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テラエ王国戦記 ー月の姫と鴉の騎士ー  作者: 黒狼
第一章 月の姫と騎士達
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????視点 騎士道に焦がれ、尚も諦められぬ者

 今を去る事四年前……後に“百年戦争”と呼ばれる事になるテラエ王国とアルビオン王国の間で行われていた戦争は唐突に終わりを告げた。


 戦争で家族と故郷を失い、終戦で家族の仇を討つ手段と故郷を取り戻す大義名分を失った。

 それと同時に、俺が幼い頃より志していた“騎士”へと至る道をも失ったのだ……。




 俺はテラエ王国西方にある弱小貴族“クラテール男爵家”の次男坊としてこの世に生を受けた。

 男爵家当主である父、それを支える母、俺と同じく騎士を志す兄、そして甘えん坊な歳の離れた妹。

 そんな家族と共に、所領と民を守りながら慎ましくも幸せに暮らしていた。


 俺が14歳になった年、テラエ王国軍が敵国アルビオンに大きく押し込まれ、クラテール男爵領まで戦火が飛び火した。

 まだ未成年であった俺は、父に命じられて母と妹を護り、母の実家である叔父上の家へと疎開する事になった。 俺は領に残って戦う事を希望したが、父は俺が残る事を許さなかった。


 ……程無くして、所領の陥落と父と兄の戦死の報が俺の元に届けられた。

 俺は共に戦えなかった口惜しさに震え、妹は二人の死を悼み涙に暮れた。

 母は……あまりのショックに病に倒れ、看病の甲斐も無く父と兄の後を追う事になった。


 その後、俺は15歳で成人を迎えると同時に妹を叔父上の家へ置いたまま出奔。 テラエ王国軍に志願して一兵卒として、父と兄の仇を討ち、故郷を取り戻す為に戦場へと身を置いた。



 念願の戦場に立った俺を待っていたものは……正に地獄だった。


 百年近い年月を経た戦争には、もはや大義などという青臭い言葉は存在していなかった。

 目の前に広がるのは血みどろの消耗戦であった。


 不毛な戦いの中で、テラエ王国は更に内陸へと押し込まれていった。

 アルビオン王国は、強固な港を橋頭保とし海上輸送で兵站を確保した事でその勢いを増し、テラエ王国の西方の七割を占領し、王都のある中央部へと迫りつつあった。


 その際に、その進路上にあった叔父上の所領も戦火へと巻き込まれ、叔父上は戦死、その家族と預けていた妹は戦火へと放り出されて行方不明となった。


 俺はその時点で、護るべきものをほぼすべて失っていた。

 このままいけば、祖国すらも失いかねない崖っぷちまで追い詰められていたのだ。



 だが、それは……突然の終戦宣言と共に終わりを告げる事になった。


 俺を始め、戦場にいた将兵には何が起こったのか分からなかった。

 それぐらい唐突に百年近く続いた戦争が、終わりを迎えたのだ。


 そして、それは俺たち戦場に立つ兵士や傭兵にとっては……新たな地獄の始まりでしかなかった……。


 テラエ王国は“実質上の敗北”という痛み分けで終戦を迎え、戦争で大きく疲弊した国内は混乱の坩堝へと落とされた。

 テラエ王国の西方は大きくアルビオン王国に割譲され、元々そこに住んでいた住人の一部は難民としてテラエ王国内に溢れかえった。

 兵士や傭兵には満足な褒賞を与えられず、その内の一部が脱走し野盗と化した。

 戦争を終結させた新国王はその権威を大きく損ない、王国内の北部、南部、東部の諸侯たちと、国教である十星教会との間に大きな溝を作る事になった。


 それから四年……俺は、未だにこの地獄を彷徨っていた。


 俺は戦後、“野盗化した脱走兵”……つまりは、かつての戦友たちを狩る事を生業として生きてきた。

 かつての戦友たちと言えど、“護るべきもの”に刃を向けるという、無辜の民に対する“背信行為”を許せなかった為だ。

 俺の根っこの部分の、もはや枯れ果てたと思っていた“騎士道”がそれを許さなかった。


 だから、徹底的に殲滅した。


 粗方の野盗が討伐された時……俺は再び居場所を失った。




 そして、今……


 俺はテラエ王国の東方の辺境を目指して一人、旅の空にあった。

 東方の辺境は、侵略種族である“豚人族アブルム”との最前線であり、傭兵仕事には事欠かないと聞いたためだ。


 俺は剣で糧を稼ぐため……何より、“騎士道”という己の“エゴ”を満足させるために、更なる戦場を求めて彷徨い歩いていた。










 …………ああ、いかんいかん。

 長い事一人でいると、ついつい過去を思い返してしまうな。


 俺の様な境遇の奴など、王国このくににはいくらでもいるというのに……。



 ……などと、俺が自身の事で呆れている時……。



 俺の耳に微かに“人の叫ぶ声”と“金属の打ち合う音”が聞こえてきたのだ。


 俺は背負った荷物をその場に下ろすと、躊躇う事なく駆け出した。


 また、俺の中の“騎士道わるいくせ”が疼いたのだ。

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