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テラエ王国戦記 ー月の姫と鴉の騎士ー  作者: 黒狼
第一章 月の姫と騎士達
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ウィルバード視点 紅駒対猛虎

 僕の名はウィルバード。

 テラエ王国西方にあるコリエ村村長の次男坊です。

 コリエ村は王国西方でも屈指の軍馬の産地として知られていました。

 だからでしょうか、十数年前に敵国アルビオン王国の軍に攻め込まれました。

 僕はまだ子馬だった愛馬のクラージュと共に辛くも逃げ延びる事が出来ましたが、僕の家族や大勢の村人が犠牲になりました。


 家族を失い、故郷を失った僕は最後に残った“家族”とも言えるクラージュを他者に奪われたり、軍に徴発されるのを防ぐために成人前に軍に志願しました。

 数年間は馬番を務めクラージュが戦場に出せるぐらいに成長した後は、その背に跨りアルビオンとの戦争に身を投じました。

 戦後は数年間、脱走兵狩りの傭兵を務めた後、傭兵時代の上官であったルドルフ卿に従士として仕える事になりました。



 そして僕は、かつて戦場を共にした男……脱走兵ザカリアスと対峙していました。


 ギラついた瞳、不敵に笑う口元、使い込まれ良く手入れされた二本の戦斧、まるで“猛獣”を思わせる様な殺気……。

 かつて戦場で“猛虎”の異名で恐れられた戦士がそこにはいました。


「先ずはてめぇか、ウィルバードッ!!」

「両手に戦斧……ザカリアスかッ!!!」

「何年か会わない間に“よちよち歩きのこうま”が立派になったもんだなぁッ!!!」

「人の命を何とも思わない“獣”が、とうとう“猛獣ケダモノ”にまで落ちたかッ!!!」

「ぬかせッ! “不落”と殺やりあう前の前哨戦だッ!! てめぇからぶっ殺してやるよッ!!!」


 そう言うとザカリアスは、二本の戦斧を振り上げて僕に向かって躍りかかってきました。

 僕は咄嗟にクラージュの手綱を引いて後ろに飛び退いて、振り下ろされる戦斧を寸でのところで回避しました。

 ザカリアスは着地と同時に再び躍りかかる挙動を見せていたので、僕はその動きに先んじて槍を突きつけて牽制して動きを抑制しました。


 一撃でわかりました、ザカリアスは強い……特に戦斧を軽々と扱う膂力と、それを持ったまま馬上に切りかかれる跳躍力は脅威だ。

 正面から戦えば敗れる……。


 そう思った僕は、手綱を引いて馬首を返しました。


「てめぇ、逃げる気かッ!!」

「何故、騎兵が歩兵に合わせて戦ってやらねばならない?」


 僕はザカリアスと正面からやり合うのを避け、馬の脚を生かした戦いに切り替えました。


 馬の脚を止めずに相手の横を掠める様に走り抜けて、すれ違いざまに槍を繰り出して即座に離脱。

 そうやってザカリアスをじわじわと追い込んでいきました。

 一方、ザカリアスの方は二本の戦斧を巧みに振り回し、僕の槍を捌いていきます。


 攻撃と離脱を繰り返す事数十回、これでもザカリアスは崩れません。

 それどころか、最初は防戦一方だったのが小さな隙を見つけると戦斧を振り下ろしてくる始末でした。


 このままではいずれ捉えられると思った僕は、“一計を案じる”事にしました。

 とはいっても、強敵と相対した時にどう動くかをルドルフ卿とリンネアと三人で決めておいただけなのですが……。


 僕はザカリアスと距離を置いて対峙すると、“槍を高々と頭上に掲げ”ました。


「決着をつけるッ!」

「面白れぇ、やってみろッ!!」


 ザカリアスが僕の徴発に乗ったのを確認して、僕はクラージュを駆って突撃しました。

 それを迎え撃つべく、不敵な笑みを浮かべて二本の戦斧を構えるザカリアス。

 ザカリアスが戦斧を振り上げた瞬間、僕は手綱を思いっきり引いてクラージュの駆ける方向を強引に曲げました。


「何ッ!?」


 驚愕の表情を浮かべるザカリアスを横目に、僕はザカリアスに“背を向けた”のです。

 これはザカリアスの敵意を僕に一身に集めさせるための“挑発”でした。


 さぁ、乗ってこい!


 わざと隙を見せて“罠”に誘い込む策です。

 これで怒り狂って追ってきてくれれば……。

 そう思って後ろを見たとき、ザカリアスは僕が想像だにしない動きを見せていました。


 不敵な笑みを浮かべながら、“その場で左手に持った戦斧を振りかぶっていた”のです。


「“化かし合い”はまだまだ“こうま”の様だなぁ!」


 まずいッ! 僕は咄嗟に手に持つ槍の柄を背中に回しました。

 そして、それと同時にザカリアスの戦斧が唸りを上げて僕に投げ放たれたのです。

 槍の柄を背中に回した直後、飛んできた戦斧が僕の背中に激突しました。

 上手く槍の柄を盾にできたので斧刃が身体に突き刺さる事はなかったのですが、受け止めた槍の柄は折れ僕の身体は馬上より放り出されてしまいました。

 咄嗟に受け身を取った為大事には至らなかったものの、槍は半ばから折れ落馬の衝撃で身体のあちこちが悲鳴をあげていました。


「良いザマだなこうま


 身を起こそうとしている僕のすぐ背後にすでにザカリアスは立っていました。

 獰猛な笑みを浮かべたまま、戦斧を振り上げて……。


「終わりだッ!!」


 ……落馬させられたのは想定外だったが、“罠”には追い込めました。

 僕は折れた槍を両手で握りしめました。


 戦斧が振り下ろされる直前、僕の耳に“小さな風切り音”が聞こえたのです。

 僕はそれを合図に無理やり身を起こして、折れた槍を手にザカリアスへと突撃しました。

トピックス:ルーナ一行の従者たち



 ライアン  二十歳 男性


 金色の髪に青い瞳、取り立てて変わった所の無い平凡な体躯をした青年。

 新規でルーナに雇用された従者たちの纏め役で、代々貴族や騎士の従者を輩出している家の出身。

 取り立てて得意な事はないが、何でもそつなくこなす。

 口数こそ多い方ではないが、周囲に目配りができる男。



 アダン  十八歳 男性


 茶色の髪に緑の瞳、長身で逞しい体躯の大男。

 新規でルーナに雇用された従者、元は領内の商会で雇われていた荷運び労働者。

 力自慢な上に野外の天幕設営など野営の心得もある。

 陽気で人見知りをしない性格で、人と話すのが好き。



 ジゼル  二十一歳 女性


 黒い髪に鳶色の瞳、女性としては長身で平均的な体躯。

 新規でルーナに雇用された従者、実家は領都の下町にある食堂。

 実家仕込みの料理の腕を買われて従者となった。

 昔、男がらみで痛い目にあった事がある。

 少々斜に構えている所があるが、面倒見の良い女性。



 コゼット  十五歳 女性


 灰色の髪に青い瞳、小柄で華奢な体躯。

 新規でルーナに雇用された従者、教会の孤児院出身。

 成人と同時に見習いとして城で従者をしていたのをルーナに引き抜かれた。

 最低限の読み書き計算と礼儀作法を教えられているので、その辺に疎いアダンやジゼルのフォロー役もこなしている。

 大人しく控えめだが芯は強く、言うべき事はハッキリと言う少女。

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