八十六話 見覚えがありました!!
本日4月25日、本作の書籍版が発売します!!
「うわああああっ!! ……って、スライム?」
目の前の赤い光に声を上げたフーレだが、すぐにその正体に気が付く。
穴の向こうにいたのは、見慣れた丸い液体の生き物……スライムだった。
シエルと同じぷるぷるの水色の体……ではない。灰色にくすんでおり、体も少し固めのように見える。
動きも鈍く、スライムたちは俺たちをただ見上げるだけだ。
「ここにもスライムが……」
シエルを仲間にした後も、地下を掘る度スライムはでてきた。
これまでのスライムは、皆シエルと同じような見た目をしていたが……
俺は後ろからついてきているシエルに振り返る。
すると、シエルは灰色のスライムたちに近寄り、体を動かして何かを伝えようとした。
だが、灰色のスライムの反応は鈍い。
とても意思が通じているようには見えなかった。
ここのスライムたちからは、ほとんど魔力を感じない。
シエルも少し困ったようにその場できょろきょろしていた。
しかし、音が響いてくる方向に視線を向ける。
一体だけ活発に動いている魔力の反応……俺もその方向に目を向けた。
すると、そこには洒落た紋様の入ったピッケルを振るう灰色のスライムが。
一心不乱にピッケルを振っているが、掘れているのは小石にも満たない破片であった。
シエルはその灰色のスライムの体をちょんちょんとつつく。
すると、灰色スライムはぎこちなく振り返った。
何かを伝えようとするシエル。
だが、ピッケルを持つ灰色のスライムは俺たちを見て、ぴょんと跳ねた。
人間を見て驚いたのかな……まあ、ずっと人間なんて見てなかっただろうし、当然か。
いずれにせよ、他のスライムと比べると、このピッケル持ちのスライムは意識がしっかりしてそうだ。
シエルが言うにはこの地下に眠る人間は皆、スライムの体に魂を宿らせている。
そのせいか、思考能力がスライム並みになっているとのことだった。
一人この状態を打開しようと、岩を掘っていたのかもな……
よく見ると、周囲のスライムは砕かれた岩を体に含んでいるらしい。
岩を食べている……? いずれにせよ、体が灰色なのと何か関係がありそうだ。
灰色スライムは少しすると、ピッケルで岩壁を叩き、俺に振り返る。
どうやら、あの向こうに何かがあるらしい。
フーレが首を傾げた。
「何かあるのかな?」
「みたいだけど……特に何かありそうな感じは」
魔力の反応があるわけでもない。
「とりあえず……俺が掘ってみるよ」
俺は灰色スライムの横で、壁を掘ってみる。
すると、岩ががしゃんと一瞬で崩れた。
それを見た灰色スライムは、またもや跳ねて驚く。
しかし、そこにあったものを見て、灰色スライムは固まってしまった。
目の前にあったのは、白骨であった。
「骨……? なんの骨だ……いや、これは」
見覚えのある骨だ……人間のようだが、やけに大きい頭。
俺がかつて洞窟の入り口で見た、誰かさんの頭蓋骨と同じ。
こいつは……
俺は周囲のスライムがざわつくのに気が付く。
彼らが顔を向ける先には、半裸の男マッパがいるのであった。