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テラエ王国戦記 ー月の姫と鴉の騎士ー  作者: 黒狼
第一章 月の姫と騎士達
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港町で休息

 船上で狙撃された私たちは、鷲馬に乗って飛び出したトリスタンとそれを追いかけたエンネアを見送った後、私の乗った船は断崖絶壁に沿って目的地である港町に辿り着きました。

 正直な話、船酔いでシャルリーヌたちが十全に動けない状態でこれ以上護衛の数を減らすのは皆に反対されたのですが、トリスタンやエンネアが負傷して動けなかった時や……“万が一”の状態になっている時の事を考えてウィルバードを二人の元に送りました。


 私たちは港町で宿を確保してウィルバードの帰りを待つことになりました。


「……トリスタンとエンネアは大丈夫でしょうか?」

「トリスタンは若くとも腕利きです、エンネアもああ見えてフォローが上手い。 戦場では確実だとは言えませんが、めったな事にはならないかと」


 私の不安の声に腕の治療を受けているルドルフが声をかけてくれました。


「……こういう時、護られてばかりだと歯がゆく感じてしまいますね」

「今回ばかりは“役割”の問題かと思います」

「“役割”ですか?」

「今回は敵が断崖絶壁の上にいました。 その敵をあの時点で叩きに行けたのが、空を駆ける事の出来るトリスタンと断崖絶壁を登っていけるエンネアだけだったと言う事です」

「あ、確かに……」

「そういう意味では私も歯がゆく思っています」


 ルドルフの言う通り、あの時に敵に対して動けたのはあの二人だけでした。


「では、二人が戻ってきたら精一杯労ってあげなければなりませんね」

「それこそがルーナ様の“役割”と言えるでしょう」



 ウィルバードが港町に戻ってきたのは日が傾いた頃でした。

 トリスタンは負傷していた様でしたが、トリスタンもエンネアもエステルも無事な様でした。


「おかえりなさい、皆無事で良かった。 …………のは良いのですが、どうしたのですか?」


 負傷したトリスタンはウィルバードの馬の上で困った様な表情をして、エンネアは明らかに不機嫌な表情をしていました。


「僕が現地に着いた時にはすでにこの様な状況でした……」

「と、兎に角、二人ともご苦労様でした。 詳しい事は明日にしましょう」




 翌朝、私たちはウィルバードの出発を見送りました。

 ヴァンブレーヌ伯へ到着が遅れる事の仔細を書いた書状を届けてもらう事にしたのです。

 本来であればトリスタンに行って貰う所なのですが、今の状況ではウィルバードに任せるのが一番早かったからです。


「さて……行きましょうか?」


 私は付き従っているシャルリーヌとリーズに声をかけて宿へと戻っていきました。

 これから先延ばしになっていたトリスタンとエンネアの事を聞くためです。


「お待たせしました」


 私が部屋に入ると未だに不機嫌そうなエンネアとベッドに仰向けの体制のトリスタン、その二人を困った顔で見つめるルドルフがいました。


「ルドルフ、トリスタン、怪我の様子はどうですか?」

「私は腕の骨が折れていましたが、ヘンリエットの見立てでは“綺麗に折れている”そうなので治療術での治療を続ければ数日で完治するそうです」

「僕の方は小さな矢が革鎧を貫通して背中に刺さっただけだし急所も外れてるから、明日にはベッドを出ていいって」

「思ったより怪我が軽い様で安心しました」


 二人とも問題は無さそうです。

 問題は……


「では、トリスタンとエンネアに何があったか聞かせて貰えますか?」


 私の言葉にエンネアはバツの悪い顔をしました。


「エンネア」

「……わかった」


 中々話し出そうとしないエンネアにルドルフが“静かだけど重みのある声”で促し、それでようやく話しだしました。


「敵の……“百舌鳥トルキーダートル”の奴が事切れる寸前に坊やに向かって暗器で狙い撃ったんだ。 あたしは咄嗟に坊やにその事を伝えたんだけど、坊やは躱そうともせずに……坊やならあの程度、躱せたはずだったのに……」

「お前はそれが気に食わなかったと?」

「そんな短絡的な理由じゃないけど……」


 いつも物静かだけどはっきりと言葉にするエンネアらしからぬ歯切れの悪さでした。


「トリスタン、エンネアの言ってる事は本当ですか?」

「はい、ルーナ様」

「では、なぜ敵の攻撃を躱さなかったのですか?」

「……き、“騎士の矜持”って事でお願いします」


 何かトリスタンも歯切れが悪い感じでした。

 その返事にエンネアは更に不機嫌になり、ルドルフはそれで察したのか小さく溜息を吐いていました。


「ルドルフ、何かわかったのですか?」

「ええ、まあ……ただ、私の口から言っていいものか」

「僕の口からは言いずらいんでお願い……」


 トリスタンはそう言って、頭から枕を被ってしまいました。

 その様子を見てルドルフが苦笑していました。


「一応エンネアに確認するが、“百舌鳥”がいたのは“トリスタンの背後”だったか?」

「うん、あたしからは丁度坊やの後ろに…………あ」


 エンネアはそう言うと、その場で固まった様に身動きを止めました。

 そして段々と頬を赤らめて顔を歪ませていきました。


「ルドルフ、これはどういう状況ですか!?」

「あー、要するに……トリスタンが敵の攻撃を躱さなかったのは、“エンネアを守る為”だったと言う事です」

「ああ、なるほど!」


 私はその時点でようやく察しました。


「トリスタンはその事を自身の口から言う事に照れくささがあり、エンネアは守られた事に今更ながら気がついた……その様な感じかと」


 言葉にしてみれば簡単な事でした。

 私は枕を被ったトリスタンと後ろを向いて俯くエンネアを見た後、ルドルフと視線を合わせました。

 ルドルフは視線で『ご随意に』と言っている様でした。


「……ルドルフ、行きましょうか?」

「御意に」


 私はトリスタンとエンネアを残して部屋から出る事にしました。

トピックス:テラエ王国の魔法



 神聖術


 十星教会の聖職者が使う魔法で、一般的には“奇跡”とも呼ばれている。

 治療や強化の魔法を得意とする。

 王国内に広く普及している魔法だが、術者の才能と神々への信仰心に依存する為使い手自体はそれほど多くない。

 尚、十星教会所属の“聖騎士”に叙勲される為には神聖術を行使できる事が必須条件の一つになっている。



 紋章術


 王国成立以前から存在する古代魔法で“古代魔法文字ルーン”を描いて使用する魔法。

 攻撃、回復、補助など大抵の魔法を行使できるが、文字をその場で描くか、あらかじめ用意しておかなければ使用できない。

 その性質上、付与魔術に使用される事も多く“魔剣”や“魔鎧”を作成時にも用いられる。



 精霊術


 世界に存在する元素精霊の力を借り行使する魔法。

 威力は非情に高いが細かい魔力制御が難しい為、主に攻撃魔法に用いられる。

 他の魔法よりも個人の才能と血統に左右される。

 その性質故か自然発生した才能の持ち主以外は血統を守る為、一族を囲う所がある。



 幻術


 対象の認識に介入する魔法。

 強化や弱体化、幻覚で対象を操る。

 未だに完全には体系化され切ってない魔法で、その中には異界の魔物を召喚して使役する術もあるとされる。

 


 魔術


 比較的に新しい魔法体系で現在では主流とされている魔法。

 紋章術を祖としており、簡易的な魔方陣と詠唱の組み合わせで行使する。

 一つ一つの術自体は他の魔法よりも弱いものの、幅広い分野の魔法を使用する事ができる。

 また、魔法の中では数少ない才能よりも理論が重要視される魔法体系で他の魔法より使い手が多い。

 大きな都市には魔術を教える学校や私塾も存在している。



 魔導錬金術


 岩人族ルーベス由来の魔法。

 正確には魔法ではなく、魔力を発生させる魔力結晶を動力とした武器や機械を作成する技術。

 魔力結晶を動力とした武器や甲冑、抽出した魔力を攻撃に転用する杖、機械仕掛けの騎獣などがある。

 尚、“魔導”の付かない錬金術は魔力を使用しない薬学や一部の技術を指す。

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