迷える少年。A LITTLE BOY LOST.
己のように他人を愛することはない、
況や他人を尊敬することも、
況や考えることもできない、
己よりも大なるを知るなど。
NOUGHT loves another as itself,
Nor venerates another so,
Nor is it possible to thought
A greater than itself to know:
なら父よ、貴方を如何にか愛せるものやら
のみならずわが兄弟姉妹その他を?
貴方を愛することは、そこらの小鳥が
扉周りのパンくずを啄むようなもの。
And, father, how can I love you
Or any of my brothers more?
I love you like the little bird
That picks up crumbs around the door.
傍らの神父その声を聞き、
震え慄きその髪つかみ、
小さな外套ぐいと引き、
神父の扱い、称賛のみ。
The priest sat by and heard the child,
In trembling zeal he seized his hair:
He led him by his little coat,
And all admired the priestly care.
祭壇高く、すっくと立つや。
決めつけ「見よ、之なる化け物!」と。
「人が理を立て裁こうとは
我等が聖なる神秘の極みを。」
And standing on the altar high:
"Lo! what a fiend is here!" said he:
"One who sets reason up for judge
Of our most holy mystery."
泣いてばかりの子供の声は聞かれなかった、
両親は虚しく泣いてばかりで。
息子を剥いでシャツだけにした、
そして鉄の鎖で縛って。
The weeping child could not be heard,
The weeping parents wept in vain;
They stripp'd him to his little shirt
And bound him in an iron chain;
そして聖なる場所で火炙りに処された
嘗て大勢、火炙りにされてきた場所で、
両親は虚しく泣いてばかりだった。
有りがちな事ではないか、アルビオンの海岸で?
And burn'd him in a holy place
Where many had been burn'd before:
The weeping parents wept in vain.
Are such things done on Albion's shore?
訳注
loves another as itself: 「あなたの隣人」という概念が、聖書の複数箇所に出てくる。例えば
ルカによる福音書10章
25 するとそこへ、ある律法学者が現れ、イエスを試みようとして言った、「先生、何をしたら永遠の生命が受けられましょうか」。
26 彼に言われた、「律法にはなんと書いてあるか。あなたはどう読むか」。
27 彼は答えて言った、「『心をつくし、精神をつくし、力をつくし、思いをつくして、主なるあなたの神を愛せよ』。また、『自分を愛するように、あなたの隣り人を愛せよ』とあります」。
28 彼に言われた、「あなたの答は正しい。そのとおり行いなさい。そうすれば、いのちが得られる」。
picks up crumbs: マタイによる福音書15章
24 するとイエスは答えて言われた、「わたしは、イスラエルの家の失われた羊以外の者には、つかわされていない」。25 しかし、女は近寄りイエスを拝して言った、「主よ、わたしをお助けください」。26 イエスは答えて言われた、「子供たちのパンを取って小犬に投げてやるのは、よろしくない」。27 すると女は言った、「主よ、お言葉どおりです。でも、小犬もその主人の食卓から落ちるパンくずは、いただきます」。28 そこでイエスは答えて言われた、「女よ、あなたの信仰は見あげたものである。あなたの願いどおりになるように」。その時に、娘はいやされた。
priest: 英国教会はローマ・カトリックと対立し独立した新教の一派であるから、「牧師」としたいところであるが、時期的に早すぎて組織的にはカトリックを引き摺っているため、そちらに倣う。
Albion: ブリテン島 Great Britain の雅称。語源はラテン語 albus 「白い」に由来、ドーヴァー海峡沿岸の白い崖(石灰岩層)の印象とされる。
ギリシャ神話に於けるリグリアの巨人アルビオン(Ἀλβίων)は、ポセイドンの息子であり、兄弟ベルギオンと共に、リグリアに来たヘーラクレースと戦って敗れた。
ブレイクは此等を踏まえ、独自のアルビオン神話を構築している。
burn'd: 魔女が火刑に処されたのは、見せしめと共に「肉体を失う」意味があった。キリスト教に於ては「死者の復活」が「救済」なので、遺体は最後の審判の日まで保管すべきものとされ、埋葬を旨とし、火葬を忌避する。と言っても実際は早くから、燃料費を賄える金持ちは火葬、庶民は土葬としていたようである。




