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七十三話 自然に助けられました!

 マッパゴーレムの放った火炎がデビルホッパーの大群にぶつかると、大きな爆発音が響いた。


 と同時に、俺も声を張り上げる。


「皆、攻撃開始だ!」


 俺の声で、皆諸々の戦闘準備を始めた。


 デビルホッパーがこちらに来るまで、まだそれなりの距離がある。

 なので、皆を守るシールドを張るのはもう少し後で良い。


 とすれば、俺もまずは全力で魔法を打ち込むとしよう…… 


 俺は手を真暗になった空へ向け、狙いを定めようとする。


 だが、こうも広範囲にいるとどこを狙えばいいか分からない。

 空一面がデビルホッパーの大群なのだ。


 いや、今は迷ってられない。少しでも多くの攻撃を加えるのみだ。


 俺は火属性の魔法ファイアーを空に向かい放った。


 極大の火炎がぼうぼうと放射状に広がり、デビルホッパーに迫る。


 俺自身も驚いたことだが、自分の視界いっぱいに炎は広がるのであった。


 炎はやがて空一面の閃光に変わった。

 それに少し遅れて、島を揺らすような轟音と爆風が俺たちを包んだ。


「やったぜ! さすが、大将!」


 強風の中、エレヴァンがそう叫んだ。


 が、光が収まり、煙と灰が落ち着いた先には、いまだ空を覆うデビルホッパーが。


「嘘だろ!? 今の魔法でも駄目だと!?」


 エレヴァンは唖然とした顔で、頭を抱える。


 何匹倒したかは分からない。

 だが、これはちょっとやそっとじゃどうにもならないな……


「俺はもう一発魔法を撃ってから、皆にシールドを展開する! なるべく皆、塔から離れるな!」


 俺は塔の外で矢やクロスボウを構える魔物たちにそう告げた。


 そんな時、リエナが口を開いた。


「ヒール様。私に一つ案が」

「なんだ、リエナ?」

「ヒール様と私が水魔法をあのデビルホッパーに降らせます! そこにバリスは雷魔法を打ち込んでください」


 リエナの提案に、すぐにバリスはぴんときたようだ。


「なるほど、魚を獲る時と同じ要領ですな」

「ああ、水中だと雷属性の魔法の範囲と威力が高まる……」


 俺も頷いて、そう答えた。

 

 良い発想だが、問題はそんな水を降らせるかということだ……

 海水を操り、彼らを包んでみるか? 降らせるよりも、難しいか……


 いや、今は少しでも試せることは試してみるべきだ。


「……よし、一度その案でいこう。リエナ、いくぞ」

「はい!」


 リエナは俺の隣に横並びになり、一緒に手を空に向ける。


「……せーのっ!」


 俺たちは空の一番高い場所めがけ、共に水を放った。


 デビルホッパーを正面に俺は右側、リエナは左側に水を打ち出す。

 まるで植物に水やりをするかのように。


 だが、俺の水魔法はたいして飛距離がなく、ただデビルホッパーに水を浴びせているだけ。

 なかなか雨のようにはならない。


 リエナはどうだ……ふとリエナのほうに目を移すと、やはり苦戦していた。


 リエナの水魔法は、デビルホッパーに遠く及ばない。

 リエナは悔しそうにしつつも、必死な顔で水魔法を放っていた。


 やはり無理か……うん?


 突如、空がもっと暗くなった?


 もともと黒い空が、更に暗くなったような気がする。

 と同時に、なにやら湿っぽい空気がこちらまで流れてきた。

 

「なんだ……もしかして、雨?」


 暗闇はやがてデビルホッパーの集団全てに広がり、目に見えるような雨をざあざあと降らせていった。


 だが、こちらの方には雨は降らない。雨と晴天の境目がはっきりと見える。


「おお! まさか、こんな時に雨が降るとは! 神が味方してるとしか思えねえ! さ、バリス様!」

「うむ!」


 エレヴァンの声にバリスは頷き、思いっきり雷魔法をデビルホッパーに打ち付けた。


 すると、まるで壁が崩れるかのように、デビルホッパーの死骸が海へ落ちていく。


「よし、いいぞ! リエナも雷魔法を!」

「は、はい!」


 リエナも同様に、雷魔法をデビルホッパーの大群に放った。


 大群の間に青い光が弾け、次々と死骸が海へ落ちていく。

 同時に、空も普通の雨空ぐらいの暗さに変わっていく。


「これなら、もう俺も大丈夫だな……」


 俺は水魔法から雷魔法に切り替え、持てる魔力を全て打ち付けた。


 この攻撃に、デビルホッパーの大群は一気に崩れ落ちる。


 空が明るくなるのと同時に、大量の死骸が落ちた衝撃か、高い波が発生した。


「やった!! なんちゅう、幸運だ!」


 エレヴァンは声を上げ喜んだ。


 しかも、デビルホッパーが消えると同時に、雨雲は晴れていく。

 雨は本当に一時的なものだったらしい。


 まるで狙ったかのようなタイミングに、バリスもきっと神々のお助けじゃとその場で祈るような仕草をした。


 その隣でリエナが目を輝かせて言った。


「さすがです! ヒール様!」

「え? い、いや、俺はただ普通に魔法を。ちょうど都合よく雨が降ってくれたから、倒せたんだ……」


 雨が降らなければ、きっとこうはならなかっただろう。


 そう、雨が降らなければ……でも、どうして急に雨が?


 まだ二か月足らずだが、俺はこの島の天候を見てきた。

 雨が急に降ることはなかったわけではない。でも、すぐに止んでしまうなんて……


 本当に神々とやらが俺たちを助けてくれたとしか思えない現象だ。

 でなければ、奇跡に近い。


 リエナは俺に頭を下げる。


「いえ、ヒール様の魔法があったからです。それより申し訳ございません……提案しておいて、全くお力にもなれず」

「いや、リエナはよくやってくれたよ」


 恥ずかしそうに、リエナはぺこぺこ頭を下げる。

 

 水を降らせるといって、たいして降らせられなかったと責任を感じているのかもしれない。


 でも、案としてはやってみる価値があったし、力不足なのは俺もだった。


 そんなことより気になるのは、リエナが手を向けた方向から、雨雲が起こったようなことだ。


 まさか……リエナが雨を降らせた?


 いや、あんな広範囲に降らせるのは無理だし、そもそも天候を操る魔法なんて不可能だ。 

 王国でもそんな魔法を使えるやつはいなかった……水魔法を使ったりして、雨が降ったと言い張るのはいたが。


「しっかし、どうしてあんなのがやってきたんでしょうかね。シザークラブといい、色々厄介なのが立て続けに来てるような」


 エレヴァンがそんな疑問を口にした。


 すると、バリスが答える。


「ふむ……近場に陸地がないため、この島に集まってくるのでしょうな。ここには豊かな自然もありますしのう」


 バリスの言っていることは、多分そうだと思う。

 だけど、デビルホッパーってこんな大群で来なかっただろうし……しかも、海を越えるなんて話は聞いたことがない。


 しかも……


 生き残りであろうか、デビルホッパーの一体が飛んできた。


 しかし、塔の下にいるゴブリンの放った矢で撃ち落されてしまう。


「……心なしか、大きいな」

 

 俺は落ちていくデビルホッパーを見て、そう呟いた。


 普通は人間の頭ほどの大きさだと聞く。

 だけど、今撃ち落されたのはそれよりも大きく見える。


「あ、まだ生き残りがいるみたいでさあ。アシュトン、ハイネス、俺らもやるぞ」

「おう」


 まばらに飛んでいるデビルホッパーを倒しに、エレヴァンたちは塔の下へ降りていった。


 デビルホッパーは何かを目指している。それは方角からして、きっと世界樹で間違いない。


 自然を求めてやってくるのは何もおかしくはないが……


 でも、リヴァイアサンにシザークラブ……そして埠頭近くに集まる大き目の魚や貝ときて、今度はデビルホッパー。なんだか、来襲する頻度が上がってきている気がする。


 何故集まるかは分からない……だけど、このままいくともっと強大な何かがやってくる気がする。


 王国などの人間が相手になるのも恐ろしいが、それ以上に自然は脅威だ。

 

 いずれにせよ、今以上に防備を固めないといけないだろう。


 でも、これ以上の防備か……

 マッパゴーレムといい、過剰すぎる防備だと思っていた。それがこうも簡単に上をいく事態が発生するとは。


 力をつけるだけでなく、やっぱ今回みたいに少し頭を使わないといけないのかもしれないな。

 バリスは切れ者だが、より戦争に詳しい軍師みたいなのもこの島には必要かもしれない。


 あれこれ考えていると、リエナが俺の顔を覗くように心配そうな目を向けた。


「ヒール様、どこか調子でも?」

「……いや、大丈夫だ。って、その手のは……」


 リエナの手には、丸焦げのデビルホッパーが。


「はい、デビルホッパーの丸焼きです。これもキラーバードに負けないぐらい、美味しいんですよ!」


 リエナはデビルホッパーの脚を掴んだまま、俺にそれを差し出す。


「こ、これを食べるの!?」

「はい! 栄養豊富で、私も昔から食べてました! また食料ゲットしちゃいましたね」

「そ、そうなんだ……あ、俺は後でいいや」


 リエナは嬉々として言うが、とてもじゃないが俺は、食べられない。


 でも、この島の魔物たちにはご馳走のようで、見ると打ち寄せられたデビルホッパーの死骸を皆回収している。


 マッパもいつのまにデビルホッパーを丸ごとむしゃむしゃと食べているようだ。生で。


 この後、俺たちはデビルホッパーを冷凍し、貯蔵するのであった。

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