ノリがいい隣の席の相沢さんに告白するまで
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ありがとうございます
「教科書忘れた……」
「見せたげるよ」
そう言って机をくっつけてきた隣の席の相沢さん。やっさしい。
「ありがとう」
それにしても席をくっつけるとこんなにも距離が近くなるなんて聞いてない。近すぎる。
すぐ横を向いたら相沢さんの顔があって少し手を伸ばせば触れられる距離。
そんな一人ドキドキしている俺をお構いなしに相沢さんは下から覗きながらニヤリとする。
「な、なに?」
「いっやぁー? 君が忘れ物するなんて珍しいなって思ってね」
「今日は雨でも降るのかな」なんて外を見ながらおかしなことを言う。
「そりゃ人間ですもの。忘れ物だってしますわ」
「あはは」と相沢さんが楽しそうに笑う。俺との会話でこんなに笑ってくれるなんて嬉しいな。
俺は相沢さんの隣の席になってから相沢さんの事が好きになった。誰にでも優しくて、気軽に接してくれて明るくて可愛い。
隣の席になる前からたまに話しかけてくれたけど、隣の席になった今は滅茶苦茶喋ってる。
たまに授業中うるさくして先生に怒られる時もあるけど。
「もー君のせいで怒られちゃったじゃんかー」と冗談で俺だけのせいにしたのが記憶に残っている。ちょっと膨れた顔が可愛かった。
そんなこんなで相沢さんと喋っていると楽しくて、俺はいつの間にか好きになっていた。けれど、性格や容姿が良いので男女共に人気。
そんな彼女と付き合いたいとは思うけど、俺には届かない高嶺の花のような存在だ。無理に決まってる。俺の他にも相沢さんと付き合いたいと思ってる人は沢山いるだろうし。
俺は性格が特段良いわけでも無ければ、容姿が整っているわけでもない。ましてや運動や勉強も平均。特に何も取り柄がない俺が他人と競ったところで全て劣っているから勝ち目がないのだ。
つまりこれは叶わぬ恋。
でも可能性が0ってわけでもないだろう?! 0.1パーセントでも可能性があるのなら俺は諦めたくない。
授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。
「はーい、今日はここまでね。あ、そうだ来週席替えするからねー」
そう言い残して先生は教室から出て行った。
「やったぁー!!」「しゃぁぁぁ!」「隣になれるといいねー」などとそれぞれが喜びの言葉を口にする。
……まじか。このタイミングでかよ。相沢さんと隣で、折角学校が楽しくなり始めていた時に席替え。
はぁ……残り短い相沢さんの隣を楽しもう。
俺は皆とは対照的に落ち込むのだった。
「あ、教科書見せてくれてありがとね」
「うん! 奢ってねー!」
屈託のない笑顔でさらりと奢ることを要求してきた。
「初めからそれが目的か貴様……」
「うんそうだよ」
悪びれる様子もない。まぁ確かに見せてもらったからにはお礼はした方がいいよね。来週席替えだし今までありがとう的な感謝の気持ちも込めて的な?
「しょうがないなぁ。いいよ。何奢って欲しいの?」
俺が承諾すると相沢さんは驚いた表情をしていた。
「え?!いいの?!」
「冗談で言ったつもりだったんだけどな」と少し困惑させてしまった。
「日頃のお礼も兼ねてね」と俺が言うと相沢さんは「なにそれ」と笑ってくれた。
「そうだなぁ。君が良いって言うならお言葉に甘えようではないか」
「なんで相沢さんの方が偉そうなんだよ。奢るの俺だぞ?」
「ふふっ、じゃあ放課後までに考えておくね」
「了解」
放課後になった。相沢さんと話すのが楽しくて時間があっという間に過ぎていく。来週席替えをすると言われてから今までずっと考えていたが、告白するなら今日しかないのでは?
もう2月。あと1ヶ月もせずにこのクラスも終わり。告白して振られたとしても、席替えもするし同じクラスじゃなくなる可能性が高い。気まずい思いもそんなにしなくて済む。そして相沢さんは人気だからいつも誰かと一緒にいる。そう、中々二人きりになれるタイミングがないのだ。
だから今日が絶好の機会だ。今日しなかったら恐らくこのまま一生告白する機会を失うだろう。
席替えで席が離れて、あまり話すことが無くなって。クラス替えで違うクラスになったらもう話すことはないだろう。そしてそのまま終わる。
それでいいのか? 良くない。告白しなくて後悔するよりも告白して後悔した方がスッキリする。
俺は今日告白する。そう覚悟を決めた。
「よーっす。んじゃ行きましょうかねぇー」
帰り支度がお互い終わると一緒に外に出る。少し、いやかなり周りの視線が怖い。そりゃそうだろう。美人で可愛くて性格も良くて人気の相沢さんの隣を誰やねんってパッとしない男が歩いてる。
告白するって覚悟を決めたら心臓が異常なほど脈打つのが分かる。滅茶苦茶緊張してる。
「今日も疲れたねぇ」
「そ、そうだね」
今まで普通に顔をみて話せていたのに顔が見られない
「~~――でさぁ?」
頭が回らない。話も入ってこない。
「ちょっと聞いてる?」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
「まったくもー」
相沢さんは不思議そうな顔をしたものの、深堀はしなかった。
女子高生など若者に人気のカフェ。それを相沢さんに奢った。
「2つで1000超え……たっか…………」
1000円札が無くなった財布の中身を見ながら驚愕する。高すぎだろ。こんなの週1でも金欠なるわ。
「ふふふーごちでーす」
相沢さんは奢ってもらって上機嫌。とても美味しそうに幸せそうに飲む。そんなに喜んでくれるならまた奢って上げたいなと思ってしまった。
これが推しとかに貢ぐ気持ちか?!
相沢さんと帰路を歩みながら、何気に初めて飲む高いカフェラテ。値段が高いから美味しくなかったら許さんと思い飲んでみたが「うん、うめぇ」この美味しさならそりゃ人気になりますわと納得。
「カロリーやばそうだなこれ」
「こらー!嫌な事思い出させないで!」
「すんません」
「まったくもー、最近体重増えたんだよねぇ」
「え? どこが」
「うるせぇ、気にしてんだよ」
「全然スタイルいいと思うけど」
「なに見てんだ変態」
「相沢さんみてます」
告白するタイミングが分からなすぎる。なんかいつもよりもキモいこと言ってるような気がする。頭がこんがらがって上手く機能しない。
いつも通りに見えるかもしれないが緊張しまくって自分が何を言ったのか覚えていないという魚の記憶力になっている。
「ま、今日はありがとね」
この緩急がえげつない。ふざけあってる時に急に来るマジの感情。
ドキッとしてしまう。
「そういえば来週席替えだねぇ」
「そうだね」
「私と離れるの寂しい?」
「うん」
あっ……。
思わず本音が漏れてしまった。
「そうかそうか、私も寂しいよ。なんだかんだ君と話すの楽しいからね」
俺はもう一度覚悟を決め、生きてきた中で一番の勇気を振り絞る。きっと今まで勇気が出せなかったのは今、この一瞬に使うため。
溜めに溜めた勇気をここで全て使い切る気持ちで、緊張で乾いた口を開く。
「あ、相沢さん……あのさ」
「うーん?」
前を向いていた相沢さんはキョトンとした顔でこちらを向く。
俺の真剣な表情をみて相沢さんは何か察したのか次の言葉を待ってくれる。
「俺、相沢さんの事が好きです」
遂に言ってしまった。恥ずかしすぎて身体が熱い。まともに顔を見れない。相沢さんと目が合うが、直視できずに目を泳がせる。
しばらくの沈黙。
あぁ、これ無理な奴か。顔見れない。気まずい。
呼吸が段々荒くなってくる。息苦しい。あぁ、言わなければよかったと後悔の念が押し寄せてくる。
「それで」黙っていた相沢さんは口を開くと優しい口調で問いかる。
「それで君はどうしたいの?」
あ、そうか。俺はまだ「好き」という気持ちを伝えただけ。
「つ、付き合いたいです……」
自信なさげにしょんぼりと言う。今の自分キモ過ぎだろ。もっとしゃきっと勢いで告白すればちょっとはマシだったかも。完全にタイミング間違った。
あぁ、タイムリープしたい。
「ふーんそれだけ?」
「え?」
そ、それだけってなんだ? 何か足りない?! 相沢さんは何かを待っている。なんだ? 何を言えばいいんだ。付き合いたい、それだけ? いいや違う。
顔を上げ、俺は自分がしたいことを思い浮かべながら口に出す。
「今日みたいに一緒に帰ったり、一緒に映画みたり、デートしたり、買い物に振り回されて荷物持ちさせられたり、あーんとかし合いたいし、手も繋ぎたい。1時間くらいずっと抱きしめたいし、相沢さんを独り占めしたい。学校で一緒にお昼食べたいし、皆に隠れて授業中に手とか握っときたい。膝枕とかしたいしされたい。誕生日やクリスマスとかも一緒にいたい。相沢さんと一緒にご飯とか作りたい。き、キスとかその先も……。つ、つまりずっと一緒にいたい」
「ふんふん、つまり?」
「相沢さんと――結婚したいです」
はっ?! 何言ってんだ俺……。そこで我に返り、相沢さんの表情を恐る恐る見ると、初めて見るような真っ赤な顔になっていた。
「よ、よくもまぁそんな恥ずかしい事言えたね」
相沢さんは顔をパタパタと手で仰ぎながら痛い所を突いてきた。
「お、俺も自分でびっくりしてるよ……」
お互いに顔をりんごの様に赤くして黙り込む。今の状況を他人が見たら挙動不審のただのやばい2人。
ここは人目が少ないにしても人はいる。恥ずかしすぎる。場所まじで間違ったな。
「そ、それで返事は……」
急かすようで悪いけどこれ以上は恥ずかしくて死ぬ。体温が上がり過ぎて、鼓動が早くなりすぎて、死ぬ。
相沢さんは顔を上げ、俺と目を合わせる。そして屈託のない今まで見た中で一番の笑顔で一言。
「……いいよッ!」
俺はそこで再び認識した。やっぱり俺は相沢さんが好きだと。例え振られたとしても、同じ事を思っただろう。
――END――
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