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九十五話 蛸が喋りました!!

「ま、待ってって! 今開けるから!」


 制御装置をごんごんと叩くマッパに、アリエスは焦ったような口調をした。


 俺たちに”勝利”したアリエスは、無事制御装置を明け渡してくれるという。


「よし……」


 アリエスの声が響くと、制御装置の壁の一部がぱかんと開いた。


 すると、そこからにゅるにゅると蛸のような足がでてくる。


 いや、でてきたのは、八本の脚をもつ赤茶色の蛸そのものだった。


 普通の蛸と少し異なるのは、全体的にもっと丸々としており、頭が人のように大きく、目が大きい事だろうか。


 一本の脚には、黄色い石が握られていた。


 その石が光ると共に、さっきのアリエスの声が響く。


「や、やあ! 僕はアリエス!」


 脚をにょきと上げて挨拶するアリエス。


 俺も「や、やあ」と返すが、フーレたちはぽかんとしていた。


 そればかりか、マッパはよだれを垂らしながら、アリエスを見ていた。今にも飛びつきそうな勢いだ。


 たしか、マッパの奴蛸大好きだもんな……


 フーレがそんなマッパを抑えながら訊ねる


「あ、アリエスは蛸なの?」

「蛸だって!? 僕は誇り高いオクト……族だぞ!」


 アリエスは若干自信のなさそうな口調で答えた。


「ご、ごめん。私はフーレ。こっちは」

「俺はヒール。えっと、アリエス……君はこの地下の住人なのかい?」

「いや。実は……僕は……」


 アリエスは途端に顔を暗くした。


「言いたくなければ、別にいいけど。ええっと、シエル」


 俺はシエルに、アリエスやオクト族のことを知ってないかと、視線を向けてみた。


 すると、シエルはやっぱりという顔をした。


 そして制御装置の中に入り、声を発する。


「……ヒール様。その者は、かつて小規模な隕石と共に地球に降り立ってきた、異星の生物です」

「異星?」

「空の向こう……とでも言えばよいでしょうか。追放された王女のようで、まだ私たちがいる時には、赤ん坊でした。すぐ隣にある水槽室にいれていたので、ここにでてきたのでしょう」


 なるほど……よく分からん。

 でも、シエルたちとは違う場所に住んでいた部族ってのは分かる。


 アリエスはシエルの言葉にいった。


「うん? ということは、君も二本足で歩く人の仲間?」

「ええ、今はこんな姿になっていますが……アリエス。言葉は本で覚えたのですか?」

「ああ! 水槽室にあった百国記でね! アリエスはその主人公の名前から取ったんだ!」

「なるほど。ヒール様……彼女は故郷の記憶があまりなかったので、私たちの文明の本で育ったようです。どうか、寛大なお心で彼女を許してはくださらないでしょうか?」


 失礼をした、ということだろうか。

 でも、シエルが謝る事でもなければ、こっちが何か被害を被ったわけでもない。


 それに追放された王女というのに、どこか親近感を覚える。


「許すなんて、そんな大げさな。事情はよく分かった……アリエス、俺たちと一緒に地上へ行かないか?」

「つまり、それは……僕を軍師として、召し抱えたいってことかい?」

「……え?」


 アリエスはとても嬉しそうな顔をして、体をくねくねとさせる。 

 

「だけど、アリエスは主君べレイラに百度も出馬を要請されたし……僕もなあ」

「い、いや、ここで住み続けたいなら別にそれでも」

「……その返し、べレイラの最後の口説き文句! 仕方ない……このアリエス、これよりあなたに忠誠を誓うことにしよう!」

「……」


 仰々しく頭を下げ、宣誓の言葉を延々と述べるアリエスに、俺は思わず呆気にとられる。


 フーレが俺に耳打ちした。


「……このままここにいてもらったほうがいいんじゃない?」

「そうはいっても、ずっとひとりってのも寂しいだろ。というより、どうやって話せてるんだろう?」


 俺がそう呟くと、シエルが制御装置から黄色い石をいくつか持って出てきた。

 アリエスが持っているのと同じで、どこか飴玉のようにも見える。


「その石は?」


 俺の声に、シエルは制御装置に戻って再び声を発した。


「これは翻訳石。言葉を訳す石です。アリエスはこれで言葉のやりとりをしてるのですよ」

「なるほど……とすると、これがあれば」


 俺はタランとマッパに目を向けた。


 しかし、シエルがいう。


「あくまで、言葉を翻訳するものです。口で喋れない私やタラン様は、この石があっても残念ながら言葉のやりとりはできません」

「シエルのこの声は、魔法だってことか?」

「はい。制御装置の魔力を用いているのです」

「そうか……」


 でも……それってマッパは喋れるってことだよな?


「私は制御装置の操作を続けます!」

「あ、ああ、頼む」


 俺は翻訳石をひとつ持って、マッパの前に立った。


 そしてそれをマッパに渡す。


「マッパ……これがあれば、ついに俺たちは」


 マッパはごくりと喉を動かしながら、翻訳石を受け取った。


 ようやくマッパの声が聞ける。俺は今ままでになく、気持ちが昂るのを感じた。 


 そしてついに……マッパは口を大きく開ける。


 ……さあ、どうなる!?


「……え?」


 俺の期待を裏切るようにマッパは……翻訳石を口に入れてしまった。


 たしかにとても美味しそうな見た目をしていたので、分からなくもないが……


 だが、マッパはすぐに翻訳石を吐き出す。

 すぐにまずいと分かったようだ。


「……マッパ、話聞いていたか?」


 だってという顔をするマッパ。


 意地でも話したくないのかな……?


 いや、そもそもマッパは決して口から何かを喋ることはなかったか。


 とすれば、そもそも翻訳すべき言葉がマッパの口からでないのかもしれない。


 残念なような、ちょっとほっとしたような……

 俺が一息吐くと、シエルの声が響く。


「ゴーレムの制御は完了しました……ですが、やはり」


 シエルが声を詰まらせた。


 恐らく、スライムたちに宿る魂、その冷凍してあった体についてなんかあったのだろう。


 それでもあきらめたくないのか、がちゃがちゃと装置をいじる音が聞こえる。


 そんな時だった。


 突如、ゴーレムたちが出てきた穴から、黒く巨大な影がでてくるのであった。

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