九十八話 お宝を拝見しました!!
キメラをテイムした後、俺は破壊されたゴーレムの残骸を収集することにした。
まずゴーレムたちが落としたのは、五十近くの偽心石と、魔導石。
偽心石はゴーレムの核となり、魔導石はゴーレムに魔法を覚えさせることができる。
どちらもゴーレム作成の際には欠かせないものだ。
シェオールは更なる防衛力を必要としている。
これは有効に活用させてもらうとしよう。
あとは彼らの武具。全てミスリル製の、頑丈なものだ。
これはそのまま用いてもいいし、俺やマッパが素材として分解してもいいだろう。
とりあえず、スライムたちに地上まで運ばせることにした。
「いやあ、いっぱい取れたね! キメラも仲間になったし」
フーレは俺に笑顔を向けた。
ゴーレムの残骸を手に入れられただけでなく、アリエスとキメラを仲間にできた。
そのアリエスは水がないと長い時間外にはいられないようで、今はタランに案内させて、キメラと共に温泉に向かわせている。
「ああ、そうだな……」
口ではフーレにそう返事をするが、なかなか喜べない。
というのも、制御装置を焦るように弄るシエルの心情を慮ったからだ。
灰色のスライムたち、元ドワーフだった者たちの体がすでに亡くなっていたように、恐らく他に亡くなっていた者たちもいたのだろう。
以前シエルが都市の地図を見せてくれた時、人口の大半は下層に集中していたといっていた。
俺はシエルのもとに向かう。
「シエル……手伝えることはあるか?」
「……ありがとうございます、ヒール様。でも、大丈夫です」
シエルは制御装置を弄るのやめた。
「ヒール様……大事なことを話さなければなりません。ゴーレムの制御は成功いたしました。これでヒール様たちを襲うことはありません……しかし」
シエルは言いづらそうに続けた。
「やはり隕石で体を失った者たちもおりました。しかも装置に損傷があったようで、無事だった者たちも元に戻すことができないのです」
「そうだったか……」
「これは私の失態……山の中心である下層部のほうが安全と思ってましたが……」
隕石は、色々と大事なものが集中している下層部に直撃したというわけか。
しかし、とシエルは続けた。
「ですが、装置を直せば……」
「なるほど。ならさっそく……いや、すぐには向かえないか」
アリエスの話によれば、キメラが多数地下にはいるという。
「はい。キメラは肉食のため、スライムは食べないとは思いますが……」
「俺たちは間違いなく襲ってくるだろうな……」
シエルは俺に続けた。
「これは私たちの問題……いえ、民を導いていた私の責任です。ですから、私に修理に向かわせてください」
「それは駄目だ……キメラ以外になにか危険なやつがいるかもしれない。そんな場所にひとりで送るわけにはいかない」
「で、ですが……お願いです……私には、皆を救い出す義務が」
「そうだ。だから、俺たちもシエルを手伝う」
「そんなっ! これ以上、ヒール様たちのお力を借りるわけには!」
「シエル、何を言ってるんだ? 俺がひとりの時、シエルは俺を助けてくれただろ。今だって、シエルは俺たちを助けてくれている」
この島で俺が孤独だった時、最初に現れたシエル。
シエルはあれから、力を貸してくれただけじゃなくて、精神的にも俺を元気づけてくれたのだ。
「ひ、ヒール様……」
俺がいうと、隣で話を聞いていたフーレも口を開く。
「そうそう。シエルさんやスライムたちには助けてもらってばっかだしね。私たちゴブリンやコボルト、オークたちが仲悪かった時、橋渡し役になってくれたじゃん」
いつの間にかやってきたマッパも、うんうんと腕を組みながら頷いた。
他の種族と違い、黙々と働いてくれたシエルたちだ。他の魔物たちも日頃からスライムたちの働きには感謝していた。
「ああ。だからシエル。俺たちも助けるよ」
俺の言葉に、シエルは体をぷるぷると震わせると、ぺこりと体を縦に振った。
「皆様……ありがとうございます」
「気にするなって。とりあえず、今日はキメラが出てきた場所を封鎖しよう。行くのは、準備してからだ」
「はい!」
シエルがいうと、フーレも「おう!」と声を返してくれた。
しかし、シエルが何かに気が付いたような顔をして、制御装置の突起をひとつぽちっと押した。
「……そういえば、ヒール様。これを」
「これ? ……うおっ!?」
突如、床の一部分が開くと、そこにガラスで四角く覆われた祭壇のようなものがでてきた。
その祭壇に置いてあったのは……
「王……冠?」
色取り取りの宝石がちりばめられ、多様な花木が彫られた金の冠だ。
マッパが大きく口を開けて、感動したような表情をしている。
職人である彼から見ても、とても美しいものなのだろう。
「はい。我が帝国の帝冠です。クリスタルが用いられており、多数の魔力を行使できるようになるのです」
「ほ、本当だ……すごい魔力だな……」
王冠からは、それこそ俺が持つような魔力を感じられた。
シエルは続ける。
「どうか、これをヒール様に使って頂きたいのです」
「お、俺に!? い、いや、俺に冠なんて……そもそも、これはシエルのものなんだろう?」
「私はヒール様の従僕。冠など被る立場にありません。それに、ヒール様であれば、これを有効に活用して頂けるかと」
「そ、それはありがたいけど……」
「……もし意匠が気に入られないようでしたら、分解してクリスタルだけ使って頂いても構いません。ヒール様や皆様のお役に立てるなら」
「いや、こんな綺麗なもの、壊すわけには……」
こんな素晴らしい意匠のもの、分解するなんてできない。
マッパもとんでもないと、王冠を守るように立ち塞がっている。
俺もシエルが元に戻るまでこのままにしておくべきだと思うな……
だけど、シエルが言うようにこれだけの魔力が使えるなら、島のために役立つのは間違いない……
「……もしもの時、他のやつに被らせても大丈夫か?」
「もちろん。お好きになさってください。宝物庫には、他にこんなものも」
シエルは制御装置を弄り、君主が持つにふさわしい金色の錫杖や宝珠、武具を出してみせた。
「金や宝石は装飾で、中は全てミスリルとクリスタルが用いられています」
「す、すごいお宝だな……」
「あとは転移石などあれば良かったのですが、あれは倉庫でここには出せなくて……あ、こんなものも」
そういうと、シエルは瓶に入った透明の液体を見せた。
「水みたいだな……これは?」
俺が訊ねると、シエルは瓶をちょんと揺らした。
すると、液体はすぐに透明から緑色に変わる。
「い、色が変わった!?」
フーレが目をぱちくりとさせながらいった。
あらゆる鉱石を知っているマッパも、これには言葉を失ったような顔をしていた。
すると、シエルは今度は液体を赤色に変えて揺らす。しかし、液体は固まったかのように動かなくなった。
「これは、琉金というものです。色だけでなく、形や質感を自由に変化させることができます」
「へえ……じゃあ、例えば本物のリンゴみたいなのもこれでつくれるってこと?」
俺が訊ねると、シエルは体を縦に振る。
「はい。金属でありながら、生物や植物のような見た目のものをつくれるのです」
「ほう……使い道は思い浮かばないけど、これまたすごいものだな」
「ええ。もともとこの地上にはなかった非常に希少な金属です。貯蔵庫までいけばもっとあるのですが……」
「これだけでも、何かに使えるかもしれない……ありがとう、シエル。基本は全部そのままの形で、使わせてもらうよ」
「はい! ぜひ、お役に立てて頂ければ!」
こうして俺たちは、一旦地上へと戻ることにした。
しかし、地上への途中、海上からの来客を報せる鐘の音が響くのであった。