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世界征服を企む魔王  作者: 高柳由禰
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一、事の発端

 ここは魔王城。全ての魔族を支配下におく、強大な魔力と圧倒的カリスマを持つ魔王の根城である。彼には全種族の魔族が絶対忠誠を誓い、城に仕えている。魔王はその強大な力で世界中の人間を支配しようとしていた。世界征服を実現すべく、密かに力を蓄えている。

 そんな魔王は物思いにふけった様子で城の窓から外を眺めていた。配下の魔族がそばにやってくる。


「魔王様、いかがなさいましたか? 何か悩み事でも?」

「う~む。実はな、わしは世界征服を実現させようと思っておるのだが、最近わかったことがある。どうやら世界を支配するには政治というものができなければならないらしいのだ」


 それが事の発端だった。全てはここから始まる。


「わしは人間社会のことをよく知らん。政治というものがいかなるものか、世界の支配者となる以上、知らぬわけにはいかぬ。おまえ達、人間共がどんなことをやっているか、調べてこい!」


 魔王が命令を下すと、配下の魔族達はたちまち調査に向かった。




「魔王様、人間共のところへ行って調べてきましたよ」

「うむ、どうじゃった?」

「はい、魔王様、人間社会の国のトップは全員政治ができるようです。そしてどうやら選挙というものをやっているようなのでございます」

「ぬ、選挙とな?」

「はい、魔王様、人間共は選挙運動というものをやっております。たすきに自分の名前を書いて肩にかけ、『清き一票をお願いします』と言って国中に自分をアピールするのだそうでございます。これが映像です」


 配下の魔族達の魔法により、選挙運動の映像が映される。そこには中年の男性が演説を行っている姿があった。たすきにその男の名前らしきものが書いてあり、肩にかけている。


『どうか皆さん、この私○○○○に清き、清き一票をお願いします!』


「――で?」

「はい、魔王様、何でしょうか?」

「わしにこやつと同じことをやれというのか!」


 スパコーン!




「ぬうう~、政治とは思ったより難しいのう」


 あれから後、魔王は自ら政治の勉強を始めることにした。政治の入門書を入手し、頭をひねりながら読み進める。魔王城の自室で机に向かって一生懸命勉強していた。


「魔王様、お茶をお持ちしました」

「うむ、ご苦労。どれ、少し休憩するかのう」


 魔王は茶を飲んで一服すると、配下の魔族達を呼び集めた。


「おまえ達、わしはこれから本腰を入れて世界征服に乗り出そうと思う。それでだ、世界征服に必要なものを改めて考えておるんじゃ。おまえ達も何か思いついたらわしに報告するように」

「ははっ、かしこまりました、魔王様!」


 その後、配下の魔族達は世界征服に必要なもの、世界の支配者に必要なものを一生懸命考え始めた。そして人間界へも調査に乗り出した。


「魔王様、世界征服に必要なものを考えてきました!」

「何じゃ?」

「やはり世界中の国のトップを支配下に置くことが必須条件でしょう」

「そうじゃな」

「そして時事に詳しくなければならないでしょう。世界中の国々で何が起きているか全て把握していなければなりません」

「世界の支配者として当然だのう」

「はい、魔王様。それではテレビを買いましょう。そして新聞を取りましょう。毎日ニュースを見て新聞を読んでいれば世の中の動きがわかります」

「しかし世界中の全ての国の出来事を把握するのは大変だのう。おまえ達も手伝ってくれ」

「もちろんです!魔王様!」


 魔王と配下の魔族達は前向きに世界征服への道を歩み出した。その後、魔王はテレビを購入した。魔王の自室には特大の最高級のテレビが、配下達の部屋にも小型のテレビが設置された。そして新聞購読をすることにした。その後、テレビを見るようになった配下の魔族達は人間界に徐々に詳しくなっていった。


「魔王様、もし世界の支配者になったら毎日テレビに出ることになるんですね」

「おお、そうじゃのう」

「毎日全世界へ向けて放送される番組に出る。全ての人間の注目を浴びることになりますね。記者会見とかも大変ですよ。あのパシャパシャって、カメラのフラッシュの嵐の中、堂々と振る舞わないといけませんから」

「ううむ、いざとなったら緊張するかのう」

「魔王様、これから世界の支配者として君臨するなら見られることに慣れておく必要がありますよ。カメラ目線もマスターしなきゃ」


 魔王は撮影されることに慣れる為、カメラを買った方がよいだろうかと検討し始めた。


「それに魔王様、やはり世界の支配者たる者はカッコよくなければならないでしょう」

「おお、それなら大丈夫じゃ。この世にわしほどの男前は他におらん。ぐわははは!」

「そうですね。魔王様ほどのいい男は他にいませんからね」

「よっ! 色男!」

「女殺し!」

「わっはっは。いいぞ、もっとわしを褒め讃えよ!」



 配下の魔族達は皆、魔王に絶対忠誠を誓っている。主の世界征服の手助けをしようと健気に考えていた。


「そうだ! 魔王様、世界を支配するなら演説くらいできなきゃダメですよ」

「む、そうじゃのう」

「予行演習しますか?」

「よし! おまえ達、マイクのセットをしろ!」


 配下の魔族達は魔王城の中で最も広い場所に舞台を設置した。そこにマイクのセットをする。キインという音が鳴り、魔王は思わず耳を塞いだ。音の入りが悪いのでマイクをポンポン叩く。


「あ、あ、あ、……………えー、えー、マイクのテスト中でーす」


 テスト終了後、魔王は演説の予行演習を行った。


「むう、思ったより緊張するのう」

「魔王様、マイク持ってるんですから、ついでに一曲歌ったらどうですか?」

「おお、そうじゃのう。これ、わしの持ち歌を流せー!」


 配下の魔族達は魔王の持ち歌を流す。大音量で演歌が流れ出した。渋い歌声が城中に響き渡る。魔王の歌は部下達には好評であった。


「魔王様の歌声、痺れるぅ~」

「魔王様、最高ー!」

「アンコール! アンコール!」


 魔王はもう一曲歌った。配下の魔族達の歓声が上がる。


「いいぞ~魔王様~イエーイ!」

「魔王様バンザーイ!」

「バンザーイ!」


 途中から世界征服がどこかへ行ってしまったのを彼らは気づいていなかった。



 こんな彼らだが、これから世界征服を真面目に取り組もうとしていた。さて、どうなることやら……

この話を書いたきっかけなんですが、普段連載している大長編のファンタジー小説を書いていてふと思ったこと、


魔王って政治とかできるんだろうか?


これが私が本作を書くきっかけになった事の発端であり、第一話のタイトルも「事の発端」にしました。全てはそこから始まったのです。


一番最初に頭の中に思い浮かんだギャグネタの連続。魔王は自分では世界一いい男だと思っている。配下の魔族達も魔王様はいい男だと思っている。というわけで魔族の世界では魔王様はいい男のようです。魔王様のカラオケの持ち歌は演歌。人間でいうとかなりの年配と思われます。自称も『わし』だし。

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