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テラエ王国戦記 ー月の姫と鴉の騎士ー  作者: 黒狼
第一章 月の姫と騎士達
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踏み出す者

 私の直臣にルドルフが加わる事となりました。

 騎士として取り立てる事になるので領主であるお父様よりご許可をいただく事になるのですが、それは即日で許可が出ました。

 どうやらお父様は、ルドルフを臣下に加える事を想定しておられた様でした。


 そうして正式にルドルフを臣下に加えた翌日、再び臣下達が私の部屋に集いました。


「皆、揃いましたね」


 私がそう言うと、臣下の皆が一斉に跪いて頭を垂れました。


「皆、楽にしてください。 早速、話し合いを始めましょう」


 ルドルフを臣下に加えた事で陣容の強化はできました。

 ですが、彼はあくまで騎士です。

 書類仕事や物資管理を担当する官吏や、紋章や軍旗で身元を判断する紋章官は私の臣下にはおらず、身の回りの世話をする侍従もリーズ一人しかいません。

 それらの人材を新しく登用する必要がありました。


「軍を率いるならば官吏は相応な数が必要でしょうが、小規模の使者の一団ならば一通りできる官吏が一人でも問題無いでしょう」

「そうなるとベテランの官吏を登用したい所ですけど、重要な役職についてないベテランがいるのでしょうか?」

「まあ、官吏に関してはベテランに拘る事も無いかと思いますが、問題は紋章官ですね。 紋章官にはある種の素養が求められますから」

「あの……よろしいですか?」


 シャルリーヌとルドルフが中心となって話し合いが行われている所にヘンリエットが控えめに割り込んできました。


「どうしましたか、ヘンリエット?」

「はい、官吏と紋章官についてですが、“兼任”できる方に覚えがあります」

「官吏と紋章官の兼任はいない訳ではないが、かなり希少な人材だぞ?」

「私と同年代の方で、代々紋章官を輩出しているピエリス子爵家のご息女です。 数年前までモンターニュフォール公爵領にある全寮制の神学校に留学している時にともに学んだ仲です」


 彼女の言う通り、ヘンリエットは騎士に叙勲する直前まで他領の神学校に留学していた時期がありました。

 ですが、殆どは貴族の子女の箔付けの為の神学校と聞いていました。


「彼女が言うには、ピエリス家では家訓として紋章学を学ぶ事が義務付けられていたそうです」

「では、家訓として紋章学を学びつつ、官吏を目指していたと言う事か?」

「その様です。 見習いとして城に務めているそうなのですが、私自身がルーナ様の護衛騎士として忙しくしていたので久しく会っていなかったのです」

「それが事実なら、若くして大した才覚の持ち主の様ですね」

「はい、優秀で人柄も良い子でした。 ただ、優秀な兄弟姉妹の中で育ったので自信無さげな所がありましたが……」


 優秀な兄弟姉妹……ですか。

 王都にお勤めのヒューゴお兄様や、お嫁に行かれたお姉様たちを思い出しますね。

 優秀な兄弟姉妹の中でという所に、何やら共感を感じてしまいました。


「その方にあって話をしてみましょう。 ヘンリエット、その方の名前を伺ってもいいかしら?」

「はい、その子はピエリス子爵の末の息女で名は“ジャスミン”です」

「では、ヘンリエットはその方に連絡を取って、後日この場にお招きしてきてください」

「承知しました」


 ジャスミンを後日、この場に招く事を決定した時点でこの日は解散となりました。



 そして、数日後……




 私の部屋に私の臣下達が集う中、ヘンリエットに促されて一人の女性が部屋の中へと入ってきました。


 ヘンリエットと比べてやや背が低くか細い印象で、前髪を長く伸ばしているのか眼にかかるほどの長さがありました。


「ルーナ様、改めてご紹介いたします。 私の学友で官吏見習いの“ジャスミン”です」

「お、おおお、お初にお目にかかりますッ! ぴ、ピエリス子爵ラドスワフの末娘、ジャスミンでございますッ!」


 ヘンリエットに紹介を受けたジャスミンは緊張のあまり、所々どもりながら自己紹介をしました。


「ようこそジャスミン、私の招きに応じてくれて嬉しく思います」

「は、はいッ! お招きいただきありがとうございますッ!!」

「お招きしたのは他でもありません。 貴女に私の家臣団に加わっていただきたくお呼びしました」

「ひ、姫様の家臣団に……ですか!? この私がッ!?」

「はい、ヘンリエットから貴女の事を聞いて、官吏と紋章官を兼任できる程の逸材であると聞いたのです」

「た、確かに父や兄姉より幼少の頃から紋章官としての知識を叩き込まれてきましたし、並行して官吏としての勉強もしてきましたけど……ヘンリエットさんが言う程の逸材という訳では……」


 ジャスミンは自身無さげに俯きました。

 ヘンリエットが言ってた通り、自身に自信が持てていない様です。


「彼女の上司の方に聞いた話では“書類仕事は丁寧で優秀だけど、対人に難あり”との事です。 神学校時代も座学は常に上位でしたが、対人が絡む行儀作法等は失敗が多かった印象です」

「実務作業は得意だが、交渉事は苦手と言う事か……」

「す、すいません……覚える事は得意なのですが、他人の視線があるとど、どうしても萎縮してしまって……で、ですから……その……私ではひ、姫様のお役に立てるかどうか……」


 ジャスミンは完全に委縮しきっていました。

 元々、自覚してた事を改めて口に出された事が彼女を更に萎縮させてしまった様です。


 少なくとも使者としての役割は私の仕事なので、表立っての仕事は“私への助言”と“記録を残したりする秘書”なので直接交渉事等はしないのですが……

 この先、交渉事を任せると言う事もあるでしょう。

 ……どうしたものでしょうか?


「ジャスミン嬢、よろしいか?」

「は、はは、はいッ!!」


 委縮していたジャスミンに唐突にルドルフが話しかけました。

 普段の“不器用だけど温和”な雰囲気と違い、どこか“咎める”様な棘を持った声色の様に感じました。


「貴女はこのままで良いと思っているのか?」

「……ッ!!」


 声自体は冷静なものですが、ルドルフの言葉は叱責の様に聞こえました。

 どうやらジャスミンは“苦手を理由にして前に踏み出せない”でいるだけの様でした。

 ジャスミンの方は“図星”を突かれたからか、涙目になっている様です。


「ルドルフ、控えなさい」

「は、差し出がましい真似を致しました」


 私が止めに入ると、ルドルフは驚くほど簡単に引き下がりました。

 どうやらルドルフはジャスミンに“踏み出せない”事を自覚させるためにわざと厳しく言った様です。


「私も皆も、まだまだ未熟で色々な人から指摘やお叱りを受けています」

「え……姫様が、ですか?」

「私も、私の護衛騎士たちもです」


 もしかしたら、彼女は周囲の“過度な期待”に怯えていたのかもしれません。

 思えば彼女は私の護衛騎士おさななじみたちと同年代でした。


「私は主としてジャスミンを護ります。 ですから、貴女には私たちの為に力を貸してほしいのです」

「ひ、姫様……」

「私たちと共に歩んでほしいのです、ジャスミン」


 私はそう言って、ジャスミンに右手を差し出しました。

 ジャスミンは少しの逡巡の後その場で跪いて、僅かに震える手で私の手を取りました。


「ひ、非才の身ではありますが、ご期待にそぐわぬ様に務めて行きたいと存じます。 私の忠誠を我が主へ捧げます……」

「貴女の忠誠を嬉しく思います。 共に成長していきましょう」

「は、はい、ルーナ様!」




 こうして、官吏兼紋章官のジャスミンが臣下に加わりました。

トピックス:リュヌブレーヌ宮中伯領の陪臣



 ゲルベラ子爵家


 リュヌブレーヌ宮中伯家の筆頭家臣であり、代々多くの騎士団重鎮を輩出している部門の家。

 現当主は宮中伯家の騎士団長を務めている。

 現当主は男児に恵まれず、子供は女児三人で長女であるシャルリーヌを嫡子と定めている。



 レオンピエ子爵家


 リュヌブレーヌ宮中伯の家臣で、騎士や侍従等、幅広い人材を輩出している家。

 主に家宰として王都に赴く現当主の護衛騎士や侍従に抜擢される事が多い。

 故に宮中伯家臣の中では王国中央に顔が利く。

 現当主とその嫡男は、現宮中伯ヒューゴの臣下として王都に赴いている。



 ピエリス子爵家


 リュヌブレーヌ宮中伯の家臣で、紋章官を多く輩出している名門の家。

 現当主には正室、三人の側室、正室側室の子供が合わせて十四人いる。

 現当主は前宮中伯ギャスパルの紋章官を、嫡男は現宮中伯ヒューゴの紋章官を務めている。



 ウィエ男爵家


 リュヌブレーヌ宮中伯の家臣で、初代当主が聖騎士で前宮中伯の夫人が輿入れの際に付き従った侍従(森人族)が嫁入りした家。

 家訓によりウィエ男爵家の息女は数年間、モンターニュフォール公爵領の神学校に留学する事になっている。

 現当主は前宮中伯夫人マルゲリットの護衛騎士を務めている。



 カランコエ男爵家


 リュヌブレーヌ宮中伯の家臣で、宮中伯領内最大の牧場を所有する家。

 軍馬の生産を主な仕事としており、現当主の子息トリスタンの愛騎である鷲馬ヒポグリフもその牧場で偶然産み落とされた。

 現当主は騎士団の騎兵指南役を務めている。

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