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テラエ王国戦記 ー月の姫と鴉の騎士ー  作者: 黒狼
第一章 月の姫と騎士達
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騎士との邂逅 前編

補足:サブタイトルの「〇〇視点」無しの場合は主人公ルーナ視点、「〇〇視点」ありの場合は〇〇の人物の視点で書かれています

 それはわたくしが12歳の時の事でした。

 その当時の私はお父様のご指示を受けて、リュヌブレーヌ伯領の各村の視察をしていました。

 お父様は私に領内統治について学ばせようとしていた様でした。


 その日も私は領都近隣の村落の視察に赴いていました。


 ですが、その帰路で……



 私は護衛の騎士たちに護られながら、馬車で緩やかな山道を走っていました。

 馬車に同乗するのは、私の専属の従者であるリーズと、護衛騎士の一人で聖騎士でもある半森人族シルワのヘンリエット。

 御者台で馬車を駆るのは、見習い騎士ながら護衛の一人に抜擢されたトリスタンと、その相棒である鷲馬ヒポグリフの幼体のエステル。

 そして軍馬を駆り馬車の前後を護るのが、護衛隊長のシャルリーヌと、騎士になったばかりのレオナール。

 皆、気心の知れた者達で特に騎士の四人は、私にとって幼馴染とも言える者たちでした。



「……全隊、停止を」


 護衛隊長の騎士シャルリーヌが、私の乗る馬車を停止させました。

 馬車の停止を確認すると、シャルリーヌは周囲の警戒をしつつ乗馬を巡らせ周囲の茂みを凝視していました。


「どうしたシャル?」


 シャルリーヌの様子にレオナールが小声で尋ねました。

 シャルリーヌは視線を動かす事なく、その手に持った斧槍ハルバードをゆっくりと構えました。

 それを見たレオナールは何かを察したのか、表情を険しくして背中に背負った剣に手をかけました。


「シャル姉、レオ兄?」

「シャルちゃん?」

「トリスはそのままで、ヘンリはルーナ様を護りながら援護を。 後、こんな時にちゃん付けはやめて」


 声色を変えずに出たシャルリーヌの指示を聞いて、トリスタンとヘンリエットは表情を引き締めました。


「へぇ……小僧や嬢ちゃんばかりだと思っていたが、勘は鋭いじゃねぇか」


 聞き覚えの無い声と共に、茂みの中から複数の人影が立ち上がりました。

 薄汚れた鎧を着こんで不遜な笑みを浮かべる集団……戦後のどさくさに紛れて軍を脱走し、野盗へとなり下がった元兵士や傭兵たちの集団でした。


「……脱走兵。 まさか、王国東部まで流れて来てるなんて」

「まあ、俺等も色々と台所事情が苦しいんでね。 だが、今回は運がいい!」


 野盗の長と思われる男は、腰に佩いた剣を引き抜くと私たちを値踏みする様に見渡しました。


「ッ!?」


 それまで馬車の窓から様子を伺っていた私と、集団の長の眼が一瞬だけ合ったのです。

 野盗の長はこれまでに無いほどの“おぞましい笑み”を私に向けてきました。


「野郎共、馬車の中のお嬢ちゃんは無傷で捕らえろ。 他は好きにして構わん! 殺すなり犯すなり好きにしろッ!!!」


 野盗の長の言葉に野盗達が目を血走らせながら、歓喜の声を上げました。

 そして野盗達は武器を手にして散開し、私たちを包囲したのです。


「5……10……20は、いるか……ヘンリ姉の“奇跡”でどれだけ援護できそう?」

「二人の治癒だけで精一杯……それもどこまで持つか……」


 馬車を護るヘンリエットとトリスタンが弱音を漏らす中、レオナールが背中に背負った剣を引き抜きました。


「関係ねぇよッ! 俺とシャルが10人ずつ屠ればそれで終いだッ!!!」


 そう言い切って剣を構えたレオナールを見て、隣に立つシャルリーヌも不敵な笑みを浮かべました。


「まったく、生意気な事を……でも、その通りねッ!!!」


 シャルリーヌは20人はいる野盗達を前に、手にした斧槍を振り上げました。


「血路を開くッ!! 全騎、覚悟を決めろッ!!!」

「「「応ッ!!!」」」


 私を護る騎士たちの気勢を合図にして戦いは始まりました。




 戦いは当初、私たちに有利に展開しました。

 護衛の騎士たちは年若いとはいえ、正規の訓練を受け護衛役に抜擢された精鋭たちです。

 複数人からの攻撃を凌ぎ、隙をついて一人、二人と討ち取っていきました。

 捌ききれずに負傷する事もありましたが、馬車の直衛をしているヘンリエットの癒しの奇跡によって瞬時に治療されていきました。

 前衛に立つシャルリーヌとレオナールを抜けて馬車まで肉薄する野盗も何人かいましたがその都度、御者台に立つトリスタンが槍を振るって引きはがしていました。


「チッ、思ったよりも粘るじゃねぇか……野郎共、距離を取れ!!」


 その状態に“旗色が悪い”と感じた野盗の長は、野盗たちに後退の指示を出しました。

 その指示を聞いた野盗たちは、武器を構えたまま二、三歩後ずさると野盗の長の立つ位置まで素早く下がりました。


「はぁはぁ……へ、俺たちに恐れを成したかッ!」

「まだ、気を抜くなレオ!」

「分かってるッ!!」


 前衛を務めていたシャルリーヌとレオナールが思った以上に元気だったのを見て、私は安堵のため息を漏らしました。

 『これなら皆、無事に帰れる』と、思って気が緩んでいました。


 その時……


「皆、伏せろぉぉぉぉぉッ!!!!!」


 突然、御者台のトリスタンが叫んだのです。


「ルーナ様、失礼いたします!」


 咄嗟にそばに控えていた従者のリーズが私に抱き付くと、そのまま馬車の床へと倒れこみました。

 その直後、馬車の中に“無数の風切り音”と“何かが馬車の壁を叩きつける音”が響き渡りました。


「ル、ルーナ様、ご無事ですか?」

「リーゼ……い、いったい何が……」


 私はリーゼに抱きしめられたまま、周囲を見回しました。

 馬車の壁には何本もの鏃が突き刺さっていました。

 そして、馬車の扉のすぐ近くに表情を歪めたヘンリエットが“矢の突き刺さった足”を庇いながら蹲っていたのです。


「ヘンリエットッ!!!」

「ルーナ様、そのままで!! 私は大丈夫ですから!!」


 ヘンリエットは馬車の外を睨みつけたまま、駆け付けようとした私を手を挙げて制しました。


「何が……起こったのですか?」

「弓兵です……。 複数人の弓兵を伏せていた様です」

「そんな……。 ほ、他の皆は!?」

「シャルちゃんとレオ君は、馬を射られて落馬していますが生きています。 トリス君は……御者台にはいないみたいですね……最初に弓兵の存在に気がついてたみたいですから、大丈夫だとは思います」


 どうやら誰も死んだ者はいない様でした。

 ですが、安心してはいられません。

 何故なら、私たちを狙う敵は未だに馬車の外にいるのですから……。


「チッ、思ったよりもやりやがる……ガキ数人相手に8人、殺られたか」

「ぐ……卑怯なッ!!」

「あ? 殺るか殺られるかの戦場で卑怯もクソもあるかよ。 戦場ではな“勝った奴が正しい”んだよ。 よぉく覚えておきな、嬢ちゃんッ!!」


 地面に伏しながらも睨みつけていたシャルリーヌの頭を、野盗の長はそのまま踏みつけていました。


「シャルッ!!! 貴様ァッ!!!!!」

「チッ、うるせぇガキだな……」


 野盗の長はシャルリーヌの頭から足を離すと、剣を振り上げながらシャルリーヌの近くに倒れているレオナールの方へと歩み寄っていきました。


「小僧……まずは、お前から始末してやるよ!」

「レオッ!!!」

「レオ君ッ!!!」


 シャルリーヌとヘンリエットの悲痛な叫びが響き渡る中、野盗の長が振り上げた剣が無慈悲にもレオナール目がけて振り下ろされたのです。







 しかし、次の瞬間に辺りに響き渡ったのは、肉が切り裂かれた音ではなく、“激しく金属が擦れ合う音”だったのです。



 レオナールに振り下ろされた剣は、いつの間にか現れた別の剣によって受け止められていました。

 そして、その剣は“傷だらけの使い古された甲冑を着込んだ騎士”の手に握られていました。


 その騎士は、傷だらけの甲冑とボロボロの外套を身に着けた、一見するとみすぼらしい恰好をしていました。


 ですが、私にはボロボロの外套が風にたなびく姿がまるで“鴉が翼を広げている”様に見えたのです。

トピックス:テラエ王国の異種族 その一



 森人族シルワ


 森を主な住処とする種族、細身で長身、細長い耳を持つ。 人間との混血は可能、人間の五倍以上の寿命を持ち人間との混血でも二、三倍の寿命を持つ。

 豊富な魔力を持ち、魔術を得意とする。

 テラエ王国内では北方の森の中に独自の国を持つ。

 別の言語では“エルフ”という呼称で呼ばれている。


 岩人族ルーベス


 荒涼な山岳地帯を住処とする種族、頑強で短身、豊かな髭を持つ。 人間との混血は可能、人間の二倍以上の寿命を持ち人間との混血だと人間より僅かに長い寿命を持つ。

 錬金術や冶金技術に長け、独自の技術体系を持つ。

 テラエ王国内では北方の山岳地帯に独自の国を持つ。

 別の言語では“ドワーフ”という呼称で呼ばれている。


 鬼人族コルヌ


 森林豊かな山岳地帯を住処とする種族、屈強で非常に長身、額に二本の角を持つ。 人間との混血は可能、人間と同じ位の寿命を持つが人間よりも老衰が遅く青年期が長い。

 戦いに長じた戦闘民族、何よりも強さを重んじる。

 テラエ王国内では東方の山岳地帯に部族事の集落を築いて暮らしている。

 別の言語では“オーガ”という呼称で呼ばれている。


 豚人族アブルム


 遥か東の果てより、大地を埋め尽くす大群で攻め寄せてくる侵略種族、屈強で短身、豚を思わせる頭部している、上位種は鬼人族並みの身長をしているものもいる。 人間との混血は可能、通常種は人間の半分程の寿命で上位種は人間と同じ位の寿命を持つ。

 国という概念を持たない蛮族で、力を持ってのみ支配権が決まる。 通常は大きくても一万人規模の群れが限界だが、“大王”という上位種が発生した場合百万人規模の群れが出来たという記録もある。

 テラエ王国では外敵とされている。

 別の言語では“オーク”という呼称で呼ばれている。

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