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異世界保険  作者: 表面さくさく
2/11

伝説の勇者の保険




 それから時は流れて、64年後……




 木漏れ日の中、耳のとがった少年が小さな歌を口ずさんでいた。


『勇気が夜と戦った

長夜の果てに朝が来た


されどもそれは夢の中

たしかに夜はあったのに

たしかに夜はあけたのに』



 少年の格好はラフだが、旅慣れた印象を与える。首まで覆われた茶色いマントに、小さなポーチ。なぜか大きな本を小脇に抱えている。


 隣には白い狼。


 少年の背丈ほどの高さ。スラっとした体躯が生物としての強靭さと俊敏さを想起させるが、どこか幼い顔をしている。その動きは壮年の執事のように丁寧だ。


 白狼が少年を見上げた。


「気に入ったんですか?その歌」


「うん、リズムがいいね」


 レムリア大陸の中央に位置する小さな街、メルク。

 口ずさんでいたのは、つい先ほど吟遊詩人がうたっていたものだった。この街では大人から子供までおなじみの歌である。


 ちなみに街の名は、この土地を開拓した大賢者メルキオールから由来しているという。


「スコールは勇気の神様の伝説って知ってる?」


 スコールと呼ばれた白狼は軽快に返事をした。


「えぇ、勇気の神様が朝を連れてきたって話ですよね」


「そう、ここはその『勇気の神様伝説』発祥の地だそうだよ」


 こどもたちが無邪気に通路で遊んでいる。街の人々はみな穏やかな表情をしており、治安の良さを感じ取ることができた。


「年に1度、朝が来たことを祝うお祭りもあるんだって。この歌はその時にも歌われるらしい」


「お祝いにしては何だか()()()な歌詞ですね」


 スコールの感想はいつも素直だ。


「そうそう、次の給付はちょっと面白いんだよ。見てごらん」


少年は持っていた大きな本を開いて見せる。


「この職業が何か面白いんですか?」


「わからない。わからないって面白いだろ?」


「そういうもんですかね」




 少年はひとつの家の前にたどり着いた。

ところどころ壁がはげた古びた一軒家。家自体は古いが、よく手入れされている。


 少年はドアをノックする。中から、少ししわがれた女性の返事が聞こえてきた。


「はーい」


 扉の奥から現れたのは、品の良いおばあさんだった。珍しい客人に目を丸くする。


「あら、お客さんかしら?こんな所にどんなご用事?」


「僕はランス。旅の保険屋だよ。ご主人に会いに来たんだ」


「保険屋さん?小さいのにしっかりしてるのねぇ」


「こう見えてあなたの10倍くらい生きてるからね」


ランスの姿をまじまじと眺め、とがった耳に目が止まり息をつく。


「あんたエルフかい。主人のお友達なのかい?」


「いや、友達ってわけじゃないけど、彼は保険に入ってるんだ。ガーヌ保険の給付に来たんだよ」


「……そう、ガーヌの。わかったわ。入って」




 ガーヌ病。


 それはありふれた病気である。ありふれた病気だが、完全な治療法はまだ見つかっていない。発症すればゆっくりと進行し、ほぼ全員が死に至る。


 とある文献によれば、この世界の人間の54%がガーヌ病で死亡するという。若者がかかることは少なく、高齢なほどかかりやすいので、寿命のように捉えている者も多い病気である。


 今回はそのガーヌ病の保険金給付だ。


 おばあさんはしっかりした足取りで、2階の寝室へと案内してくれた。


()()、お客さんよ」


「ありがとう()()()。ずいぶん可愛らしいお客さんだね」


 一目で爽やかな印象を与える老人がそこにいた。



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