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九十四話 ダメダメ軍師でした!?

「無駄だよ。”それ”では僕の人形は操れない」


 聞き覚えのない冷淡な声が響くほうへ、俺は顔を向ける。


 そこに赤い光が二つ灯っている。


 こいつはただ者ではない……


 もちろん直感でそう思ったのではない。突如、燃え上がるような魔力を感じ取ったのだ。


 以前広大な空間に現れた、浮遊する巨大ゴーレム以上の魔力が、暗闇のほうから伝わってきている。


「な、なんかやばそう?」


 フーレもクリスタルで魔力を増やしつつあったので、赤い光の者が危ないと感じたようだ。


 タランもマッパも、突然のことに身構える。


 だが、何よりも俺は、俺たちが理解できる言葉が響いたのに驚いた。


 俺は先ほどの声に応じるように、訊ねてみた。


「誰だ?」


 半球状のこの空間に俺の声が反響すると、冷淡な声の持ち主は答えた。


「僕? 僕かい? ふふふ……」


 不気味に微笑する冷淡な声の持ち主は、耐えきれなくなったのか大きな笑い声を上げた。


「ふははははは! よくぞ聞いてくれた! いや、世の人は、すべからく僕の名を訊ねるべきだ! 僕は森羅万象、星躔せいてんすらも操る軍神の化身、英邁えいまいなる……大軍師アリエス!! どうだ、怖かろう!? ふはははは!!」


 アリエスと名乗る者は、さらに笑った。


 俺や皆は、その笑い声に、ただ呆然とするだけだ。


 な、なんだこの調子は……


 フーレが言う。


「えっと……なんて?」


 俺はシエルに顔を向ける。

 シエルは何か知ってるかと思ったのだ。


 しかしシエルも聞き覚えがないのか、困惑した様子であった。


 そんな中、次第にアリエスの笑う声が小さくなっていく。


「ははは……なんか、反応薄くない?」


 アリエスは残念そうに言った。



「え、えっと……アリエスだな。俺たちは……」


 思わず言葉に詰まり、俺は小さな声を発してしまった。


 しかし、アリエスはしっかり聞き取れていたのか、すぐに返す。


「ふっ。自己紹介など無用だ。君たちは、この僕を亡き者にしようと来たのだろう?」

「え? い、いや、俺たちに争う意志はない! もし失礼をしたのなら詫びるし、すぐにでていく」

「いいや、それは困る……僕はずっと待ちわびてたんだ……今日という日をね! さあ、行け! 我がともがらよ!! やつらを捕えるのだ!!」


 その声と共に、赤い光の正体が顔を出した。


 それは恐らくミスリルを使った鎧に身を包んだ、ゴーレムであった。

 剣も盾も、おそらくはミスリル製。


 だが、いつものゴーレムと違い、そこまで大きくない。

 俺と同じぐらいの高さと体格だ。


「さすがに一体じゃ怖気づかないか……ならば!」


 アリエスの声が響く。


 しかし、何が起こるわけでもない。


「あ、あれ? おかしいな……えっと、こうだっけ? いや、違うな……あ、これか!」


 しばらくすると、続々と周囲の壁から穴が開いた。


 すると、そこからは同じゴーレムが大量に出現した。


 フーレは周囲を見て、身構える。


「ま、まずくない!?」

「ああ、囲まれた。だけど、なんだか変だ」

「変? そりゃ相当変な奴っぽいけど」

「そうじゃなくて、ゴーレムが動かない。それにこの声……どこかおかしくないか?」


 アリエスは相変わらず、ああでもないこうでもないと言っている。

 

 しかも、ゴーレムはなかなか動かないのだ。


 フーレは納得したように言った。


「たしかに、そもそもなんで地底の人が話せるのか……」

「そう。しかも、わざわざ自分が困っている声がだだ洩れ……軍師を名乗る男が、そんな馬鹿な事をするとは思えない。 ……マッパ、この装置開けられるか?」


 俺は、シエルが操作していた装置を指さして言ってみた。


 すると、マッパは持っていた金槌で装置を軽く鳴らしてみる。


「お、おーい! そんなことして、どうするんだ?」


 アリエスが不安そうに、そんなことを訊ねてくる。


 やっぱり……装置のこちら側は、最初のゴーレムからは見えないはず。

 であれば、別に俺たちを見ることができる何かが、ここには存在しているはずだ。


 先程の俺の小声を聞き取ったのも変だった。

 ゴーレムと俺の距離では、大声で叫ばないと会話にならないはず。 


 マッパはお構いなしに、装置を叩き続けた。


 しばらくするとマッパはニヤリと笑みを浮かべ、装置の下の壁の一部分を金槌で俺に示した。


「ここを、俺に開けろってことか?」


 マッパはそうだと言わんばかりに、首を縦に振る。


「よし……やるか。いいか、シエル?」


 シエルは少し沈黙した後、迷わず体を縦に振った。


 俺はそれを見て、ピッケルを振り上げる。


 すると、アリエスの声が響いた。


「ま、待て!! 今はそんなことしてる場合じゃないだろ! ゴーレムが迫ってきてるんだ! 戦おうよ!」

「いや、全然動いてないみたいだけど……というか、なにか開けて欲しくない理由でもあるのか?」

「そ、そういうわけじゃ……あ、開けたいんだった勝手にすればいいじゃん。でも、どうなっても知らないよ!」


 アリエスは露骨に焦っているようだった。


 俺たちが使うバーレオン語を、アリエスが覚えているとは正直考えづらい。

 だから、何かしらの魔法を使っているのではと思った。


 ただ、シエルがかつて墓地の前で本当の姿を見せ、俺たちに話しかけたことがあった。

 それはシエルの魔力ではなく、墓地本体の何かしらの仕掛けによるものだったはずだ。


 今回も、同じ仕掛けが働いてると思ったのだ。


 そして先程から、異常なまでにこちらの言動を把握できている……


 だからこの装置の中に、何かしらの仕掛けがある可能性は高い。


「……よし、開けよう」

「ま、待った! やっぱやめた方がいい! 君たちのためによくないことが起きる!」

「どうして?」


 俺が訊ねると、アリエスはしばらく黙ってしまった。


 しかし少しして、小声で口を開く。


「……お願いします。お願いですから……なんでもしますから、戦ってください」

「俺たちに戦う意志はないんだが……というか、君も俺たちを殺す気はないんだろう?」

「はい、僕も殺すつもりはないんです。ただ、一度だけでいいから、”勝利”というものが知りたくて」

「なんだそりゃ……」


 どういうことだろうか。いや、競争をして勝ちたいとか、そういう心理は分かるが……


「じゃあ、俺たちが負けを認めるって言ったら?」


 俺が試しにそんなことを訊ねると、アリエスは即座に声を上げた。


「ほ、本当ですか!?」

「いいよ、別に……もちろん、この戦いの負けを認めるだけだけど……」

「や……やった! 僕は勝ったんだ!! ようやく、勝利した!」


 この半球状のドームに、無邪気な歓声が響くのであった。

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