??視点 狙撃手
テラエ王国東部、内海に面する崖に程近い茂みの中……。
ここにワシが指揮する一党の隠れ家があった。
ワシらは“とある依頼”の為に数週間前よりこの場に隠れ家を設け、来るべき日の準備を進めていた。
その日もワシは一党の若い衆を偵察に放ち、ワシ自らは隠れ家に居座り“獲物”の手入れをしていた。
「頭ッ!」
隠れ家の外から偵察に出していた若い衆の一人の声がした。
「どうした?」
「頭に客人です! “死神”の大将が来ました!!」
ワシの客とは“依頼主”である“死神”であった様だ。
若い衆に通すように言って隠れ家の中に通すと、“死神”以外にももう一人入って来た。
「……邪魔をするぞ」
「おう、“死神”の旦那。 “番犬”の野郎も一緒か」
依頼主の“死神”は相変わらず辛気臭ぇ。
そして、この“番犬”という男……凡そ野盗とは言えねぇ恰好をしている。
使い古されて傷だらけではあるものの、上等な拵えの甲冑を身に纏ってる。
立ち振る舞いも洗練されてる所から、元騎士か何かなのだろう。
「で、伝令ではなく自身で来たって事は、定時連絡の類では無いのだろう?」
「……無論だ」
“死神”は短くそう言うと、“番犬”へと視線を向ける。
“番犬”は小さく頷くと、前へ進み出た。
「“百舌鳥”殿の注文の品、調達が出来たのでお持ちした」
「ほう……良く手に入ったな」
「東部では手に入れるのが難しくてな、南部まで足を運ぶ事になった」
ワシは依頼に際して“死神”に“ある物”の入手を注文していた。
戦場以外で手に入れるには、“足の着く”シロモノだ。
「手に入れるのには骨を折った。 これで依頼の方は大丈夫だな?」
「対象の生死は問わないのだろ?」
「……そうだ」
「なら、心配ねぇ」
そう、ワシは言い切った。
生け捕るとなれば色々と面倒だが、“撃ち殺す”のならば普段の狩りと変わらん。
「で、対象の“お姫様”とやらは何時、どこからヴァンブレーヌへ入る?」
「……数日以内だ。 ……モンターニュフォール公爵が船を出して内海を渡り、ヴァンブレーヌ伯領の北西の港町へと向かう」
「海路か……好都合だな」
手に入れたばかりのシロモノを使うにはお誂え向きの状況だ。
「……小娘とは言え、臣下は粒ぞろいと考えた方がいい。 ……“虎”が成果無しで敗れた」
「ほう……」
“虎”が敗れたと聞き、ワシの口から笑みが消えた。
“虎”の小僧は、下衆で享楽的ではあったが実力は本物だったからだ。
「誰が“虎”を殺った?」
「……野盗狩りの“不落”の手下、“紅駒”だ。 ……それに“不落”本人と“銀矢”がいる。 他に連れている騎士も餓鬼ばかりだが相応にできる」
「ほう、連中も東部に来ておったか」
中々に厄介な依頼になった様だ。
が、同時に面白い状況だ。
ワシは再び笑みを浮かべると、隠れ家を飛び出した。
「おいッ!」
「は、はいッ! 頭ッ!!」
ワシの怒号に傍にいた若い衆が慌てて返事をした。
「他の若い衆に伝令だッ! 数日後に“獲物”が来るッ!」
「いよいよですかッ!!」
「偵察と風見を各地に配置ッ! 連絡手段の確保も怠るなッ!!」
「わかりましたッ!!!」
若い衆が走り去るのを見届けてから、ワシは愛用の“弩弓”を肩に担いだ。




