表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/290

八十五話 巣を作りました!

「どうだ? 問題なく過ごせそうか?」


 俺は、世界樹の上にできた大きな箱を見て言った。


 六角形の格子のように穴が開いた、家のような大きさの箱。


 その穴の一つから、巨大蜂のヒースが顔を出す。


 ヒースは嬉しそうに口を大きく開けた。


「あ! もう蜜は大丈夫だ! 今度余裕がある時に、また分けてくれ」


 俺が言うと、ヒースは口を閉じる。


 そして穴になにやら卵のようなものを生み出していった。


 腹が膨れていたのは、やはり卵のせいだったようだ。


 隣のリエナが嬉しそうに言った。


「ヒースさん、気に入って下さったようですね」

「みたいだな。助かったよ、リエナ」

「いえいえ。蜂の巣はよく森で目にしたので! 不安でしたが、普通の蜂と同じ形で大丈夫だったようで良かったです」


 ヒースを見て、身重かもしれないと真っ先に気が付いたのはリエナだ。

 巣を一人でつくるのは大変だろうと、こうしてヒースのための巣を考案してくれた。


 世界樹の枝からできた木材を加工し、魔物たちにこうして巣をつくってもらった。


「それにしても、すごい卵の数だな……いっぱい子供が生まれそうだ」


 ヒースは穴の一つ一つに卵を産んでいく。

 すでに十個以上。だが、まだまだ腹は大きい。


 この蜂たちが今後順調に育っていけば、俺たちに蜜を分けてくれるかもしない。


 先程ヒースの様子を見ていたが、花蜜を吸うのではなく、世界樹を舐めていた。


 世界樹の樹液はもともと甘いし、漂う金色の粉も甘い香りがする。


 以前、俺たちの頭が少しおかしくなった時、世界樹の粉に色々と問題があるのが分かった。

 甘い匂いで、気分を浮つかせる効果があるのだ。


 あれ以来、粉は少なくなっているが、世界樹の上にいる時はいまだに変な気分になりやすい。


 もしかしたら、世界樹の粉が風で飛ばされ、それを嗅ぎつけてこの島にきたのかもしれない。


 ともかく、蜂蜜が手に入るかもしれないというのは嬉しい限りだ。

 蜂蜜があれば、料理の幅も広がるだろう。蜂の巣の一部を取り換えることで、ろうそくもつくれるかもしれない。


 俺はそんなことに心を躍らせていたが、


「子供……いっぱい欲しいですね」


 リエナは羨ましそうにヒースを見て言った。

 どことなく頬が赤い。この感じは……


「あ、ああ……そうだな。俺は、そろそろ採掘に戻るよ」

「え? は、はい! 行ってらっしゃい!」


 リエナははっとした顔をしてから、いつものように元気よく見送ってくれた。


 ここにいると、また何が起こるか分からない。

 見た目麗しいリエナが近くなら、尚更だ。

 リエナもまた、変な気分になっていたのかもしれない。


 ということで、俺は足早に洞窟へと戻っていくのであった。


 城壁の細かい仕上げは、魔物たちがやってくれることになった。

 あとは区画ごとに建物を建てていく。


 なので、ますます石材も必要になってきた。


 制御装置まで掘るという目標もあるが、岩を掘るのも俺にとっての大事な仕事だ。


 トロッコで下まで降りると、そこには談笑するフーレとタラン、魔物たちが。


 というか……タランのやつ、話せるのか?

 いや、身振り手振りでなんとなく意思疎通はできてたが。


 皆が笑っている中、フーレがこちらに気が付く。


「お、きたきた。蜂の巣はばっちし?」

「ああ、完成した。産卵していたし、気に入ってくれたみたいだ」

「そっか、それじゃあこっちの巣もつくってかないとね」

「こっちの巣? ああ、たしかにアリの巣みたいだな……」


 王主催の博覧会かなんかで、ガラスの箱にはいったアリの巣を横から見たことがある。


 アリの巣は地下で複雑に入り組んでおり、まるで洞窟や鉱山のようなのだ。

 驚いたことにアリは地面を掘って、巣を日々延伸している。


「でしょ? 私たち、アリみたいだなって。今、そんなことを話してたんだよ」


 フーレたち魔物も、アリの巣のことは知っていたみたいだ。


「それじゃあ、今日もアリに負けないように掘ろうか! まだこの島でアリは見たことないけど」


 フーレの声で、俺たちは採掘を始めた。


 アリか……


 タランたちケイブスパイダーはこの洞窟の下に住んでいた。

 

 アリの魔物がいるかは分からないが、巨大化したアリが地下に巣をつくっていてもおかしくないよな……


 巨大な蜂のヒースを見たばかりだし、尚更そんなのがいても不思議ではない。


 まあ、タランやヒースみたいに敵対的じゃなければいいんだが……


 そんなことを思って一時間ほど掘っていると、タランが突如ピッケルを振るう手を止めた。


「うん、どうした、タラン?」


 タランはきょろきょろと周囲を見渡し、何かを探るような仕草を見せる。


「……なにか、いるのか?」


 俺も周囲の魔力を探ってみた。


 すると、僅かだが魔力の反応が下のほうで動いているの分かる。


「これは……誰かが動いている?」


 タランはこくりと体を縦に揺らした。


 蜘蛛特有の、何かを察知する能力があるのだろうか。


 しかし、フーレも壁に耳をあてて、何かに気が付いたようだ。


「これ……掘っているよね?」


 その声に、タランもうんうんと体を振る。


 俺もすぐに壁に耳をあてるが、音は分からない。


「掘っている? ピッケルか何かでってことか?」

「うん、多分……かんかんって音だから、何かを叩いているのは間違いないと思う」

「誰か……生き物がいるのは間違いないようだな。とりあえず、掘ってみるか」


 魔力だけを見れば、危険なやつではなさそうだ。

 掘って、接触を試みるとしよう。


 俺たちはその反応に向かって掘り始めた。


 すると、次第に音が響くのが俺の耳にも分かった。


 こんな場所で一人……誰なんだ……


 そんな時、岩が崩れた音が遠くに響く。


 同時に、俺たちの前に真っ暗闇の空間が現れた。


「やった! また部屋を発見……え?」


 俺たちが掘り当てた場所から、無数の赤い光が向けられるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ