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テラエ王国戦記 ー月の姫と鴉の騎士ー  作者: 黒狼
第一章 月の姫と騎士達
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決着の一矢

 街道で襲撃者に襲われた私たちは防戦を強いられていました。


 前方では行商人に扮した野盗三人をレオナールが相手取り、馬車の屋根の上に陣取ったエンネアが弓で援護をしていました。

 後方では馬に乗って駆けこんできた野盗六人をシャルリーヌとルドルフが迎え撃っていました。

 そして、後方からかなり離れた場所でウィルバードが敵の首領を相手に戦っていました。


「トリスタン、皆は無事ですか?」

「レオ兄の方は大丈夫、エンネアさんの援護が上手いから多分二人だけでいけるよ。 シャル姉の方は……すごいな、二人で六人相手に拮抗してるよ」

「ウィルバードはどうなってますか?」

「首領相手に馬の機動力を生かして付かず離れず戦ってる。 上手く足止めが出来てるみたい」

「そうですか……」


 トリスタンの報告を聞いて私は一先ず、胸をなでおろしました。

 予断を許さない状況には違いありませんが、戦場は拮抗していました。


「ヘンリエット、トリスタン、今の内に従者たちを私の馬車に避難させてッ!!」

「わかりましたッ! トリス君、周囲の警戒をッ!!」

「わかったッ!!」


 私は直衛の二人に命じて非戦闘員の従者たちを私の馬車へと集めました。

 騎士たちが護る対象が一塊でいた方が良いと思ったからです。



 戦いに動きがあったのは、従者たちを馬車に呼び集めて程無くしてからでした。

 突然、私の乗る馬車の天井から物音がしたのです。

 その物音で馬車の中には緊張が走りました。


「何事ですか!?」

「ルーナ様、大丈夫。 エンネアさんだよ!」

「エンネア!?」

「姫様、戻りました。 前方は粗方片付いたので、“レオ坊や”に任せてきた」


 エンネアの言葉を聞いて前方の戦場を見ると、レオナールが野盗の一人と戦っていました。

 よく見ると周囲には、胸や頭に矢を生やした野盗が倒れ伏していました。


「レオ坊やは中々優秀、ああ見えて気遣いのできる。 援護のし甲斐がある戦士は良き戦士」


 エンネアはそう言って、レオナールをぶっきら棒に褒めました。


「前方はこれでいいとして……隊長と“お嬢さん”の方は大丈夫そうかな? そうなると……ヤバいのはウィルの方か……」


 エンネアは戦場全体を見回して、状況を見極めている様でした。



『決着をつけるッ!』



 その時です、戦場にウィルバードの声が響き渡りました。


「……合図。 ウィル、相当手こずってるな」

「エンネア、合図とは?」

「危機に瀕した時の為に、野盗狩り時代に決めていた符合。 ウィルは足が速い分、孤立しやすかったからね」


 エンネアは遠方のウィルバードの方を見ながら暫し考えると、『あたし一人じゃキツイか……』そう漏らして私の方に向き直りました。


「姫様、“護衛のお嬢さん”借りてもいい?」

「護衛……ヘンリエットの事ですか?」

「あたしと二人で狙撃してウィルを援護する」

「そうですね……ヘンリエット、行けますか?」

「…………やりますッ!!」


 そう、決断してからの行動は迅速でした。


 ヘンリエットが馬車の屋根の上に上がり、代わりに御者台に居たトリスタンが降りてきて私の直衛に付きました。

 エンネアはヘンリエットの立ち位置を確認すると、ヘンリエットの少し前に進み出て跪きました。


「お嬢さんのは“魔法の矢”を弓で撃つんだっけ?」

「は、はいッ!」

「あたしが合図をするから、合図とともに撃って。 最悪、近くを掠めるだけでもいいから」

「あ、当てなくてもいいんですか?」

「うん、相手の気を引くだけでも意味があるからね」

「……わかりました!」


 ヘンリエットは覚悟を決めると、短く祝詞を呟いてその手に“光の矢”を顕現させました。


「そろそろ来る……構えて」

「はい!」


 二人は息を合わせると、同時に弓を引き絞りました。


「ルーナ様ッ!!」


 固唾を飲んで二人を見守っていた私に、トリスタンが慌てた声色で呼びかけてきました。


「どうしました!?」

「ウィルさんが落馬させられたッ!!」

「落馬ッ!? ウィルバードは無事なのですかッ!?」

「攻撃自体は防いだみたいだけど……思いっきり馬上から投げ出されてる!!」


 なんという事でしょう!

 ウィルバードは私たちの近くに駆け込んでくる寸前で、首領の投げ放った戦斧の攻撃を受けて馬上から投げ出された様でした。

 ウィルバードは何とか立ち上がろうとしているのですが、それよりも早く首領が戦斧を手にウィルバードのすぐ背後まで迫っていました。


「エンネアさんッ!」

「……大丈夫、射程距離内。 戦斧を振り上げたタイミングを狙うよ」

「……は、はい!」


 首領は鮫の様な笑みを浮かべてウィルバードへ向かって戦斧を振り上げました。


「今ッ!!」

「は、はいッ!!」


 戦斧が振り上がった瞬間を狙って、二人の弓から矢が討ち放たれました。

 ヘンリエットの矢は光の軌跡を描きながら、エンネアの矢は僅かな風切り音を伴って、ウィルバードへトドメを刺さんとする首領へ向かって飛来しました。


 矢が首領に突き刺さる直前、首領は“ウィルバードを見据えたまま”空いている左腕を上げました。

 眉間を狙ったエンネアの矢が首領の腕に突き刺さりました。

 そして、もう一矢……ヘンリエットの放った魔法の矢が首領の顔の横をすり抜けて行きました。


「は、外れたッ!!」


 私たちがそう思った瞬間……ほんの僅か、首領が矢に気を取られた一瞬にそれは起きました。


 一瞬の隙を突いてウィルバードが身を起こしました。

 そしてその勢いのまま、その身体ごと首領に突撃したのです。


「なッ!?」

「ザカリアスッ!!!」


 ウィルバードはその身を“一矢”と化して、手に持つ柄の折れた槍を首領の胸に突き立てました。

 そのままの勢いで首領を押し倒したのです。

 そして、胸を貫かれた首領の手から戦斧が音を立てて落ちました。


「敵将“猛虎”のザカリアス……“紅駒”のウィルバードが討ち取ったぞッ!!!」


 血濡れの穂先を天に掲げて、ウィルバードの勝ち名乗りが響き渡ったのです。

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