間章 I 既知との遭遇
一番長い。
この前の戦争で活躍した結果、敵国に目をつけられた様だ。
人の少ない路地を歩いていたら、突然降ってきたのだ。
刺客が、降ってきたのだ。
大方その辺の屋根に潜んでいたのだろうが、あれは怖かった。
さらに敵はいきなり正拳突きを繰り出してきた。
顔面に迫り来る拳をいなす。
しかしこれはフェイント。
迫り来る本命の後ろ蹴りをバックステップで避け、更にナイフで一撃入れる。
が、ナイフを喰らってもダメージの入った様子は無い。
あぁ、機関銃が使いたい。
せめてサブマシンガン、いや、この際拳銃でも構わない。
手榴弾を持ってはいるものの、この距離で使えばこちらまで死にかねない。
距離をとろうとしてもすぐに近寄られてしまう。
私が狙われるとしたら直接戦闘をせずに殺せるスナイパーだろうと思っていたが、まさか体術使いを寄越すとは。
こちらはナイフを持っているものの、これは毒すら塗っていない本当にただのナイフだ。
銃ってかなり有り難い物だったんだな。
と、そんなことを考えながらも敵の正拳突きの軌道をそらし、そのまま一本背負いの様に投げ飛ばす。
直後、脳が極大の危険信号を発し、半ば本能的に首を横に倒す。
それでなんとか助かった。
こいつ、投げ飛ばされながら銃撃ちやがった。
まぁ良い。
その銃、貰おうじゃないか!!
手首にナイフを突き立て、もぎ取るように銃を奪い取る。
しかし、その一瞬。
銃を手に入れた直後の刹那の間。
……私は油断してしまった。
その隙に後ろに回られた。
敵の蹴りを横に転がるように避け、その勢いを殺さずに体勢を整え、発砲。
しかし敵もそう簡単にやられてはくれない。
敵が私がしたのと同じ様に首を横に倒して弾を避ける。
矢張り強い。
こいつまさか……
戦争屋?
「そうだ。お前と同じな。」
どうやら声にでていたらしい。敵から返事が返ってきた。
それにしてもナイフが通らないなんて人間とは思えない強靱さだ。
「まさか、人間とは思えないなんて言葉をあなたの口から聞くとは。機関銃の悪魔、ナイフの死神と名高いあなたの口から。」
「誰が、悪魔だ!誰が死神だ!こんな世界で、人を殺さずには生きていけないこの世界で、誰が望んでこんなことやりたいと思う?」
彼女の口から言葉が溢れ出してくる。
それに対して軽く返す敵。
「それで?だからなんなんです?」
言葉とナイフ、突き蹴りの応酬が交わされる、その中で。
ある瞬間、拳とナイフがぶつかり合い、互いの力が拮抗する。
しかしそれも刹那の間だけ。
二人が後ろへ跳ぶ。
そしてまた同じ様に打ち合う、と敵は思っているだろう。
しかし、私が愚直に打ち合う訳がない。
この瞬間を待っていたのだ。
懐から手榴弾を取り出し、ピンを抜く。
敵の顔が徐々に驚愕、そして恐怖に塗り潰されていく。
手榴弾が爆発し、爆風が顔に強くあたる。
爆煙が晴れるのを待たずに手榴弾をもういくつか投げ、敵に止めをさす。
煙が徐々に晴れ、敵の死体が確認できる。
念のため本当に死んでいるか確認する。
本当に死んでいる。
この戦闘は終わった。
なかなか厳しい闘いだったが、勝ったのだ。
しかし、矢張り戦争屋は強い。
敵国にいる戦争屋の情報を調べるべきだろうか。
茂みに隠れた観測者に発砲しながら考える。
観測者とは、暗殺をするときに、勝った場合はそれが分かるように。
負けた場合は、何故負けたのか対策をとるためにいる。
当然、素直に情報をくれてやる意味は無いので、こうやって始末する訳だ。
彼女は知らない。
観測者は他にもいることを。
彼女は知らない。
彼女が知っているのは普通の人間に対する暗殺のセオリーでしか無いことを。
彼女は知らない。
次は彼女への対抗策が練られた、更に厄介な敵が来ることを。
しかし敵も知らない。
彼女のナイフはあくまで補助にすぎないことを。
敵は知らない。
この戦闘のデータが殆ど参考にならないことを。
双方が互いを知らぬまま、終わらぬ戦乱の次の戦闘が人知れず幕を上げようとしていた。
次も間章、過去編です。
この世界で何があったのか。
次回 間章 II 過去語り