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テラエ王国戦記 ー月の姫と鴉の騎士ー  作者: 黒狼
第一章 月の姫と騎士達
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騎士の誓い 後編

「カルムランド伯爵の所業は東部の騎士の間でも良く知られているが、それがどうしたんだ?」

「“王家に離反して敵国に奔った主君に置き去りにされた陪臣”を世間はどう見ると思う?」


 ルドルフはそう言ってどこか寂し気に笑みを浮かべました。


「元来、主君と陪臣は、世間的には“評価は紐づけられるもの”……つまりは、そういう事ですか?」

「“主君を諫められなかった無能”、“裏切り者の臣下”……生き残った臣下の家族は色々と言われたものです」

「ルドルフ殿の武功で今まで騎士として召し抱えられなかったのは、そのような風聞があったからと言う事ですか……」

「“裏切り者の臣下”を好き好んで自身の臣下に加えた場合、周囲からどの様な目で見られるかと言う事です。 母と妹を匿ってくれた母方の叔父ですら、私を騎士に取り立てる事を臣下達に諫められてたぐらいでしたから……」


 ルドルフの言葉に私たちは押し黙ってしまいました。

 大まかな事情を知っていたシャルリーヌたちも、残された臣下やその家族のその後を知らなかった様でした。


「その事を踏まえた上で今一度、お召しなるかどうかをお決めいただければと思います」


 そう言ってルドルフは、跪いたままゆっくりと瞳を閉じました。

 その姿を見てシャルリーヌが、気まずそうに口を開きました。


「迂闊でした……臣下へと迎えるのならば、その人物の来歴などを下調べしておくべきであったのに……」

「でもシャルちゃん、大旦那様はその失敗を含めて学ばせようとなさっているのではないかしら?」

「それでも、本人の口から言わせた事が問題なの! ほんの少しでも目端が利いていればこんな事には……」

「今更、そんな事言っても仕方無いだろ! それを言うなら最初に言い出した俺だって!」

「シャル姉もレオ兄も落ち着いて! ルーナ様を置いてきぼりにしてるよ!」


 どうすればよいか判らなくなって押し黙ってしまった私を尻目に、私の護衛騎士たちが言い合いを始めてしまいました。

 特にルドルフを推薦したレオナールと、皆の纏め役であるシャルリーヌは責任を感じている様でした。

 その様な状況で私はどの様にすればいいか答えが出せずにあたふたしていました。


「フフ……姫様はとても良い臣下をお持ちの様ですね」

「……ルドルフ様?」


 私の護衛騎士たちが右往左往している様を見て、ルドルフが“眩しいもの”を見てるかの様に微笑んでいました。

 それが私には“羨望”の眼差しにも“憧憬”の眼差しにも見えました。


 もし、ルドルフがこの子たちみたいに順当に騎士としての道を歩めていたのなら、こんな風に同僚と言い合いが出来たのでしょうか?

 そんな些細な事ですら羨望の眼差しで見つめなければならないとするならば、それはとても悲しい事の様に思えました。


 私に何ができるでしょうか?

 私に…………


「……皆、静粛に」


 私は覚悟を決めると、皆を黙らせました。

 今まで言い合いをしていた護衛騎士たちは、呆けた顔で私に視線を向けていました。

 今まで口を挟まなかったリーズは何も言わずに、私に一礼して私の後ろに付きました。

 そしてルドルフは跪いたまま私に向かって頭を垂れました。


「ルドルフ様。 いえ……“クラテール男爵ウォルフリックが次子、ルドルフ”」

「はッ!」

「貴方を私、“先代リュヌブレーヌ宮中伯ギャスパルの娘、ルーナ”が召し抱える事を望みます。 “私の騎士”となって貰えますか?」


 私はそう言うと、椅子から立ち上がってルドルフに向かって右手を差し出しました。


「ルーナ様、先ほどの話の件はいかがいたしますか?」


 私に気を使ってくれたのでしょう、沈黙を守っていたリーズが私に問い掛けてくれました。


「確かにその様な風聞もあるのでしょう。 でも、それがルドルフの将来の障害にならなければならないのでしょうか?」

「ですが、その様にルドルフ殿が見られる事もあるでしょうし、それがルーナ様やその臣下の評価に影響する事もあるでしょう」

「はい、それはあると思います……」


 私は改めてルドルフの方を言いたい者には

「それならば、私は……私の在り方でそれを黙らせます! 皆を私の誇りと思っている様に、ルドルフの事も“私の誇りである”と言いたいのです!」

「姫様……」


 頭を垂れていたルドルフが、驚きの表情で私の顔を見上げました。


「……本当によろしいので?」

「言いたい者には言わせておけば良いのです。 それよりも私は、貴方の才を惜しみます」

「ありがたき幸せ……」


 そう言うとルドルフは右手を左胸へと押し当て、その右手を私の前へと差出ました。


 “自らの命を預け、忠誠を捧げる”という意味を持つ“最大限の忠誠”を示す仕草でした。


 私は差し出された手に自身の右手をそっと添えました。

 ルドルフは私の手を取ると、私の手の甲にそっと口づけました。


「我が命、我が忠誠を我が主に……」

「貴方の忠誠嬉しく思います、ルドルフ」



 こうして、騎士の誓いは立てられました。

トピックス:百年戦争その二



 百年戦争という戦役は、テラエ王国とアルビオン王国との戦争であると思われがちだが、実質はテラエ王国西部を舞台にした“テラエ王国の中央、西部諸侯”と“アルビオン王国の国王派の南部諸侯”との紛争である。

 それに、それ以外の諸侯が利権を求めて介入を繰り返した事により紛争は泥沼化して行く事になる。


 それによってテラエ王国内で莫大な利権を得たのが、北部諸侯と十星教会教皇庁だ。


 北部諸侯は現ウラガンフォール公の父親が主導して、食料と鉱物資源を専売して莫大な利益を得て、王国に対して大量の物資の提供と多額の献金をした。

 その功績によって、当時断絶していたウラガンフォール公爵の地位、自身の子息に王女の一人を降嫁させる事を国王に認めさせる事に成功している。


 教皇庁は紛争で困窮する中央諸侯に多額の融資を行った。

 最初は大した額ではなかったが、長年続いた紛争のせいでその額は莫大なものとなり、多くの利権が教皇庁の所有となっている。

 現在、多くの王家直轄地は教皇庁の“植民地”の様な状況になっている。

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