七十四話 赤ちゃんにお願いされました!!
ピッケルを振っていると、後ろから鈴の音が響いた。
ミスリルゴーレムに持たせた鈴で、お昼になると鳴らすよう頼んでいたものだ。
俺は両隣のフーレとタランと共に採掘を中断する。
「二人ともお疲れ。しかし、もうお昼か。ついさっき掘り始めた気がしたんだが」
「なんか、時間の感覚が鈍るよね。ずっと同じことの繰り返しだし」
「ああ……あの訓練場にした場所を見つけてから、ずっとなんの発見もないもんな」
掘れる鉱石もずっと変わらず。
デビルホッパーが島に襲来してから二日が経った。
途中冷凍庫の拡張などをしていたが、すでに半日ほどは掘っている。
そろそろ何か発見があってもいいはずだが……
「……とりあえずはご飯だな」
俺たちは鉄道に乗って、地上へ帰ることにした。
だが、その道中に見慣れぬ穴があることに気が付く。
「……こんなところ掘ったかな? 止めてくれ」
俺の声に運転士であるゴブリンは、鉄の馬車を停める。
降りて穴を覗くも何も見えないが、遠くの方から微かにカンカンという音が響いている。
「うん? 誰かが掘っている?」
その証拠に、穴の向こうから岩を持ったスライムがやってくる。
俺に回収させるために採掘物を運び出しているのだろう。
「でも、誰が? 私たち以外が掘っていい深さじゃないけど……」
フーレの言う通り、安全のため制御装置を見つけるまでは、俺たち以外が採掘できる場所を制限している。
具体的には訓練場より上の、浅い場所しか掘ってはいけないのだ。
一方でここは訓練場よりも深い場所なので、掘ってはいけない場所にあたる。
つまり決まりを破っている者がいることになるのだ。
「確かに……ちょっと様子を見てくる。何か事情があるんだろうし。皆は先戻っていてくれ」
「いいの?」
「ああ。事情だけ聞いて、すぐ帰るよ。もしもの連絡係として、シエルだけ付いてきてくれればいい」
「了解。でも、ちゃんと厳しく言わなきゃ駄目だよ? 決まりは決まりなんだから」
フーレやタラン、マッパたちは俺より一足先に地上へ戻っていった。
「じゃあ、シエル行こうか?」
シエルはうんと体を縦に振る。
俺は穴を進み始めた。
スライムたちが岩を運び出しているということは、採掘者が島の住民であることは間違いない。
すぐに魔力探知で、採掘者がたいした魔力の持ち主でないことも分かったし。
魔力の形からすると……大人が一人と、子供が二人? いや、子供というにはもっと小さい……彼らは……
近づくと、ピッケルを振っている者の正体が分かった。
リルとメルだ。
そしてその彼らを見守るように立っていた人型ゴーレムが振り返る。
こいつは魔導石を埋め込みシールドを使えるようにしたゴーレム。二人を守ってくれているようだ。
「三十一号……だな。ありがとう。……リル、メル。俺と一緒じゃないと掘っちゃいけないって言っただろ?」
その声に、リルとメルはピッケルを置いて振り返った。
というかメルもピッケル振れたのか……翼で巧みにつかんで、それで掘っていたようだ。
リル同様、小さめのミスリル製ピッケルを持っている。マッパが作ったのだろう。
二人は俺の声に、すぐに頭を下げる。
「いや、二人でも十分掘れるならそれでいいけど……もっと高い場所で頼むよ」
この二人にはどこが採掘禁止かを伝えていなかった。
同様にゴーレムにもそう言ってなかったので、誰も止めなかったのだろう。
まあリルが掘っている方向に魔力の反応はないため、魔力探知ができるこのゴーレムも危険なしと判断したのかもしれない。
「とにかく、二人ともまずはお昼ご飯にしよう」
しかしリルは「ワン!」と吠えて、掘っていた場所の向こうを指さした。
「うん? その向こうに何か埋まっているのか?」
「ワン! ワン!」
リルはうんうんと頷く。
「リル……お前も採掘にはまったようだな……俺は嬉しいよ。でも、ごはんが先だ」
そうしないと、俺がリエナに怒られてしまう。
だが、リルはどうしてもと目をうるうるとさせて、俺を見上げる。
「参ったな……というより、どうしてここを掘りたいんだ?」
リルは自分とメルを指さしてから俺を指さした。
が、いまいちどういうことか分からない……リルとメルが、俺に何かをしたいようだが。
そういえば、以前メルが生まれた卵があった場所……鳥の骨が埋まっていた場所を見つけたのは、リルであった。
リルは何か匂いを嗅ぎつけたように立ち止まり、俺に鳥の骨がある場所を指示したのだ。
とすると、今回もリルは何かを見つけた可能性がある。
俺からすると魔力の反応はないし、特段何か匂うわけでもないので、何も分からないが。
まあ、リルがそこまで言うなら、俺も少しぐらい……
「……すぐに掘れそうか?」
「ワン!」
リルは即答した。
俺は念のため、シエルに顔を向ける。
何か知っているかもしれない……
シエルは少し迷ったように体を震わせたが、やがてうんと頷いた。
掘っても大丈夫という合図らしい。
「よし、掘ろう」
俺はピッケルを振り上げ、リルの指示した岩壁に打ち付けた。
すると、隙間からまばゆい光が漏れる。
岩が崩れると、その前に広がっていたのは……
「……ここは?」
目の前に広がっていたのは、巨大な円形の空間……壁一面に本が挿しこまれた場所であった。