間章 II 過去語り
設定的には一応現代地球の未来みたいな感じっす。
少し昔を思い出した。
私は格闘技の大会を観るのが結構好きだった。
今はもう、そんなものは無い。
私は過去の人間だ。
今から8世紀以上も前のこと。
西暦2062年12月25日。
クリスマスに世界へ届けられたのは、米国の研究所で研究中のエボラウィルスが何者かに盗まれた、というニュースだった。
思えばこれが悲劇の始まりだったのだろうか。
翌年、西暦2063年1月2日。
ウィルスを盗んだという犯行グループから、犯行声明が出された。
内容は至極単純なもので、米国大統領と話をさせろ、というものだった。
最後に彼らはウィルスは自分達が持っている、少しでも何かしようものならこれをばらまく、とこれまたシンプルな脅しを言って締めた。
その数時間後、彼らと大統領によるテレビ会談が始まった。
彼らが主張したのは次のものだった。
まず、黒人の人権について。
彼らは黒人と白人が半々ぐらいのメンバーだった。
次に、移民の受け入れについて。
それらが終わり、次の話に移ろうとしたときだった。
突然、犯行グループ側の画面が揺れた。
そして、パリンという音が聞こえた。
……犯行グループの拠点は火山の近くにあった。
その火山が噴火したのだ。
「おいまさか!」
「確認してきます!」
「大丈夫なはずだ。あれにはしっかりロックがかけられている。」
そこで彼は気付いたのだろう。画面の向こうの尋常ではなく真っ青な顔をした大統領に。
「ヤバい!ロックがハズレてる!」
「エボラは!?」
「漏れ出てる!」
「畜生!手前ぇハッキングしやがったのか?」
「あれは安全の為のシステムだってのに!」
結果として、漏れ出たエボラウィルスにより、犯行グループの拠点のあった市は24時間足らずで崩壊。
僅か3日で州全土にまで広がった。
これに対し政府は州全土に加えて隣接する市まで封鎖。
犯行グループの拠点のあった市から住民を避難させた後、そこに核弾頭を落としたのだ。
ウィルスのついた建物を壊すとかいう名目で。
大方、小型核の実験でもしたかったのだろう。
これが駄目だった。
放射線の影響によって、ウィルスに変異が生じたのだ。
より致死率が高く、感染力の強いウィルスへと。
最早終わりだった。
変異を遂げたエボラウィルスは、瞬く間に米国全土へ広がった。
他の国は、テレビ会談の中継によってウィルスの拡散を知っていたため、検疫で乗り切ることができたのだが、米国は滅んだ。
しかしこれは更なる崩壊の引き金に過ぎなかった。
この物語はフィクションです。
実際の国、土地、人物等には一切関係ありません。
次回 間章 III 愚者