過去
三題噺もどきーよんこめ。
とてもとても短いです。
お題:煙草・不可抗力・博愛主義
「お前は、俺のようになるなよ。」
あの人が死に行く2、3週間前だっただろうか。
煙草の煙をくゆらせながら、父は言った。
俺の家は、マフィア、いわゆる裏稼業を生業としていた。
父は、そこの首領だった。
その父が死んだ後、不可抗力で息子の俺が、その後を継ぐことになっていた。
父が死んだその時、俺はまだ、中学に上がったばかりでその世界のことも、大人の世界の事も全く、知らなかった。
初めて触れたその世界は、その頃の俺には充分すぎるほどのトラウマを埋め込んだ。
それから数年が経ち、未だにトラウマを抱えていた俺は、父が育てたこの一家を半壊させてしまった。
父は、博愛主義者だったため多くの部下に慕われた。
襲撃をかければ、そこで奴隷のように使われていた人を受け入れたり、自分を襲ってきた暗殺者を仲間に入れたり……とにかく全てを受け入れた。
それゆえに、仲間に裏切られ、死んでいったのだが。
その多くの部下達は、彼らは、家ではなく、父に忠誠を誓っていた。
だからこそ、俺なんかが自分たちの上にいることなんて、許すことができなかったのだろう。
それに加え、俺はあまりにも無知すぎた。
そうして、仲間は二つに別れ、一家は半壊した。
すべてが、壊れた。
(何で親父はこんな世界に住み着いたんだ……)
全てが壊れ、壊されてから、さらに数年。
俺は何も信じることが出来なくなり、何もかもが嫌いで憎くなってしまった。
(俺のようになるなって、言うんだったら、この世界から俺を遠ざけてくれれば良かったのに。)
―まぁ、そんなこと今となっては意味もないのだが。
俺は、薄暗い狭い路地裏で、独り、煙草の煙をくゆらせていた。
(いや、正確には一人じゃないか。)
たくさんの屍に囲まれて俺は煙草をふかしていた。
何故、今になってそんな父親の言葉を思い出したのかなんて、分からないのだが。
(走馬灯ってやつか?)
―ハッ―声にならない乾いた笑いが零れた。
(そろそろ限界か…)
先ほどの抗争で腹に2・3発受けてしまい、敵を全滅したものの、すぐに動けなくなってしまった。
(アイツらは……まぁ、来るわけないか)
なんせ、俺がここに居る事なんて、気づいてもいないし、気にしてもいないだろうからな。
(今思えば、クソみたいな人生だったな。)
意識が朦朧としていく中で、様々な記憶が蘇った。
(まぁどれだけ思い出したって何も変わらねぇけどな。)
死を自覚し、意識を手放す。
不可抗力で入ったこの世界に別れを告げる事が出来るなら、願ったり叶ったりだった。
―せめて来世は、こんな世界に生まれない事を祈るか。
まぁ、どうせ地獄落ちだろうがな。