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九十話 形容しがたい悲鳴が響き渡りました!!

「なんだ、ありゃ!?」


 埋立地にいるゴブリンが叫んだ。


 望遠鏡を持ってない彼らにも見えるぐらいの巨大な生物……それがカミュの船を飲み込まんと迫っていた。


「り、リヴァイアサン!?」


 そんな怯えるような声も聞こえてくるが、リヴァイアサンとは違う。


 リヴァイアサンよりも細い体が何本も海からうねうねと伸びてるのだ。

 体の先には顔はなく、タコやイカの触手に近い。


 だが、リヴァイアサン同様、神話の生き物とよく似てる。


 クラーケン……海の魔物だ。


 リヴァイアサンと違うのは、実際によくこのクラーケンに襲われている船は多いということだ。


 船ごと海中に沈め、そのまま捕食……

 中には、船上にいる人間を一人ずつ攫って食べる、狩りを楽しむような個体もいるようだ。


「……カミュさん。またなんか連れて来たね」


 フーレはクラーケンを怖がる様子もなく、そう言った。


 たしかに今は防備もある。島は安全だ。

 だが、このままではカミュの船が沈められる恐れもある。


 もちろん、そんな時のために……おっ、動いたか。


 海に立っていた巨大なマッパ像が「ごおぉおおおおお」と低い声を上げながら、動き出した。


 そして彼の口から、巨大な炎が放たれる。


 その炎はカミュの船の上を掠め、向こうにいるクラーケンに当たる。


 爆音が響き渡ると、そこには煙を上げながら海中に沈むクラーケンの触手が。


 轟音のような水しぶきの音と共に、やったという魔物たちの声が、埋立地の各地から上がった。


 的確にクラーケンにあてたな……


 以前、デビルホッパーが大挙して押し寄せた時は、打てば当たるような状況だった。

 だが今回の攻撃を見れば、狙いのほうも問題なさそうだ。


 しかし、皆が喜ぶ中、俺はあることに気が付く。


「魔力が……減ってない?」


 海中に沈んだクラーケン。

 だが、その魔力はいまだ健在で、ここからでも十分に察知できるほどだ。


 それに気が付いたのは、バリスもだったらしい。


 バリスはすでに翼を広げ、海上を進んでいた。


 俺もすぐに埋立地の海側へと走り出す。


「皆さん! まだクラーケンは倒れてません! 戦闘準備を!」


 リエナもクラーケンがまだ倒せてないのが分かっているようで、皆に戦いの準備を呼びかけはじめた。


 一方、クラーケンのほうはまだ海中で揺蕩たゆたっているようだ。


 しかし、急に体を震わせたかと思うと、すぐに島側……マッパゴーレムへと突進してきた。


 一瞬のことであった。

 無数の触手が海中から飛び出し、マッパゴーレムに絡みつく。


「マッパ!?」


 俺だけでなく、埋立地の皆が、その様子に思わずマッパと呼んだ。


 そういや、あのゴーレムの名前なかったな……


 マッパゴーレムはそれを口からの炎と、手にあった巨大な斧で払おうとした。

 だが、海中でも脚に絡みついているようで、次第にマッパゴーレムは触手に体を縛られていく。


「ヴぉおおおおお! おぉおう! ……おぉん」


 マッパゴーレムは、体中にうごめくぬるぬるとした触手に、思わず喘いだ。


 そして気持ちの良さそうな顔で、身をよじらせる。


 この様子に、魔物たちは気持ち悪そうに目を逸らしたり耳を塞ぐ。


「あんな声や仕草、どこで覚えたんだ……」


 あ……そういえばマッパのやつ、よくあのゴーレムのところ行ってたな……


 肩の上で変な踊りを踊ったり、ポーズを取っていたことが、漁をする魔物から報告としてあがっていた。


 俺の隣で走っているマッパは、恥ずかしそうに手で顔を隠した。


 いや、お前が教えたんだろ……


 そう言いたくもなったが、今はそれどころではない。


 マッパゴーレムは全身が岩でできており頑丈だ。


 とはいえ、リヴァイアサンを除けば最強の海の魔物として恐れられるクラーケン。


 巨大な船でさえも沈められたり、締め付けられて破壊されているのだ。


 マッパゴーレムが無事でいられるかは分からない。


 空中にいたバリスやカミュ、そして海中にいた潜水ゴーレムが触手を魔法で攻撃する。


 海の生物に有効とされる雷魔法も放っているようだが……

 粘液のせいか、そこまでダメージはないようだ。


 そんなバリスたちを、クラーケンは触手で薙ぎ払おうとする。


「倒せないか……なら」


 俺は右手を前に出す。


 しかし、触手の動きは機敏でなかなか狙いが定まらない。


 ならば範囲を広げ、一気に……そうしようとすれば、マッパゴーレムをはじめ、皆にもあたってしまうかもしれない。


「もっと近くにいかないと……」


 だが、埠頭の一番向こうまでは結構な距離がある。

 そしてそこに着いたとしても、かなり中途半端な距離だ。


 バリスは今戦っているし呼び戻せない。


 どうするべきか……


 そんなことを思っていると、俺の隣から目にもとまらぬ速さで巨大な何かが飛び出してきた。


 黄色と黒の縞模様……この前島に住みついた、巨大蜂のヒースだ。


 ヒースは脚で、ロープを一本、その両端を持っていた。


「まさか……俺を乗せてくれるのか?」


 ヒースはうんと体を縦に振ると、少しだけ空を上がる。


 すると、ロープだけが下に降りてきた。


 俺はちょうどロープの中央部分に立ち、両手でロープを掴む。


 外から見れば、ブランコを立ちぎするような格好だ。


 俺が乗ったのを確認すると、ヒースはすぐに空を飛び始めた。


 意外にも、ヒースの速度は早く、ただでさえ高いところが苦手な俺は恐怖を感じた。


 が、今はマッパゴーレムの命がかかって……いや、一刻も早くあの喘ぎを止めなければならない。がまんだ。


 ヒースがクラーケンに迫ると、何かを察知したのか、こちらにも触手の突きが飛んでくる。


 俺はその一本に、雷魔法を浴びせた。


 すると、その魔法を浴びた触手だけでなく、他の触手も震えだし、水中へと沈んでいくのであった。


 水しぶきがあがり、あたりに滝のような雨を降らせる中、何者かが俺のもとに突っ込んでくる。


「ああ! さすが、私のヒール様ぁっ! ……あっ」


 何かを察したのか、ヒースは迫りくるカミュから避けてくれた。


 そんな時、マッパゴーレムがクラーケンの死体を海中から両手で掲げ、それを島の皆に見せつける。


 島からはクラーケンを倒したことと、カミュたちが帰ってきたことに、大歓声が送られるのであった。

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