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八十話 一網打尽にしました!!

 ボートに向かうベルファルトを見て、エレヴァンは呟いた。


「様子がおかしい……大将、こりゃあ」

「ああ……」


 俺はボートに横たわる者たちの魔力を、念入りに探る。

 しかし、魔力の反応はない。


 武器を隠している可能性は……


 塔の上からアシュトンとハイネスがボートの中を探ってくれていたが、俺を見て、首を横に振った。


 エレヴァンは首を傾げる。


「また武器がねえだと……」


 武器もろくな魔法も使えない……だから、やつらに戦う意思はない。


 普通の人間相手であれば、そう思っただろう。


 だが、先程バリスが言うには、彼らはちょっと特殊な種族かもしれない、というのだ。

 ドラゴンの翼のような耳……彼らは、ドラゴンの血を引いていると。

 そしてその血によって彼らは、ドラゴンに……


 あれこれ考えていると、エレヴァンが何かに気が付く。


「お?」


 埠頭に接岸したボートから、やつらの長……アーダーが一人丸腰で降りてきた。


 アーダーは何かをベルファルトに伝えると、さっきとはうって変わって、笑顔でこちらにやってきた。


 ベルファルトが、俺に言う。


「ヒール様! アーダー様がお礼と……その、お願いを申し上げたいと」

「……お願い?」

「ええ。あそこにいる者たちなのですが……実は長い航海で疲れているため、一泊でもいいので、この島に泊まらせていただけないかと……」


 ベルファルトはボートに乗っている者たちを見て、そう呟いた。


 これには、すぐにエレヴァンが口を挟んだ。


「この島に泊まる!? そんなこと許せるわけがねえだろ!?」

「ひ! そ、そうですよね! アーダー様にはそう……」


 ベルファルトは、アーダーへエレヴァンの言葉を伝えようとする。


 俺は手を前に出して、それを止めさせ、こう伝える。


「待て。その話……受けよう」

「い、いいんですか!?」


 相手方であるはずのベルファルトも、俺の発言に不安そうに訊ねた。


 ベルファルトはただの通訳で大事なことはあまり教えられてないようだが、アーダーが何かを企んでいるとは、薄々気が付いているのだろう。


「ああ。ここでテントを張るぐらいなら。あれだけと言わず、船の皆を上陸させてくれ。酒と食事を用意する。全員で、何人いる?」

「え、えっと……千人はいるかと」

「そうか、千人だな。全員分用意できるから、皆降りてきて大丈夫だ」


 俺がそう言うと、


「大将! さすがに、そりゃあねえ……ぞ」


 怒声をあげるエレヴァンだが、俺が目配せすると、不満そうにしながらも口を閉じた。


 そうしている間にも、ベルファルトはアーダーへ俺の言葉を伝える。


 すると、アーダーはおおと感嘆するように声をあげ、仰々しく俺に頭を下げた。


 ベルファルトはアーダーの言葉を、心配そうに俺に伝える。


「ご慈悲に……感謝します。すぐに皆、上陸させていただきます、と仰ってます……」

「大将……」


 エレヴァンはふんっとその場から去ってしまうのであった。


 その間、俺は色々と準備を整えた。彼らを、”歓迎”するための。

 

 準備といってもたいしたことではない。食事や酒も、別に用意しない。

 リエナたち魔法を使える者、ゴーレム、魔物と作戦会議をしただけ。


 彼らには、埠頭に上陸した者たちを囲むように待機してもらう。そして俺の指示があれば……彼らと戦ってもらう。


 また、巨大なマッパゴーレムにも、ある指示を出しておいた。


 俺は、先程怒った”ふり”をしたエレヴァンに声を掛ける。


「エレヴァン、悪いな」

「いや。わざわざ全員呼び寄せると聞いて、ピンときました。なるべくやつらを一網打尽にする……船で攻撃してくる可能性もありますし、誘い込んだ方がいいってのは俺も同意です」

「ああ。なんとしても、そのまま祖国に帰すわけにはいかないからな……」


 それにバリスの話だと、彼らはおそらく人間ではないという。

 可能性は低いが、船がなくても逃げられるかもしれない。

 だからこそ、なるべく一か所に集め、敵を捕まえたいのだ。


 それから一時間もしない間に、船からは沢山の乗組員がやってくる。


 もう往来するボートが見えなくなった。

 大雑把に数えて、ベルファルトが言っていた千人近くが、上陸を終えた。


 船に見張りは残しているだろうが、アーダーはほとんどの者を上陸させたようだ。


 当然、皆武装はしていないし、魔力を多く持つような者もいない。


 だが、不気味なぐらいに静かに、整然と埠頭に待機している。


 傷病人も皆治療が終わっており、その列に加わっている。

 奴隷だけは隅っこの方に追いやられているようだ。


 こちらも武装した魔物を、彼らを囲むように配置させている。


 するとアーダーが再び、ベルファルトを引き連れてやってきた。


 アーダーが何やら喋っているが、その前にベルファルトは俺に声を震わせて、こう言った。


「ひ、ヒール様……ごめんなさい。僕、一つ黙っていたことがあって」

「分かっている。この島が欲しいんだろう?」

「そ、それは間違いないでしょうが……そうでなくて、アーダーさんたちは、人間じゃないんです」

「耳を見て、そうだろうなっては分かっていたよ」

「ええ。でも、この人たちはただの人間に近い見た目の種族じゃないんです……彼ら、龍人は……」


 ベルファルトがそこまで言った時、アーダーが大きな笑い声をあげた。


 と同時に、アーダーの体が光に包まれる。


 その光が弾けると、そこにいたのは……


「ドラゴン!?」


 後ろから、そんな声が響いた。


 俺の前に現れたのは、小さめの翼を生やした、青白いドラゴンだった。


 四本足のドラゴンは、後ろ脚だけで立ち上がり、天に向かって大きな咆哮をあげる。


 すると、巨大な雷が彼の体に落ちた。


 ドラゴンは、俺をぎょろっと睨むと、得意げに何かを喋り始める。


 それをベルファルトがすぐに訳してくれた。


「見たか……これが我の本来の姿。一等龍騎士、アーダー・アーボーダー・ダーベルベンボルグ様の本当の姿だ」


 なるほど龍人という種族は、やはりドラゴンへと姿を変えられるのか。


 これならば、戦う時に武器も魔法もいらない……だから、彼らは何も持ち込まなかったのだろう。


 この前見たアースドラゴンのロイドンよりは小さい。

 クジラだっけな……ちょっとした漁船ぐらいの大きさはありそうだ。


「どうだ? 恐れおののいたか? 下等生物?」


 そう訊ねてくるアーダーだが、こちらとしてはドラゴンはもう見飽きているぐらいだ。

 なにより、最初にあったドラゴン……リヴァイアサンからすれば、あまりに小さい。


 そしてこれは想定済み。バリスが、少し前に俺に教えてくれたのだ。

 竜の羽の耳をもつ、人族の話を。神話にすぎないが、ドラゴンへと体を変えられる生物だと。

 この際、弱点も教えてもらったが……それは果たして本当かどうか。


 他の魔物たちも、俺と同じように落ち着いた反応であった。

 故に、アーダーは首を傾げる。


 だが、すぐにまたぺちゃくちゃと喋り、ベルファルトに訳させた。


「……我に降伏するなら、命だけは助けてやろう」

「ベルファルト。アーダーに一つ訊ねてくれ。聞けないと言ったら、と?」

「は、はい……」


 ベルファルトが問うと、アーダーは大声で笑い、何かを叫ぶ。


 すると、後方にいた龍人たちも、リンドブルムへと姿を変えた。彼らはゲラゲラと笑いながら、俺たちを見てくる。


 アーダーの言葉を、ベルファルトは伝えてきた。


「この島の者たちは皆、我等の今宵の糧となるだろうと……」

「そうか……」

「ヒール様、降伏して下さい。彼らは反抗的な奴隷を食べはしますが、基本的に従順な者は……」

「悪いが、それは断らせてもらう」

「え?」


 俺が手を上げると、彼らの周囲から、燃え盛る炎の玉が無数に放たれた。


 これは、リエナ、バリス、フーレが放ったファイアーだ。


 彼らの炎は、的確にリンドブルムの翼を焼いていく。


 それを見たアーダーは、まさかという顔をした。

 しかし、すぐに怒るように叫び、俺に向かって口から巨大な雷を放つ。


 同時に、他のリンドブルムも雷のブレスを周囲の魔物に撃ち始めた。


「ベルファルト、伏せていろ!」

「は、はい!」


 ベルファルトが伏せると同時に、俺の目前に雷が迫った。


 だが、俺はもちろん、シールドを展開できるゴーレムによって、雷のブレスは遮られてしまう。


 アーダーはまさかと、焦るような表情をした。


 しかし、それで引き下がるような男ではなかった。すぐに体を大きく回転させ、長い尾で俺を吹き飛ばそうとする。


「龍王国だかなんだか知らんが……見立てが甘かったな」


 俺はウィンドをアーダーに放った。

 すると、アーダーはまるで息を吹きかけた埃のように、海へと吹っ飛ばされる。


「え? ……え?」


 ベルファルトは目の前の光景に、眼鏡を付けては外して、海の方へ目を向ける。


 他のリンドブルムも、何が起きたか分からないような様子だ。


 しかし、彼らのプライドが許さないのだろう。困惑しながらも、また俺たちに攻撃を加えようとした。


 ……俺たちは戦いを望んでいない。

 だから、彼らを殺したくはない。


 だが、彼らは違う。

 今までも貿易船を襲い……いや、祖国でも同様に、暴力で全てを解決してきたのだろう。


 対話ができるのに、何故そうする必要があるのだろうか……俺は彼らの姿勢に、自分の兄弟を思い出す。


「こういうやつらは、一度痛い目を見てもらわないとな……」


 リエナたちの魔法の他に、火矢がリンドブルムに放たれた。

 それは彼らの翼を燃やしていく。


「うおおおおおお! ようやく戦だ!!」


 腕っぷしに自慢のあるエレヴァン、そしてアシュトン、ハイネスなどは、剣や斧で彼らに挑みにいくようだ。


 一方では、タランたちケイブスパイダーの蜘蛛糸でぐるぐる巻きにされるリンドブルムもいた。


 ちゃっかり、マッパもリンドブルムの頭を金づちで叩きに回っている。


 皆、ゴーレムが展開するシールドの魔法によって安全に戦えている。ちなみに、すみっこにいた奴隷たちはゴーレムに保護させた。


 皆に厳命したことだが、あくまでも殺しはしない。


 とはいえ、それは難しいこと……しかしバリスが言うには、彼らの弱点は耳であった。ドラゴンに変身した際は、翼なのだという。

 それを失った龍人はドラゴンに変身できなくなるという。

 普通のドラゴンが、いわゆる逆鱗という首の下の鱗が弱点だが、龍人は違うようだ。


 とはいえ、これは神話。それが本当かはどうか分からない。だから、最悪相手を死なせてしまっても仕方がないとは思っていた。


 相手も戦士なら、戦いで死ぬのは覚悟してるだろう……


 だが、バリスの話は当たっていた。


 翼を焼かれた彼らはその場でのたうち回り、皆人の姿へと戻っていく。

 彼らの誰もが、焼けた耳を手で押さえていた。

 

 ちょうど海から出てきたアーダーは、目の前の光景に言葉を失ったようだ。

 先ほどの威勢はどこへやら、一目散に船へと帰ろうとする。


 が、リンドブルム自体はそこまで飛行が得意じゃないのだろう。

 

 キラーバードよりもおそおそと飛んでいる。

 しかし、怯えた顔で振り返ってくる頻度だけは早いので、何とも間抜けだ。


 アーダーがちょうどこちらを見ていた時だった、彼の首は突如巨大な岩の手によって掴まれた。


 悲鳴を上げるアーダー。彼の小さいながらも美しい水かきのような翼は、ぽっきりと折れてしまう。


 恐る恐る、アーダーはその岩の手が伸びる方に顔を向けた。


 すると、そこには赤く目を光らせた巨大なマッパ……を模ったゴーレムが。


 アーダーはその場でビクンと体を震わせると、死んだ魚のように動かなくなるのであった。

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