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異世界保険  作者: 表面さくさく
4/11

伝説の勇者の保険


「いや、勇者についてはさっぱりだよ。でもね、セーブポイントっていうのは知っているんだ。私の前世の、ゲームの中によくあったやつだね」


「前世?前世の記憶があるのかい?」


「ああ、私は異世界から転生してきたんだよ」


「へぇ、それは珍しい」


「そう珍しい。というか私以外の転生者なんて見たことがない。だからセーブポイントを知ってるのも、私くらいのはずだ」


 セーブポイントは異世界の概念だ。それを知っているのは異世界から来た自分だけ。であれば、この保険も自分が依頼したものかも知れない。


 レテはそう判断した。


 改めて保険内容を眺める。


「ここに、給付歴12回って書いてあるけど。これが本当なら私は……」


「うん、12回死んでるね」


 保険期間はイースピア歴834年11月20日から2日間。この2日間の間にレテは12回死亡し、12回セーブポイントに戻ったことになる。


「そ、そうか。そんなに死ぬ事になってまで、私は何がしたかったんだろうね」


「大切な何かを守りたかったんじゃないかな。保険てそういうものだから」


「ふむ」と言って、レテは窓の外に目を向ける。

まだ日は高く、外からは子供達の笑い声が聞こえた。


「それはきっと……守りきれたと思いたいな」




 ランスが興味本意で尋ねる。


「記憶をなくした直後は大変だったろうね」


「そりゃ大変さ。なぜ自分がここにいるのか?自分が何者かもわからないんだから。でもね…」


 レテはニコリと微笑む。


「リリアが助けてくれたんだ。右も左もわからない私に声をかけ、旅の仲間に入れてくれたんだよ」


「優しいんだね」


「あぁ優しいね。リリアのパーティは皆優しかった。不思議な程にね。私も世話になるのは悪いと思ったんだが…」


「一目ぼれしてそれどころじゃなかった?」


「はは、それもある。だがそれだけじゃない。実はね、ズボンのポケットにメモが入っていたんだよ」


レテはポケットを叩いてみせた。


「そのメモに書かれた事を、私はなぜか信じようと思えたんだ」


「なんて書いてあったの?」


 先ほど部屋を出たリリアに聞こえないように、レテの声が小さくなる。


『レテよ。リリア・クレメンスはお前の最愛の人だ。絶対に手放すな』


「ははは、それを信じたから今があるんだね」


「その通りだ。あれは記憶をなくす前の私が、自分に残したメモだったのかも知れないね」



 そう語る勇者はとても幸せそうだった。



「ランス君。私はね、記憶をなくした人生にすごく満足しているんだ。無くした記憶を()()()()()()()()()()()

何かを守るために保険を使ったのなら、きっと今も昔も、私の宝物は変わってないんだ。勇者の記憶とやらは、私にとって()()()()()()()()()()()んだよ」



―――――――――――――――――




 それからしばらく談笑し、ランス達は勇者の終家を後にした。


「なかなか面白い給付でしたね」


「うん、セーブポイントなんて異世界人はとんでもない事を考えるもんだよ。えーと、串焼き2本下さい」


 宿に向かう途中、屋台で買い食いをする1人と一匹。


 ひと通り食べ終えると、何もない空間に向けてランスがつぶやいた。


「そんなに警戒しなくても、もう会うことはないよ?」


……。


 しばしの沈黙。


 ランスは微笑んで、また何もない空間に声をかける。


「それじゃあ僕達はもういくよ。お大事にね」


 スタスタと歩き出す1人と1匹。




「待って」




 少しシワがれた、女性の声がした。


「あんた、本当に何者なんだい…」


 霧が晴れるように何もない空間から姿を現したのは、先程のおばあさん、リリアだった。


「旅の保険屋だよ」


「ただの保険屋が私の隠蔽魔法を見破れるわけないだろ」


 リリアは魔王を討伐した勇者パーティの1人である。もちろんその記憶はないが、今も尚、世界最高の魔法技術を持つ。その隠蔽魔法は上級悪魔(グレーターデーモン)ですら容易に欺くほどの精度であった。


 ランスが変わらない様子で尋ねる。


「ご用件は?」


 リリアは真っ直ぐにランス見つめ、ゆっくりと答えた。





「…私にも、魔法保険は使えるかい?」







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