八話 新しい機能が追加されました!!
【洞窟王】の機能である助言者の言葉に、俺は首を傾げる。
ら、ランク2?
≪ランク2にアップしたことで、新たな機能が追加されました≫
とにかく、【洞窟王】でできることが増えたようだ。
それで、新たな機能というのは……
≪工房機能を追加しました。インベントリ内の採掘物を加工、合成できます≫
本当か?! すると、鉄鉱石を普通の鉄にできたりする?
鉄に加工できれば……
もっと大きいピッケルを作ったり……
軽いピッケルを発明したり……
格好いいピッケルを生み出せる。
≪鉄鉱石を鉄に……製鉄と認識。製鉄が可能な工房ランクに達していません≫
なんだ……それじゃあ、何ができるんだ?
肩を落とす俺に、助言者は続ける。
≪……現時点で可能な加工と合成の品目を表示します≫
すると、俺の頭にそれらの品目が浮かんだ。
◇工房品目
石材
砂
大理石材
え? それだけ?
拍子抜けする俺だが、説明を聞くと、石材だけでも奥が深かった。
石材を作るためには、採掘物の岩を消費する。
その際、大きさや形を自分好みに指定できるらしい。
通常、インベントリの岩×1は、1㎏という単位の石材に相当するという。
例えばこれを2㎏の石材にして、更に大きなものをつくることもできるのだ。
形も、真四角から細長、球や円柱など様々な形を選べた。
自分の頭に思い描いた、複雑な形も作成可能だ。
つまり、石像やおしゃれな柱なども作れる。
とはいえ、俺のセンスでは大したものは作れそうもないが……
まあ、とにかくだ。
これならもう、何かを作る時に不揃いの岩を慎重に積み上げる必要もなくなる。
大理石材も、石材同様に自由なものを作れる。
また、砂も岩からつくれた。
だが、石灰岩や鉄を消費して色や手触りを変えることもできるらしい。
加えて、この作った石と砂を合成することで、砂利を作れるという。
石材と砂かと、最初はつまらなく思った。
しかし、工夫次第では島の面積を拡げることだってできる。
そもそも、加工に人手が要らないということが、何よりの強みだろう。
ただ岩を四角にするだけならまだしも、柱にするのは結構な時間が掛かるはずだ。
そして助言者は、もう一つの機能を説明する。
≪また、彫刻機能を追加しました。採掘の際、自由な形に成形できます≫
今、採掘した後の場所は、ごつごつとしている。
だが、これを使えば、壁や地面を平坦にできる。
もちろん、意図的に傾斜をつけることもできるだろうし、階段にすることも可能だ。
つまり、上陸の難しいこの島の岩場も綺麗にでき……
≪【洞窟王】による機能、効果付与は、現在は洞窟内のみでしか発動しません。工房機能、及びインベントリからの取り出しは、洞窟外でも可能です≫
そうですか……まあ、十分でしょ。
砂を撒いて、なだらかにしたっていい。
いずれにせよ、これらの機能も加わったことだ。
ちょっと島の改造計画を練ってみるか。
……っと、その前にこいつらのことを忘れてたな。
新たにテイムした蜘蛛の魔物たちが、じっとこちらを見ている。
「ああ、悪い悪い。俺はヒールっていうんだ。とりあえず、俺は地上に戻るよ。もしよかったら皆にも紹介するから、付いてきてくれ」
って、通じるわけないか……
まあ興味が湧いたら、勝手に出てくるだろう。
テイムスキルは、従魔がテイマーへ危害を加えようとするのを禁止する。
また、同じテイマーの従魔同士が互いを傷つけることはない。
命令に従うか従わないかはテイマーと従魔の関係次第だが、この二つはスキルが強制していることだ。
だから、この蜘蛛がゴブリンやスライムを攻撃することは不可能。
現に、スライムのシエルは、蜘蛛の頭に乗ったりして戯れている。
蜘蛛も、そんなシエルの柔らかい体を長い前脚で軽くつつくだけだ。
テイムスキルの制約ということ以上に、互いに興味があるらしい。
俺は元来た道を戻る。
元々一掘りのつもりだったし、ランクとやらがアップしたから今日はもういいだろう。
空洞を出て振り返ると、そこにはとことこと付いてくる蜘蛛たちが。
どうやら一緒に来るらしい。
だが、この坂道。
子はまだしも、親は狭そうである。
「あー……ちょっと、待っててくれ」
俺はさっそく新しい彫刻機能を試すことにした。
ピッケルで坂を少し掘り下げ、道を広くしながら登っていく。
その際に、中央を階段状、脇をなだらかな斜面にしながら。
これで蜘蛛も通れるし、俺も少しは歩きやすくなるな。
そうして入り口に着くと、まだゴブリンたちが輝石を囲んでいた。
「おお、大将! 徐々に近くなる、ピッケルの心地よい音色が聞こえましたぜ! 俺もやっぱり一掘り行こうかと思ったところです」
エレヴァンがにっこりと俺に振り向く。
だがすぐに、その顔は恐怖へと変わった。
「え……え? うっ、うわあああああああああっ!?!?」
エレヴァンだけじゃない、リエナやバリスも怯えている。
あ、後ろのやつか……
振り返れば、赤く光る眼がいくつもあった。
言うまでもなく、タランたち蜘蛛の目だ。
「た、大将っ!! 後ろ! 後ろ!!!」
「落ち着け、エレヴァン。こいつらは、今しがた俺の仲間になったやつらだ」
「な、仲間っ?! こいつらがですかい?」
「ああ。掘った先に空洞があってな。そこにいたんで、仲間にしたんだ」
「そ、そうでしたか……すみません、俺、蜘蛛が苦手で」
ほっとエレヴァンは胸を撫で下ろす。
リエナとバリスも、なんだと安心した様子だ。
一方のスライムたちは、タランの頭に乗ったシエルの真似をしようと、蜘蛛たちに向かっていた。
そんな中、バリスが不思議そうに呟く。
「……それにしたって、驚きましたぞ。彼らはケイブスパイダーかと思いますが、まさかここまで大きな者たちがおるとは」
「とすると、大陸のケイブスパイダーはもっと小さいってことか?」
「いかにも。普通はワシとそう変わらぬ高さです」
バリスが言うには、俺の腰ほどの高さが、普通なのだそうだ。
それでも大きいと思うけどね……
「俺はケイブスパイダー自体、今日初めて見たからなあ。確か、洞窟や廃坑にでる魔物だったっけ」
「ええ。非常に凶暴で強力な毒をもっています。吐き出す糸は鉄よりもかたく、よく伸びると言われておりますな。我々ゴブリンもよく洞窟を隠れ家にしましたが、彼らに殺された人間や魔物の骨はよく見ました」
「へえ……」
結構怖い奴じゃないか。
しかし、タランたちは普通より大きいのに、随分と簡単に俺に従ったな……
「ゴブリンの間では、洞窟の奥に土があったら気を付けろとよく言われております。その土は実はケイブスパイダーの……その……」
バリスは知恵者だから、言葉を選ぼうとしてるのだ。
土の正体は、この蜘蛛たちが排出したものなのだろう……
「だいたいわかるよ……空洞の下は一面、それだったからな」
まあ、匂いもないし、実際本当の土みたいだった。
蜘蛛の出したものだし、あまり気にしなくてもいいだろう。
バリスは頷く。
「そうでしたか……ですが、それは朗報ですね」
「え?」
「彼らのそれは、地上の土よりも良く作物が育つと言われております。太陽が無くても小麦が育つなどと言われているぐらいです。さらに蜘蛛糸を混ぜ込んでおるので水が抜けにくく、砂漠でも育つとか」
「ほう。でも、なんでわざわざ蜘蛛糸を混ぜるんだろうな?」
「ケイブスパイダーはキノコを自分で栽培するのですよ。人間や魔物の肉も食べますが、主食はきのこです」
人の肉も食べるか……
リエナは挨拶がてらに、お腹空いてませんかと焼き魚をタランに差し出している。
するとタランは遠慮することもなく、一瞬で焼き魚を口の触角で掴み取った。
それを見たタランの子供たちも、リエナに群がり魚を求める。
リエナは少し怯えるが、すぐにあたふたと新たな焼き魚を用意しに行った。
キノコがあれば生きていける。
だが、肉や魚は嫌いじゃないということか。
「なるほど……だから、あんな隔絶された中でも、あいつらは生きてこれたんだな」
そしてバリスが朗報と言ったのは、この島でそんな土が手に入るということだ。
前も言ったが、この島は岩がむき出しの島。
土がないので、植物も生えない。
そこに少量とはいえ、質の良い土が手に入ったのだ。
種子があれば、何かを育てることもできるだろう。
まあ、その肝心の種子が、果物のものぐらいしかないのだが……
だいたいの果物は木が育つまで数年、収穫を待つ必要が有る。
「とりあえずは簡単な畑を作ってみるか……あ、土地もセットで広げてないと……」
新たな機能とケイブスパイダーのおかげで、やれることが一気に増えたな。
蜘蛛糸も上手く加工すれば、繊維が作れるはずだ。
そこから、服や魚網も作れるかもしれない。
とにかく採掘したいが本音だが、共同生活である以上、皆のことも考えないと。
まあ、とにかく今は……
「とりあえず、歓迎会だな。狭い島だし、皆で仲良くしようぜ。 ……リエナ、手伝うよ!」
俺は魚を取って、リエナと一緒に焼き魚を作り、ケイブスパイダーたちと交流を深めるのであった。