黄昏のスケルトンの保険
ランスは困った顔で答える。
「保険金自体は大した事ないんだけどね」
魔法保険の保険料は『万一の起きやすさ』✖︎『保険金の難易度』で決まる。
『用意された花火を上げる』という保険金の難易度は恐ろしく低い。しかし、『ホッファートの成仏』というトリガーは確率が高すぎる。よって保険料が高くなるのは明らかだった。
「どんな保険料でも払うつもりです!全ては彼女の為に!」
「わかったよ、とりあえず審査にかけてみよう」
ランスが『メーカー』を掲げる。宙に浮きパララララーっとページがめくれ、ゆっくりとランスの手元に戻っていった。
「審査は通ったね。保険料は、デミュートの肖像画?だそうだよ」
「デミュート?……ああ、そんなものが保険料になるとは」
ホッファートはどこかつまらなそうだ。
「珍しいケースだけどね。何か訳ありの絵なのかい?」
「……いえ、大した物ではありませんよ。以前にタチの悪い悪魔を封じた絵画でしてね。もしかしたら魔法学的に価値があるのかも知れません」
元宮廷魔道士であったホッファートであれば、そういった物を所有していてもおかしくはない。それにどれだけの価値があるかは、今はまだメーカーにしかわからないが。
「じゃあ契約成立だね」
《保障内容》
契約者:リーベ・ホッファート
職業:スケルトン
1 昇天花火保険
保険金:用意された花火の打ち上げ
保険事由:死亡
保険期間:契約日の翌日から1週間
保険料:デミュートの肖像画
払込期間:終世
無事契約が済み、カタカタと笑うホッファート。そのホッファートが笑うのピタリとやめ教会入り口に顔を向けた。
「そうこうしている間に彼女が来たようです。お2人とも少しの間だけ一緒にいてくれませんか?こんな姿で1人佇んでいるのを見たら彼女は怖がってしまいます」
確かに薄暗い教会にスケルトンが突っ立っていたら誰だって怖しい。ランスとスコールは引き合わせる所まで付き合ってあげる事にした。
ホッファートはローブを目深にかぶって顔を隠す。それから程なくして入り口から顔を覗かせたのは、どこか疲れた顔をした20歳頃に見える美しい女性だった。
ランス達を認識したのだろう。身体をビクリと震わせ、立ち止まった。唇を噛み締め、息を飲み、意を結して恐る恐る声をかける。
「あ、あの……あなた達は……?」
震える女性の問いかけに、ランスは努めて優しい声色で返答した。
「僕はランス、旅の保険屋さ。こっちは相棒のスコール。怖がらなくて大丈夫だよ」
「保険屋さん……」
ランスは白髪の美少年だ。雰囲気も柔らかく一目で安心感を与える容姿である。
彼女も少しだけ緊張が緩んだようだ。
「そうなのね、えっと、私はユミリテ。実は人と待ち合わせをしてて。私くらいの歳の男の人を見かけなかった?」
「うん、あなたの恋人だよね。それなんだけど、すごくショックを受けるだろうから、気をしっかり持ってほしい」
「え……」
ランスはホッファートに目配せをする。
ホッファートがゆっくりとフードを取った。
「ひぃっ!」
フードの中から現れたのは、骸骨である。怯えるのも無理はない。
「ユミリテさん。つらいだろうけど、彼があなたの恋人なんだ」
ユミリテは一瞬固まり、骸骨を見つめる。
「そんな……あなたなの……?」
ホッファートは静かに頷いた。
それを見てユミリテは口元を手で覆った。涙が溢れてくる。心のどこかでわかっていたのだろう。大切な人との、大切な日々はもう戻らない事を。
「そんな……うぅ、こんなことって……」
ホッファートはポロポロと流れるユミリテの涙を指ですくい、肩に手をかけ、うんうんと頷く。
「それじゃあ僕たちはもういくよ」
2人で積もる話もあるだろう。部外者が長居するのは無粋というものである。
「すまないね、ランス殿。スコール君も」
「いいのさ。さようなら、ホッファートさん」
その時である。
ユミリテの目が大きく見開いた。
「ホ……ホッファ……ト……?」
呼吸が荒くなり、あっという間に震え出す。自分の腕を血が滲むほど握りしめている。後退り、ガチガチと歯を鳴らす。
「ああ、私だよ。愛しいユミリテ」
愛の言葉を聞き、ユミリテは、
絶叫した。
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