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九話 最強のライバルが現れました!

「おお、良いじゃないか!」


 俺は海岸で、新しいピッケルを掲げてみた。

 すると、バリスが頭を下げる。


「ありがたきお言葉です、ヒール殿」


 このピッケルは、バリスとエレヴァンが協力して作ったものだ。

 バリスがどう作るかを指示し、エレヴァンが実際に手を動かした。


「されど、ワシの知識ではこれが限界でした……とてもではございませんが、もともとのピッケルの質には及びません」

「いやいや、こんな場所で鉄が作れたってだけですごいよ」


 俺はバリスが設計した高炉や設備などを見る。

 

 俺自身、鍛冶には全く詳しくない。

 だが一つ分かるのは、バリスの考えた鍛冶の設備は、人間のそれに遥かに及ばないということだ。

 

 ゴブリンたちは部族社会だ。

 武器はあくまで狩猟用なので、いまだに石器を使う部族もいる。

 鉄を作る余裕があるのは、豊かな部族だけ。


 ベルダン族は、そこまで大きな部族ではなかった。

 しかし、多少は鉄を作っていたようである。

 

 バリスはその知識を用いて、鉄を作る設備や方法を俺に教えてくれた。

 俺はその設備を、石材で組み上げただけ。


 というか、俺の頭がもっと良ければな……

 さすがに鍛冶についての技能が求められるとは思わなかったが。


 この島には、専門技能やスキルを持つ者も不足してると言えそうだ。


「二人とも、良くやってくれた。俺も鉄を作るのに参加できれば良かったんだが……」

「まさか! 大将に採掘以外のことでお手を煩わせるわけにはいきませんぜ!」


 エレヴァンはどんと胸に手を当てる。


 有難い話だ。


 とはいえ、やはり俺が掘るのが一番効率がいい。


 効率を求める理由はただ一つ、未だ短いリエナの寿命のためだ。

 リエナのために、寿命を延ばす亀石タートルストーンをたくさん採る必要が有る。


 既にリエナは、もう五年以上の寿命を得ている。

 だが、リエナはまだ十五歳……

 人間とゴブリンの寿命は同じぐらいなので、もっと延ばしてやるべきだ。


 そしてエレヴァンたちに渡したピッケルは、もう壊れそうになっていた。

 俺のはまだまだ大丈夫だが、もう持ってきた在庫はない。

 だから、ピッケルを作る必要があったのだ。 


 そして三日前に仲間にしたケイブスパイダーたち。

 親のタランを筆頭に今、島の一部分に排……土を運ばせている。

 小さいながらも農園を造るためだ。


 それとは別に蜘蛛糸も吐かせているが、これは糸を得るためだ。

 リエナによればこの蜘蛛糸は丈夫で、長さも太さもそのまま糸として使えるものらしい。

 

 リエナはこれを使って、まずは魚を取る網を作っている。


 漁なら、俺が雷属性の魔法でやればいい。

 だが、なるべく俺に頼らずというのがゴブリンたちの総意だ。

 俺にはやはり採掘に集中してほしいのだろう。

 

 まあ、確かにそれが適材適所だろうな……


「じゃあ、俺はまた空洞に戻るよ。 ……“あの石”も、それなりに使えそうだからな」

「はい! 俺たちもある程度作ったら、また鉱山に戻りますので!」

「そっか。じゃあ、待ってるぞ」


 俺はそう言い残して、洞窟に戻った。

 そして坂道を降りるのだが、そこにスライムのシエルが現れる。


 シエルは脇道の傾斜の上で、船の形になった。


「お、シエル。今日も悪いな」


 するとシエルは、手のように体の一部分を伸ばし、それを振った。


 気にするな、か…… 

 俺とゴブリンのやり取りを見て、手振りを学んだのだろう。


「じゃあ、頼む!」


 俺はシエルに乗って、その体をしっかりつかむ。

 

 すると、俺たちは一気に坂道を滑り落ちた。

 本当に一瞬で、タランたちのいた空洞に到着する。


「ふう、ありがとう。やっぱ速いな。 ……まあ、ちょっと怖いけど」


 俺はシエルをポンポンと叩いて、空洞へ入った。


 さて、もう半分だな。


 俺は空洞に残るオレンジ色の石を見る。

 ここ三日、普通の採掘の合間に、あの石も採掘していた。


 あの石は……


≪太陽石……使用することで、生物の成長を促進させる≫


 生物というのは、人間などの動物や植物も含まれるらしい。


 ここのケイブスパイダーが大陸よりも大型なのは、恐らくこの石のせいなのだろう。

 

 成長することで寿命が減るのかどうかは分からない。

 なので、自分や仲間にこれを使うのはちょっと怖い。


 だが、作物を育てるなら、これは非常に役立つだろう。

 どれぐらい成長促進できるか分からないが、上の農園ができたらリンゴの種でも植えて試すつもりだ。


 じゃあ、始めるか……

 うん?


 俺は空洞に入ってきた巨大な黒い蜘蛛に気が付く。

 ケイブスパイダーのタランだ。

 

 そしてタランは、合計で四本のピッケルを持っていた。

 ケイブスパイダーの足は八本なので、その内の前側四本がピッケルを握っている形だ。


「どうした、タラン? ピッケルは一本あるから、まだいらないが……」


 エレヴァンに持ってけと頼まれたのだろうか。

 だが、俺がピッケルを壊しにくいことを、ゴブリンたちは知ってるはずだ。


 まさか……


「お前……俺とやろうってのか?」


 タランはただその六つの赤い目を向けて応える。


 嬉しいような、恐ろしいような……

 体がぞくぞくしてくる。


 従魔の身でありながら、こいつは……あの四本のピッケルでこの俺に挑むつもりだ。


「いいよ、受けてやるよ……」


 俺はピッケルを構えた。

 そして……


「……行くぞぉっ!」


 勢いよくピッケルを太陽石に振りかざす。

 と同時に、後方から俺の四倍の速さで、ピッケルが岩を砕く音が響いた。


 タランはピッケルを四本持ってる。

 それで採掘をするのだから、一本しか扱えない人間など敵ではない。

 

 にしてもあそこまで悠々と扱えるのは、この三日間俺の動きを見ていたからだろう。自分もできる……いや、もっと上手くできると思ったのかもしれない。


 だが俺は【洞窟王】。負けるわけにはいかない。


「うおおおおおおぉおっ!! 負けるかあああああぁあっ!!」


 俺がさらに早くピッケルを振り回すと、タランもそれに合わせるようにペースを上げる。


 競争の結果、その日のうちに、太陽石は回収し終えるのであった。

 そればかりか、もっと奥の方まで岩壁を掘り進めてしまう。

 

 俺はこの島に来て、初めてへとへとになった。

 シエルになんとか入り口まで運んでもらうも、まだ息が荒い。


「はあ、はあ……なんて速さだ。タラン、お前すごいよ」


 俺は付いてきたタランの健闘を称える。


「だが、掘り進めた長さは俺の勝ちだったな……」


 とはいえ、最初であの速度だ。

 しかも、スライムによる運搬が追い付かず、足場が悪いこともあった。

 成長すれば、いずれ俺すらも……


 タランを末恐ろしく思う俺に、小さなゴブリン……リエナがやってくる。


「お、リエナか。えっと、今日の亀石は……」


 俺がインベントリを調べようとすると、リエナが言う。


「ヒール様、お疲れ様でした! はい、これを!」

「お、ありがとう」


 俺はリエナから差し出された白い布を受け取り、それで汗を拭った。

 

 あれ? こんな綺麗でさらさらな布なんて、持ってきてたっけ?


 気持ちよさそうにしていた俺に、リエナはほっと息をついた。


「……ああ、気に入ってくださって良かった。魚網を作り終えたので、蜘蛛の糸で手拭いを編んでみたのです」

「おお、そうだったのか。絹で編まれてるんじゃないかと思うぐらい、気持ちよかったよ。リエナは裁縫もできるんだな」

「はい! 色々と作れますが……もしよろしければ、お布団なども作りましょうか?」

「そうだな……シエルにずっと布団になってもらうのも悪いし。頼めるか?」

「はい、お任せください!」

「ありがとう、リエナ。お前が来てくれて、本当に良かったよ」

「……え?」


 何気なく言ったつもりだったが、リエナは急に体を震わせ、目を赤くする。


「ご、ごめん、なんか変なこと言ったかな?」


 リエナは軽く涙を拭い、首を大きく横に振る。


「いいえ……ちょっと目にゴミが入っただけです! 私夕食の準備してきますね!」


 リエナは泣きながらも嬉しそうな顔で、俺に背を向けるのであった。

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