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八十四話 蜂を捕まえました!!

「マッパ!! うしろっ! うしろだ!!」


 俺が呼び掛けると、城壁にへばりつくマッパは、少し面倒臭そうに振り返った。


 すると、そこには巨大な蜂がいて……


「マッパ、よけろっ!!」


 マッパはあっと口を開くと、少し恥ずかしそうに己の尻を差し出した。


 彼の腰蓑から覗く尻に、蜂は目にもとまらぬ速さで、針をぶすりと突き刺す。


 マッパは尻を抑えて、悲痛な顔を浮かべると、壁から落ちてしまった。


「マッパ! ……というか、なんで差し出した!?」


 いつものように、スライムのシエルがマッパを地上で受け止める。

 俺も同時に回復魔法を掛け、マッパに近寄った。


「マッパ!! おい、マッパ!!」


 声を掛けると、マッパは頬を染め、だらけた表情を俺に見せた。


 出血はないみたいだ……よだれは垂らしているが。


 念のため、毒にかかってないか見てみるが、特に問題もなさそうだ。


「この野郎! よくもマッパの兄貴のプリケツを!!」


 ハイネスはすぐに弓矢で蜂を攻撃していた。


 しかし、巨大蜂はふらつきながらも矢を避ける。


「こ、こいつ!!」


 さらに矢を放とうとしたハイネス。

 しかし、蜂は背を向け、去っていこうとする。


「あ、おい! 待ちやがれ!! あっ」


 ハイネスが怒声をあげた時だった。

 蜂は、見えない何かに引っかかったようにその場で暴れる。


 見えない何かは、光の反射で細い糸だと分かった。


「……これは」


 ハイネスと俺が振り返ると、そこには巨大なケイブスパイダー、タランがいた。


 タランは蜘蛛の糸を繰り出して、とっさに巨大蜂を捕らえたのだ。


 巨大蜂はまるで魚のように、タランによって引き寄せられていった。


 蜂は胴体を糸で巻かれ、地上に降ろされる。


「タラン、よくやった。しかし……まさか蜂までやってくるなんてな……」


 キラーバード、サタン貝、デビルホッパー……そして蜂か。


 とはいえ、今までの襲来者たちは皆大群だった。

 しかし、この蜂は見た所一匹だけ。


 タランは俺の声に、誇らしそうに前脚を上げてみせた。

 蜘蛛は蜘蛛の巣をつくったりするし、もともと虫取りはお手のものなのかもしれない。


 俺はだらしない顔のマッパを放っておいて、巨大蜂に寄ってみる。


 バタバタと暴れる巨大な蜂。蜘蛛糸から逃れようとしているみたいだ。


 ハイネスは少し怖がるように言った。


「でかいっすね……」

「ああ、まるで人間に羽が生えてるみたいな大きさだ」


 頭と胴体は、人間と同じぐらいの大きさ。

 透明な羽は、その体長より若干長そうだ。


 体色は見慣れた黄色に黒の縞模様。

 マッパを刺した鋭利な針は、まるで人間の剣のようだった。 


 大きさ以外は、蜂そのもの……ただ蜂は細身の者が多い気がするが、この巨大蜂は腹部が相当に盛り上がっている。


「……じゃあ、やっちゃいますか。俺は虫が苦手ですが、基本皆食べれるんで」


 ハイネスは腰に提げていた剣を抜いて、蜂に突き刺そうとした。


 育ちもあるのだろうが、コボルトはなんでも食べ物にするんだな……


「待て、ハイネス。そんな凶暴なやつじゃなさそうだし、ここは」

「でも、マッパの兄貴の尻を……いや、あれは、マッパの兄貴が悪いのか」

「ああ。殺そうとするなら、もっとやりようがあっただろう。興味本位で、尻を刺したのかもしれない」

「そ、そうっす……かね? ああ、でもマッパの兄貴の尻は、たしかになんか変な魅力が……」


 タランはハイネスの声に、身を引くような仕草を見せた。


「そ、そういう意味じゃなくて! 形といい、艶といい、なんかそういう……ああ、そうじゃなくて!」


 ハイネスは必死に俺とタランに弁解する。


「ま、まあ、これは尻を突き出した本人にも問題がある……挑発する感じにとられたのかもしれない。それにだ。誰か、この蜂の正体を知ってるかもしれないだろ? まずは話を聞いてからでも……」

「確かに……バリス殿に話を聞いてからの方がいいかもしれませんね」

「ああ。だが……なんだか随分と弱っているようだな……」

「たしかに。矢を避ける時もなんだか動きが変でしたしね」


 巨大蜂にはよくみると各所に傷がある。羽も齧られたのか、何か所か欠けていた。

 タランが痛めつけたわけではない。やられてから随分と時間が経っているようだ。


 矢を避ける時もふらふらだったし、もともと弱っていたのかもしれない。


 蜂は暴れるのを止め、諦めるようにぐったりとした。

 しかし、脚だけは、大きく膨れ上がった腹を守るように動いている。

 

 腹が痛い? いや、腹に何かあるのか……?


 いずれにせよ、これではバリスから話を聞く前に、死んでしまうかもしれない。


「治療してみるか……」

「い、いいんですか? 治した瞬間、襲ってきたり」

「タランが拘束しといてくれるだろう? それにもしもの時は……俺がやる」

「わ、わかりました。俺も剣で警戒します」


 ハイネスは不安そうな顔をしながらも、納得してくれた。


「よし……それじゃあ」


 俺は治癒魔法を蜂にかけていく。


 すると、蜂の傷は塞がり、嘘のように綺麗になった。


 蜂は驚いたのか、きょろきょろと周囲を見渡している。


「もう、痛まないか?」


 俺が言うと、蜂は俺に目を向けてきた。


 そしてじっと俺を見つめる。


「えっと……他に痛い場所があれば……ぶふぉ」


 突如、蜂は黄色い粘液を口から俺の顔にぶちまけてきた。


「ひ、ヒールの旦那っぁ!! こいつ!!」

「むぁ、むぁて、ふぁいねつ……」


 俺は顔についた液体を払いながら、ハイネスを止める。


「……甘い。これは蜜だ」


 しかも、ただの蜂蜜じゃない。甘いだけでなく、あらゆる果物や花の香りを凝縮したような匂いが感じられる。 


「み、蜜?」


 ハイネスは俺の顔についた蜜を指で取り、舐めてみる。


「これは……! ……くうぅううん!」


 蜜を舐めたハイネスは、犬のように尻尾をふりふりと振って、可愛らしい鳴き声を発した。

 いつもの飄々とした感じからは、考えられない抜けた顔だ。


 ハイネスははっとした顔になる。


「……こ、これはお見苦しいところを! すいません! 甘いものには目が無くて!」

「いや、唸りたくなるのもわかる……こんなにおいしい蜂蜜は俺も初めてだ」

「というか、こいつ……もしかしたら、お礼のつもりで蜜をヒールの旦那に」

「だろうな……」

「にしても、いきなり顔にぶちまけるなんて……」

「まあ、悪気があったわけじゃないだろうから」


 相手は蜂……謝意を示してきただけでも、むしろ驚きだ。


 そんな時だった。


≪テイムが可能な魔物がいます≫


 俺の頭の中に、助言者の声が響く。


「テイムができる……ようだ。とすると、こいつらは魔物なのか」

「へえ。ただの巨大化した蜂ってわけじゃないんすね」

「みたいだな……えっと、この島にどうしてやってきたんだ?」


 俺はそう訊ねてみるが、当然言葉は通じてないのだろう。蜂は何も答えなかった。


 だが、腹を抱えながらずっと世界樹のほうを見ている様子だし、もしかしたら新たな巣をつくりたかったのかもしれない。


 俺の信条として、無理やりテイムするのは避けたいが……

 とはいえ、この島に住みたいのであれば、俺にテイムされている状態になってくれたほうが、皆も安心だ。


「とりあえずは……テイムさせてもらうか。名前は……ビー、ビース……ヒースなんかどうかな?」


 とりあえずは王国人らしい名前をつけて、皆に呼んでもらうとしよう。


 蜂は何も答えなかったが、俺との間に光が弾けた。


≪命名完了。ヒースをテイムしました≫


 こうしてヒースは、俺たちの仲間となるのであった。

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