父なる神で権力、豊穣などを司る。

 反面、傲慢な暴君としての面も持つ。

 ただ一柱で昼天の玉座へと座する孤高なる神王。



 月神 ルーナ  象徴 月  シンボルカラー 銀、青


 母なる神で平穏、癒しなどを司る。

 余程の事が無い限り動く事無く、成り行きを見守っている。

 夜天の玉座にて子供達に護れながら静かに座する聖母。



 水星神 メリクリウス  象徴 水星  シンボルカラー 黄


 太陽と月の第一子、性別不明、知性、経験などを司る。

 親兄弟から一歩引いた視点で物事を見守りその都度、適切な助言をもたらす。

 父母に代わって弟妹を教え導く賢者。



 金星神 ウェヌス  象徴 金星  シンボルカラー 緑


 太陽と月の第二子、女性、美、文化などを司る。

 親兄弟の間に立ち、歌と話術で場を取り持つ。

 時としていがみ合う兄弟達を宥め鎮める歌姫。



 火星神 マールス  象徴 火星  シンボルカラー 赤


 太陽と月の第三子、男性、闘争、練磨などを司る。

 親兄弟の前に立ち、障害を跳ね除ける。

 星神の一番槍として、誰よりも前に立ち道を切り開く武人。



 木星神 ユピテル  象徴 木星  シンボルカラー 紫


 太陽と月の第四子、男性、発展、繁栄などを司る。

 親兄弟の行いを観察し、その在り様を示す。

 兄弟達を評し、時として進言する哲学者。



 土星神 サートゥルヌス  象徴 土星  シンボルカラー 青紫


 太陽と月の第五子、男性、秩序、忍耐などを司る。

 親兄弟に仲立ち、その争いを秩序を持って裁く。

 例え親兄弟であろうと、公平に裁きを下す断罪者。



 天星神 ウーラヌス  象徴 天星  シンボルカラー 薄黄


 太陽と月の第六子、性別不明、変化、改革などを司る。

 親兄弟の中を引っ搔き回し、停滞を流転させる。

 古い考えを打ち壊して、新しい風を呼び込む革命家。



 海星神 ネプトゥーヌス  象徴 海星  シンボルカラー 紺


 太陽と月の第七子、女性、精神、幻想などを司る。

 親兄弟を宥め、心を鎮める。

 夢幻の海から降される宣託を告げる巫女。



 冥星神 プルートー  象徴 冥星  シンボルカラー 深紅


 太陽と月の末子、女性、生、死などを司る。

 親兄弟達とは一歩引いて、命の生死を見守る。

 死から新しい生へと、星の光で導く案内人。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ