七十五話 巨大な図書館でした!
「ここは……図書館?」
俺は壁一面に本が挿しこまれた空間を見て呟く。
だが、随分と大きい。
一番奥に行くのに三分はかかりそうだ。
それに何だか天井が……
俺は天井を見上げながら進んでいく。
だが、途中から天井は途切れ、更に高い場所へと開けていた。
「まさか……吹き抜け?」
すると、後ろから何者かにズボンの裾を引っ張られる。
振り返ると、シエルが何かを伝えようとしていた。
「えっと……下に気をつけろ……おっと」
前方に手すりがあった。
そしてそこから下を覗くと、真っ暗闇がどこまでも広がっていたのだ。
同様に、本が挿しこまれたスペースが何層にも下へと伸びている。
「……お、落ちたら戻ってこれそうもないな……」
俺は高い場所が苦手だ。
まさか地下で、こんな思いをするとは……
改めて顔を上げると、やはり壁一面本が挿しこまれた場所が何層にも積み重なっている。
天井部分は以前見つけた墓地と同様、天窓の向こうに本当の空があるように見えた。
「すごい場所だ……」
俺たちが掘って出てきた場所は、たまたまなのかリルが狙ったのかは知らないが、本棚ではなかった。
周囲の装飾を見るに、もともと入り口だったのかもしれない。
リルとメルはこの階の一番奥側へ、競争するように回廊を進んでいく。
そういえば二人は、何か目当てのものがあったんだっけ。
魔力の反応もないし、まあ大丈夫だろう。
それでも一応、俺はシールドを彼らに展開しておく。
「これで大丈夫……シエルはここを知ってるか?」
シエルは俺の声に体を縦に振った。
「そうか……一体何冊あるんだろうな……」
しかし、まさか本が手に入るとは思わなかった。
この地下に眠る文明の技術とか書かれてそうだし、上手く使えば色々と……
「あ、でも俺たちが読める文字じゃ書かれてないか……」
俺が呟くと、シエルはうんと頷く仕草をした。
だが、少し考えたように体をくねらせると、ずるずると体を這わせていく。
「どうした、シエル?」
シエルは体からちょこんと手を出して、手招きした。
「お。俺でも読めるものがあるってことか?」
俺はシエルのあとを付いていく。
すると、シエルはある部分を見つけ、そこで足を止めた。
そして一帯にある本を指さす。
「ここのなら読めるってことか」
俺はそこから一冊を手に取った。
本というには少し薄い。指二本分の太さしかない。
俺はそれを早速開いてみる。
すると、そこには本物と見まがうほどの、街並みの絵が。
奥に山が見えて、そこから川が流れて……その流域に立派な城壁を持った街が見える。
家の形や屋根は違うが、たしかにそこが生き物の街であることは分かった。
また、その絵を補足するように文字が描かれていた。
だが、当然文字は読めない。
俺はまたページをめくる。
すると、そこにはこれまた本物のような絵が描かれていた。
今度は料理の絵のようだ。先程の地図の一部分に寄ったような絵も描かれている。
何冊かめくってみると、どれも料理とその説明のようなページだった。
「これは……この街の料理を紹介してるのかな?」
シエルはうんと体を縦に振る。
「なるほど。文字は分からなくても、絵ならなんとなく分かる……他にもなんかあるか?」
悩むような顔をするシエル。
すると、後ろから声が掛かった。
「ヒール様! 一体、ここは?」
振り返ると、そこにはリエナがいた。
「ああ、リエナ。ここは多分……図書館だな」
俺が言うと、リエナは少し首を傾げた。
「図書……館ですか? 本の貯蔵庫のようなものですか?」
リエナの故郷には、図書館というものは存在しなかったのだろう。
「簡単にいえば、そうなるな」
「本の貯蔵庫……本当にこの地下にはいろいろなものがあるのですね。きれいな場所……」
リエナは図書館の上下を見て、思わず声をあげた。
「そういえば、リエナはどうしてここへ?」
「ええ。ついさっき、訓練場でフーレから掘ってはいけない場所を掘ってる者がいると聞きまして。私も決まりを破る者を注意しに来た次第です」
俺は甘いから、とフーレは思ったのかもな……
「それなんだが……実はリルとメルが掘ってたんだ」
「あの二人がですか?」
リエナは驚いたように言った。
「ああ。俺も驚いたよ。物覚えは早いって思ってたが、こんな場所を見つけるなんて」
「……もしや、二人とも何かしら紋章を持っているのかもしれませんね」
「紋章? そういえば、二人の紋章を調べてなかったな」
一部の魔物は人間同様紋章を持って生まれてくる。
メルはなんという魔物か分からないので、紋章を持ってるかは分からない。
だが、アシュトンやハイネスが紋章を持っていることからも、コボルトであるリルも何かしら紋章を持っているはずだ。
「バリスに調べさせてみましょう。彼はゴブリンの赤子の紋章を調べてましたから」
「そうか。ここの本のこともバリスに伝えておこう。文字は分からないかもしれないが、バリスなら絵から何かしらの情報を得られるかもしれない」
「それがいいでしょう。しかし、バリスでもここまでの本を見れるか……本人は喜ぶでしょうが」
「バリスならたしかに喜びそうだな。せっかくだし、俺たちも少し見ていこうか? シエルが言うには、ここら辺は絵が付いてるみたいだし」
「なるほど。それでは読ませていただきましょう。あっ……」
リエナは俺の後ろに目を留めた。
振り返ると、そこにはマッパが。
彼もまた、本棚をにやにやと見ている。
「マッパも来たか。うん?」
俺はシエルがマッパのもとに急いで駆け寄るのを目にする。
何かを止めようとしているのだろうか?
だが、シエルは間に合わなかった。
マッパは一冊の本を取ると、ニヤニヤとそれを開いた。
すると本を見た瞬間、マッパは鼻血を吹き出し、その場で倒れてしまうのであった。
「マッパ!? おい、マッパ!?」
俺たちはすぐさま、マッパのもとに駆け寄るのであった。