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七十六話 読めませんでした!!

「マッパ!」


 鼻血を吹き出しながら後ろ向きに倒れるマッパ。

 しかし、シエルがクッションとなってその頭を受け止める。


「シエル、ありがとう……いつも、悪いな」


 シエルは気にするなと、体を横に揺らした。


「しかし、どうしてこいつはいつも先走る真似をするかな……そもそもフーレと一緒に地上に戻ったんじゃ」


 リルにも驚いたが、マッパも負けず劣らず何かを嗅ぎつけてくる。


「私もそう思ったのですが……あ、私が回復魔法を掛けますね」


 リエナはマッパに回復魔法を掛けてあげた。


 息も魔力の反応もある。

 リエナも魔法の腕を上げてるし、心配ないだろう。


「それにしても出血させる本なんて……どんな危険な本なんだ?」


 俺はシールドを張り、本を手に取った。


 しかし、シエルが体を伸ばして俺を止めようとする。


「大丈夫だって。シールドは掛けてあるし……っあ」


 俺が開くと、本には下着の女性……マッパと同じような等身の女性が映っていた。

 ……とても絵とは思えない。まるで目に映ったものをそのまま張り付けたような感じの女性が写っている。


 沈黙する俺に、リエナが声をかけてきた。


「ヒール様、いったい何が?」

「……これは見ちゃいけないやつだ。リエナも見ない方がいい」


 俺はすぐにバタンと本を閉じた。

 

 リエナは少し気になるようだが、「わかりました」と頷いてくれた。


「シエル……子供には見せちゃいけない本がある場所は、あとでバリスに伝えておいてくれるか?」


 シエルはうんと体を縦に振る。

 

 これは子供には刺激が強すぎるからな……まあ、皆同族以外の下着姿なんて恥ずかしくも思わないだろうが。


 しかし、どうしてマッパはこの本をすぐに見つけたのだろうか。


 スケベなのは皆の話からもよく分かるが……

 今回に限っては本の背表紙になる文字……題が読めたからに違いない。


 つまりマッパは俺たちの知らない文字を知っていることになる。

 

 改めて俺は本棚に目を移してみた。

 

 マッパが読んだこのいかがわしい本とは、また別の文字のものが見える。

 単に書いてある言葉が違うだけと思ったが、絵のような文字もあることから別種の文字の可能性が高い。


 つまりは色々な文字の本がここにはあるのだろう。


「シエルは、ここのを全部読めるのか?」


 するとシエルは体を横に揺らした。


 なるほど、やはりシエルでも読めない文字があるのだろう。


「どれだけの文字があるか……これはバリスでも大変だな」

「ふふ。バリスもこれではまだまだ死ねないと、喜びそうですね。……そういえば、リルちゃんとメルちゃんは」

「そうだ。目的のものは見つかったのかな?」


 俺たちがきょろきょろとあたり探していると、二人がある一冊の本を仲良くこちらに運んでいるのが見えた。


 リルとメルは俺の前で本を置いて、おうと手を上げてみた。


「ふたりとも、これは?」


 俺が問うとリルは先ほどと同様、自分とメルを指さしてから、俺を指示した。


「ううむ……分からない。リエナ、分かるか?」

「二人がヒール様に……なるほど、話せるようになりたいと」


 リエナの声にリルは少し考えて、自信なさげに頷いた。


 間違ってはいないってことだろうか。 


「とすると、これは言葉が使えるようになる魔法でも書かれているのかな?」


 だが、シエルは少し考えたように止ると、違うと言わんばかりに体を揺らす。


「違うのか……じゃあ、使わないほうがいいのか?」


 聞くと、シエルはそれは大丈夫と小さく手みたいなのを出して振ってみた。


「そっか、とりあえず開いてみるかな」


 俺は早速本を開いてみた。


 が、見たことのない文字がぎっしりで何だかよく分からない。


「なんだこれ……学術書の類かな。おっと」


 俺は途中、絵が描かれていたので目を止める。


 先程同様、本物と見まがうほどの人間が描かれている。

 そしてその人間から矢印が伸びて、鳥のような生き物を指示していた。


「人間が……鳥に? お、次は馬か。と、その次はスライムが人間に……これってまさか」


 シエルは答え合わせをするように、俺の前でぼんっと煙を出した。


 すると、そこには以前目にした金髪の美女……人間の姿をしたシエルがいた……が、すぐにまたスライムに戻ってしまう。


「今のは変身!?」


 リエナが驚くのを聞いて、シエルはうんと頷く様な仕草を見せる。


 なるほど、これは変身の魔法……その魔導書か。


「もしかして、リルとメルは俺みたいに人間になりたいのか?」


 二人は元気な鳴き声で頷いた。


「そうか……昇魔石じゃ駄目なのか?」


 俺が言うと、二人は今の姿で動き回ってみる。


 なるほど、四本足で走ったり飛ぶのも好きってことか。だから、今の姿も捨てがたいと。


 昇魔石なら二つの種族の形態を持つように進化……なんてこともできそうではあるが。


「まあ、魔法の練習にもなるか。二人とも、これを使って魔法の練習だな……と言いたいところだけど、誰が読み聞かせるんだ……?」


 二人はこの本を読めないだろうし、俺を含め誰も読めないだろう。


 リルは少しの間ぽかんと口を開けると、何かを思い出したように頭を抱えた。


 まるで「そうだった!」と言わんばかりだ。


 メルはそんなリルをよしよしと撫でる。


「まあ……この図書館が発見できただけでも大したものだ。次は、文字が読めるようになるものを探せばいい。シエル、文字を解読するような石とか道具とか、あると思うか?」


 シエルはそれならと、下を指さすように体を伸ばした。


 図書館の下……ではない。方角的に制御装置のほうだ。


「制御装置にあるってことか?」

 

 俺が訊ねると、シエルはうんうんと体を揺らした。


「……ともかく、制御装置まで行かなきゃってことか。とりあえずこの図書館をどうするかバリスと協議しよう。リル、そういうことだから、しばらくこの魔導書を読めるようにするのは待ってくれるか?」


 リルもメルも、俺に頷いてくれた。


 それを見て、リエナはふふっと笑う。


「とにかく皆、お昼にしましょう。せっかくのご飯が冷めてしまいます」

「そうだな……じゃあ、皆戻ろう!」


 俺たちは一度、地上へ戻ることにするのであった。

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