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第一話 まずは生きるために



ただただ、私はそこから一歩も動かずに今を理解し、どうするべきか、全力で考えていた。



「……いや、ここドコだよ」


 いまだに混乱している頭からひねり出した言葉がそれだった。

 頭上高く生い茂る木々の葉の間から、太陽の光がキラキラと差し込んでいる。見上げれば、10階程の建物の辺りに木の葉が生い茂っている。こんな背の高い木なんてあったっけ、とぼんやり考えているとお腹を軽く押されながらチクチクと何かがあたり、何も考えずに彼女は自分のお腹の方に視線をおろした。

 ミニチュアダックスサイズの大きなトカゲが2匹、おまけに蝙蝠のような翼がついている。


「あらやだ可愛い」


 氷のように透き通る鱗はアクアマリンのように輝き、真っ赤な大きな瞳は燃え上がるような炎のよう。太陽の光が差し込めばきらきらと輝くペリドットのように、影に入れば深い緑に、黄金のように輝く大きな瞳。2匹はクエー、と鳴いた。


「……………?????」


 現状を理解するのにかなり時間をかけたのは、言うまでもなかった。






「うん、まず自己紹介といきましょうか。私は神代 祐奈(カミシロ ユウナ)、24歳の女の子です。農業高校を卒業し、農業関連の職場について全力で趣味のために働いていました」


 自分のが一体誰なのか、それはちゃんと口に出せて言えてる上に理解も出来ている。


「で、君達のお名前なんでしょうか?」


 膝の上には翼の生えたトカゲ2匹に問いかけて見るが、キュルルと喉を鳴らして首を傾げていた。流石に言葉は理解しないよね、と1人で納得して2匹の頭を撫でる。


「にしても君達は人懐っこいね、トカゲのように見えるけど実はドラゴンですって事は無いよね~」


 乾いた笑いが静かな森に響く。さながらゲームにも出てきそうな、(ドラゴン)育成ゲームとかで出てきてもおかしくなさそうな姿だ。


「いや笑えない、この状況じゃ笑えない。何故って私今食料とか飲み物が無い。生命の危機よ」


 膝の上に乗っている彼らを一度地面に下ろし、立ち上がる。

 幸いな事に仕事着のままでツナギを着ていた。作業中に使っているポーチもそのままだ。カッター、ハサミ、マジックペン、スマホに小銭入れ、車の鍵………使える物と使えない物があるがまぁよしとするべき。


「(とにかく、川を探そう)」


 生きるにあたって水は必須で、そして水があるところに集落や町や村、そして都市がある。きっと川を下れば人のいる場所にたどり着くであろう、と微かな希望に賭けに出た。

 青臭い匂いが鼻の中を通り抜けていく。露がおりていたのか足首の高さにも満たない草はしっとりと濡れており、防水機能を失った黒い作業靴が水分を含み始めていた。あまり汚れたくは無いんだけどなぁ、とぼやきながらもしっかりと周りを見渡し、時折足を止めて何か音がしないか耳を傾けている。


「ちゃっかりと君達は私の前を歩いているけど、ついて行っていいのかな?」


 二匹の(ドラゴン)(仮)は先頭に立ち、フンスと鼻を鳴らし胸を張っている。見たところ生まれて2〜3ヶ月程度育ったと思われる。成長速度はどれぐらいなのか、食べ物は、適正生育温度は等々と色々と考えされる事があるけど、今はそれどころではない、と思考を切り替える。

 キュッキュ、と二匹は何かを見つけたのか鳴きながら走り出した。歩幅の関係で私はただの競歩だけど。歩き出して1時間ほどは経っているとは思われるが、こんなにも早く何かが見つかれば幸先はいい方なのかもしれない、と期待に胸を膨らませる。

 急に影が差したのか先ほどより暗く感じる。ふと何かを感じ、頭を上げてみれば思わず、おぉっと言葉を漏らした。

 周りに生えている木は杉のようにに真っ直ぐ生えており、それに絡みつく蔦系植物や苔が付いている。ただそれは一目で違いが分かる程の木だった。根本は木を支えるために剥き出しの根があり、蔦ではあるが巨大化している為巨大な木に木が絡みついているように見える。それだけではない、上の方に行けば誰かが人工的に作り上げた球体状のものがあった。目視で窓や扉のようなものも確認できる。


「これは、集落…?」


 よくよく周りを見れば球体物は一つではなく周りの木々にも複数存在している。どうやらあの一番大きなのを中心にして蔦が伸びており、球体が存在しているようだ。上の方で蔦が絡みあっており、それがかけ橋の役割をこなしているそうだ。ただ、問題が幾つかある。

 まずどうやって上るのか。取り合えず中心にそびえ立つ巨大な木、仮に大黒柱と呼ぼう。その大黒柱の周りを確認するしかない。足元にいる(ドラゴン)(仮)はどうしたどうした、とウロウロと歩き回りこちらの様子を伺っている。何でもないよ、と言いながらしゃがみよしよしと頭を撫でる。

 そして問題その2、全くもって人の気配がしない事。球体は地上から4階から5階ほどの高さに存在している。そこまでの高さにある、という事は地上よりも上にいる方が都合がいい、と考えるべきだ。地上から何かが襲ってくる、雨が降ると辺り一帯冠水する、など。つまるところ下の方に誰かしら警戒してても可笑しくはない。見張りがいれば人影があると思うが……


「これだけ歩いても誰も気が付かないのは可笑しいと思うし、これだけ人の気配が無いと……廃村かな」


 それはそれでありがたいとも思えてしまうが、取り合えず上に行けそうなものがあればいいのだが。

 大黒柱に巻き付いている蔦は、長い時間をかけて成長したのか表面はヒビだらけだ。直径は根元の方だけなら5メートル近くはあるだろう。そして枯れ葉が積み重なり分解し腐葉土として積み重なっていた。様々な小さな生き物が顔を覗かせている、つまりそれは良い腐葉土な証で畑を作るならもってこいだ。試しに足で蔦の上に積み重なった腐葉土をかき分けてみると、随分積みあがっていたのか蔦の表面にたどり着くのに25センチほど掘る羽目になった。


「随分と放置されていたのか、それとも落ち葉の量が多かったのか………あれ?」


 蔦の表面を触ったときだった。表面はなだらかで蔦が巻いている角度ではなく、地面と平行しているように思えた。これは()()()()()()()()()()。まさか、と思い手前に数センチ表面をなぞると角らしきものに当たる。


「まさか、これ、蔦が螺旋階段になってるの……?!」


 蔦は螺旋状に巻いている。あり得なくはない、誰かが螺旋状に階段を作ったに違いない。幅は2メートルあるか無い程度、すべて葉の下となっているが全部どかせば使えないことはない。だけど今はどかしている余裕はない。枯れ葉は滑りやすい、少々危険があるが上に行ける。

 頭上の方からキューキューと鳴き後が聞こえた。あの2匹が先導して前に進んでいた。私は念の為ポーチからカッターを取り出し、いつでも刃を出せるように握った。よし、と小さく呟いて足を進ませる。予想通り滑りやすい、滑り止めとかついていないだたの靴だから何度が地面を踏んでから前に進む。徐々に高さが出てくるとふつふつと実感する。彼らは急かす様にキューキューと鳴き、私は再び足を進ませる。体感にして10分ほどだろうか、漸く一番上にたどり着いた。

 落ち葉が詰まっているようだがちゃんとした通路になっているようだ。柵、と言っても恐らくこれは蔦を誘引させて作った柵があり、そこそこ安全に作られているようだ。じゃなきゃそのまま落下死する。


「った、高いな。」


 恐る恐る下を覗いてみたが異様に高く感じ、腹の下あたりがキュっとしぼみ血の気が引いた感じがした。

 さてと、と再度気を引き締める。下にいた時と同様に人の気配を探ってみるが全くもって気配は感じ取れなかった。今登ってきた蔦の階段もそうだが、目の前にある通路や球体となっている蔦には枯れ葉が積もっていた。ここまでこれば確実だろう。ここは何かしらの理由で人々は立ち去った、と。

 地上から大きく見えた球体は思った以上に大きく、ここの蔦の柵と同様に蔦を誘引させて球体状にしてあるようだ。入り口にドアはなく、大きな垂れ幕で中が見えないようになっていたようだ。ただ長い年月手入れされていなかったのか、薄汚く端は糸が解れていた。垂れ幕を捲り、中を覗いてみた。


「……広い。集会所的な場所かな。」


 中は広く、壁には様々なものが飾られていた。獣の剥いだ皮、弓や長さの違う剣、そしてここのシンボルらしき旗。中央には囲炉裏のようなものがあり、奥には一段高い座敷。左右対称に並べられた獣の皮の敷物。敷物の数を見ればそこそこ大き目な集落だったのだろう。そしてここが集会所ならば、周囲にあった一回り小さな蔦の球体は住むところだろう。


「暫く貸していただきます」


 壁に掛けてあった30センチほどの長さの剣を前に、手のひらを合わせて柄を握る。ずっしりと鉄の重みが伝わり、落とさないようにしっかりと握った。外に出る前に出入口で立ち止まり、シンボルらしき旗に向かって一礼した。

 外に出ると(ドラゴン)(仮)が日向ぼっこしており、気持ちよさそうに寝ていた。自由だなぁ、と呟いて周囲を見渡し目の前のそれを見て唇を少し噛んだ。下から見えてはいたが、蔦でできた橋だ。ここは長い事誰も来てない様子だったため、とにかく劣化の心配をしていた。手摺りとなる蔦を握り、左右に揺さぶってみる。ギシギシ、とあまり安心できる音ではないが重なっている蔦がこすれあって鳴っているように聞こえる。多分大丈夫であろう、と謎の自身が沸き上がりその橋を渡る。


「見た目以上に頑丈……いや、この蔦生きているな」


 基本的に植物は枯れれば水分を失い、青々しさは失い薄茶色のような色合いになる。ここのかけ橋になっている蔦や、家と思われるそれも青々しく触れば産毛のようなものがある事も確認できる。住む人がいなくても植物は生きている。

 なんとか橋を渡り切り、先ほどの集会所らしき場所より二回りほど小さな蔦でできた球体にたどり着く。大黒柱に絡みついていた蔦より細めの蔦が足場となっており、集会場と作りはさほど変わらないようだ。扉と思われる場所に行けば、無造作に生えた蔦が侵入を拒むように生えていた。これは手入れが出来なかった結果、蔦が成長し自由に生え長い時間をかけてドアを封じ込めたことになったのだろう。

 そんなこともあろうかと思い、集会所に飾ってあった剣を一本拝借したのだが持ってきてよかった。ドアを覆っている蔦を順番に切っていき、入れるようにする。開けれるようにし、切り落とした蔦をドアから離したところにまとめて置いた。


「……お邪魔します」


 ドアノブ式だけど鍵はついていないようだ。防犯上よろしくない設計ではあるが、鍵を必要としていなかったのだろう。中に入ると埃っぽい空気に思わずしかめっ面になる。窓は二つあるようだ、周りを見ながら窓を開けに行く。外の空気が部屋を通り、埃っぽい空気が軽くなる。太陽の光も差し込み薄暗い部屋がほのかに明るくなった。

 そこは、その部屋はまさしく数年前までは誰かが住んでいた部屋だった。




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