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七十八話 人間と話しました!!

「ヒール殿、お待ちしておりました!」


 バリスと共に埋立地の塔に着くと、そこには鎧を身につけたアシュトンがいた。


 いつも一緒の弟のハイネスはここにはない。どうやら船が浮かぶほうに、武装した魔物たちと共に向かっているようだ。

 

 その先頭には、エレヴァンが斧を持って駆けている。


「アシュトン。状況は……あっ」


 三隻の船のほうを見ると、すでに小舟が何ていもこちらに向かってきていた。

 

 望遠鏡がなければ詳しくは分からないが、三隻の船はどれも大きく立派な船だ。

 

 あれはキャラック船といったか……王国では少し古い形とされる、ずんぐりとした帆船だ。


 黄地に黒い竜の旗……見たことがないな。少なくとも、王国やバーレオン大陸の船ではないだろう。


 かといって、海賊の類でもなさそうだ。

 

 各ボートに同じ旗を立てているし、整然と横並びで進んでいる。

 乗員は、軍隊とかの訓練された者たちである可能性が高い。


 だからこそエレヴァンとハイネスも、埠頭で迎え撃とうとしてるのだろう。


 バリスがアシュトンに訊ねた。


「アシュトン殿。迎撃をするということは、将軍が彼らを危険であると?」

「はっ。鎧で武装した兵を乗せているようです。こちらを」


 アシュトンは、俺とバリスに望遠鏡を差し出した。


「ありがとう、アシュトン。どれどれ……」


 俺は早速、望遠鏡でボートを覗く。


 見慣れない羽飾りのついた兜と軽そうな鎧。武器はハルバードと弓か。


 そして肝心の種族は……恐らく人間だろう。


「人間、の軍隊かもしれないな」

「いかがしますか? すでにバリスタや投石機の射程範囲です」


 アシュトンの手には小さな旗が握られている。各塔の兵器はすでに戦闘準備が調っているようだ。


「向こうもあの大きさの船なら、同じような兵器は積んでいるはずだ。それでわざわざボートでやってくるのは、少し考えづらい。それに……」

「それに……?」


 中央にボートに、白旗を振っている小柄な男がいる。


 はっきりとは見えないが、白いシャツを着て、眼鏡をかけており、青い髪をしているのは分かった。

 

 とても聞き取れないが、なにやら声を振り絞っているようだ。


「まずは、話ができそうだからな」


 俺はすぐさま、埠頭へと向かうのであった。


 埠頭に着くと、エレヴァンが斧を持って叫んでいた。


「勝手に上陸するのは許さねえ! 用があるなら、あたまだけ来い!!」


 しかし、ボートが動きを止める気配はない。


 これを見たエレヴァンとハイネスは互いに頷き、周囲の魔物に合図を送った。


 ゴブリンやオーク、コボルトがクロスボウを構える。


「待ってくれ、エレヴァン」


 エレヴァンは俺に振り返る。


「大将! しかし、やつら止まる気配が」

「言葉が通じてない可能性もある。あっちも矢を撃ってきてもおかしくない距離だ。それに……あの男を見てくれ」


 俺の少し年下ぐらいの眼鏡の少年が、周りのボートに何かを呼び掛けている。


 すると、その声に応じるように、周りのボートが次々と動きを止めていった。


 そして眼鏡の少年が乗ったボートだけが、こちらに向かってくる。


 少年の他に乗っているのは、他の者よりも立派な羽飾りをつけた隊長のような男と、兵士が数名。あとは半裸の漕ぎ手が十名だ。


 半裸といっても、マッパのように好き好んでそうしてるというわけではなさそうだ。人間だけでなく魔物もいるようで、体の傷を見るに奴隷なのかもしれない。


 ボートが埠頭に接岸すると、口髭を生やした隊長のような男を先頭にずかずかとこちらにやってくる。


 彼の目は、俺ではなくエレヴァンに向かっている。


 まあ今のエレヴァンはミスリル製の鎧に身を包んでいるし、この中じゃ一番体も大きい。リーダーのように見られるのは無理もないだろう。


 隊長のような男はエレヴァンの前に立つと、聞いたこともない言葉で何かを喋り始めた。


 すると、隣にいた眼鏡の少年が口を開く。


「ああ、ええっと……我は天籟てんらい鳴りやまぬベーダー龍王国ディアンボルグ三世龍王陛下の勅命を受けた一等龍騎士、アーダー・アーボーダー・ダーベルベンボルグである!」


 ベーダー龍王国……聞いたことのない国だな。


 恐らくは別の大陸にある国なのだろう。

 船も旧式だし、最近海にでてきたのかもしれない。


 よく見ると、隊長のような男アーダーの耳は、人間とは異なる。

 ドラゴンを思わせる水かきのような耳だ。


 兵士も皆、そのような耳をしている。


 耳以外は人間と変わらない外見に見える彼らだが、人間ではないのだろうか。


 一方で、少年と魔物でないボートの漕ぎ手の者は、皆人間のような耳であった。

 少年もまた、漕ぎ手同様、奴隷なのかもしれない。 


 エレヴァンはぎょろっとアーダーを睨んでから、小柄な男に怒声を浴びせた。


「あーだの、だーだの知らんが、この島の主はこのヒール様だ!! 俺じゃねえ!」

「ひ、ひいっ!」


 エレヴァンが俺に斧を向けると、少年がすぐに俺へお辞儀をした。


「これは失礼しました! ヒール様!」


 眼鏡の少年だけはぺこぺこと俺とエレヴァンに頭を下げると、すぐにアーダーに何かを伝えた。


 アーダーはそれを聞くと、俺を見て馬鹿にするように笑った。


 こんな小僧が? といったところだろうか。

 いや、俺の手元のピッケルが領主らしからぬように見せているのかも……

 

 アーダーは更に偉そうな口調で、何かを続けた。


 少年はすぐにそれを訳す。


「命惜しくば、我等の言うことを聞く……」

「あぁっ?」


 エレヴァンが威圧するように睨むと、少年はあわてて言い直す。


「あ、いや我等のお願いを聞くなら……そのええっと……」

「ああ!? はっきり、言いやがれ!」


 エレヴァンが怒鳴ると、アーダーも何やら激高した様子で少年を責めている。


 見た感じ、アーダーは俺たちに何かを要求するつもりなのだろう。


 少年はエレヴァンを恐れて、それを正直に訳せないようだ。


「まあまあ、エレヴァン」


 俺はエレヴァンの肩を叩いて、少年の前に立つ。


「俺はヒール。君は?」

「え? あ、僕はベルファルトです……」

「ベルファルトか。話を単純にしよう。君たちはこの島の何が欲しいんだ?」

「え、えっと……アーダー様は龍王の命でバーレオン大陸沿岸の地図を作製していたのですが、実は一週間前、サンファレス王国の海軍に襲われて、五隻の船を失ったんです。それで水も食糧も多く失ってしまって……」

「なるほど。補給ができなかったわけだな」


 眼鏡の少年ベルファルトはうんと頷く。


「はい……あの、負けたばかりといって、こんなことを言うのも変ですが、この人たち結構強いんで、素直に命令に従った方がいいか」

「ああ!? 誰が命令だとぉ!?」


 エレヴァンの声に、ベルファルトは「ひいっ」と怯える。


「エレヴァン! ……つまりは、食料と水が欲しいんだろ? それなら分けるよ」

「ほ、本当ですか! あ、でもそれだけじゃなくて……」

「まだあるのか?」

「はい。先の戦いで傷病人が多く、この島で治療させたいのだそうです」

「なるほど。船の上じゃ満足に治療できないもんな……」


 俺はバリスの顔を見た。


 治療のため受け入れてもいいだろうか、と。


 バリスは難しい顔をしながらも、うんと頷いてくれた。


「いいだろう。こっちには回復魔法を使えるのも多い。武装してなければ、傷病人は迎え入れてもいいぞ」

「あ、ありがとうございます! 今、アーダーさんに伝えます!」


 ベルファルトは嬉しそうに、アーダーへ声を掛けた。


 エレヴァンは不安そうな顔で、俺に訊ねる。


「た、大将……いいんですかい?」

「困っている人を見捨てるわけにはいかない……それに彼らは、王国とは関係が薄いようだ。ここで友好的な関係を築いとくのもいいだろう」

「そりゃあ、そうですけど……」


 不安に思うのも無理はない……俺も、不安だ。


 このアーダーという男、先程から島を値踏みするように見回している。


 興味をひいているのは世界樹と、巨大なマッパ像……それに魔物たちの豪華な装備のようだ。


 皆の装飾品には、宝石や金銀も多い……俺たちにはありふれたものも、この男の目には巨万の富に映っているのかもしれない。


 負けたばかり……そんな状態で、戦おうとは思わないと思うが。


 アーダーはベルファルトにうんと頷くと、仰々しく俺に手を差し出した。


 握手、を求めてるのだろうか。


 俺がその手を握ると、アーダーはそっけなく俺の手を離し、ボートに戻っていった。


 なんとなくだが……人間が魔物を見るような、そんな目をしていたな。


 彼らは人間ではなく、そして人間を蔑んでいるのかもしれない。


 ベルファルトは俺に言う。


「ヒールさん! ありがとうございます! すぐに傷病人を連れてきますので!」

「分かった。こっちも色々と準備を整えておくよ」

「ありがとうございます! 僕もすぐに戻りますので!」


 そう言って、ベルファルトは忙しそうにアーダーのボートに戻っていくのであった。



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